花田菜々子、新井見枝香、大塚真祐子……多様な発信で本を読者に届ける書店員たち

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2021年05月12日 14:21  リアルサウンド

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 本稿は、渋谷センター街の入り口にある大盛堂書店で文芸書担当として働く山本亮が、書店員としての日々を送る中で心に残った作品や、手にとった一冊から思考を巡らせるエッセイ連載である。(編集部)


 文章を書いて各媒体で発信している書店員は多い。例えば今年ドラマ化された『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年のこと』著者の花田菜々子や、いくつかのエッセイ本を刊行し、各地のストリップ劇場で踊り子としても活動している新井見枝香が挙げられる。店頭で本を販売する目線を保ちながら、自分なりの感想や考えを入れた書評やエッセイを読むたびに、色々勉強になるし触発される。


 そういった書店員による多種多彩な文章のなかでも、特に注目しているのが三省堂書店に勤務する大塚真祐子だ。現在、雑誌や各ウェブサイトで執筆しているが、最初にこの人凄いなと思ったのが、2016年に「図書新聞」に掲載された写真家の植本一子の数年間の日常を綴ったエッセイ『かなわない』(タバブックス)の「危険な本」と題した書評だった。(http://toshoshimbun.jp/books_newspaper/week_description.php?shinbunno=3248&syosekino=9218)


関連:【画像】大塚真祐子が解説を書いた伊藤比呂美『ウマし』(中公文庫)


 作家が一番叫びたい感情を的確にくみ取り捉える技術が素晴らしいのだ。審美眼の確かさと言っても良いだろう。


〈植本さんの文章はファインダーのようだ。ファインダーは「そこにある」ものをひとしく映す。可憐な花と踏みにじられた草が隣りあっていれば、それらは同じ枠の中、同じ重みで切りとられる。〉


 また感想と大塚のプライベートに関することの配分も絶妙だ。著者が描く簡単には収められない日常を尊重しながら、控え目だけど自らを絡めて独自の視点から魅力を代弁し、思わず本書を読みたくなる、バランス感覚が優れた文章を次々に綴っていく。


〈『かなわない』を読むときのわたしは母でも妻でもなく、欲望と狡さをかかえたひとりの人間だった。それは子どもを産んでからしばらく忘れていた個人の時間だった。句点でかろうじて閉じられる、植本さんの一日の記録を読み終えるたび、わたしはいつも夜にいるような気分になった。〉


 今年3月に刊行された伊藤比呂美『ウマし』(中公文庫)の巻末解説も素晴らしい。この本は個人的にも時折楽しんでいる、食や、海外国内における伊藤の日常を中心としたエッセイ集だが、文庫化されるにあたって解説を書いたのが大塚だと聞き、常に忖度ない言葉で人の心を響かせる伊藤の作品にぴったりだと思った。


 改めて読んでみると、やはり本の始まりから解説の終わりまで、2人の息が合っている。全く別々の人生を歩んでいるのに、気が合うとか価値観が同じであるという説明しやすい理由ではない、生きていくなかで抗えない流れの中にいた2人が、奇跡というより必然に出会ってシンクロしていく。その自然体の光景に、一瞬を切り取ったような大塚自身のそれまでの来し方が、流れながら映し出される。


〈たとえば生ぬるい風の吹きすさぶ夜半、蛍光灯の平板な明るさにさらされて、家までの道を一歩また一歩と、足を進めるごとに自分の体が音もなく削がれていくような、刺身のように筋や血管をすきとおらせ、来た道を削がれた自分がおり重なっていくような感覚におそわれ、もうだれかの正しさを生きるのに疲れ果てた、わたしはあなたの母でも娘でも妻でも恋人でもなく、本当は欲望の在処をなぞってくれる指がほしいだけなのに、指がすぐ意味になろうとすることにもうんざりして、わたしはひたすら感情ではみ出したい、どこまで間違えてわたしはわたしをわからなくしたい、と思ったとき、わたしには伊藤比呂美の言葉があった。それは暗闇をするする伸びて、わたしの目の前へと流れてきた。次から次へと流れてきた。〉


 著者に呑まれるわけでも追従するのでもなく、飽くまでも伴走するという姿勢が見えてくる。それはおそらく作家を尊重する上での譲れない矜持なのだろう。とても評者としての真摯な想いが表れている。


 筆者の知人の書店出版関係の人から、大塚が作家からいかに信頼されているかという評判をたびたび聞く。それは彼女が色々配慮をし丁寧に陳列した売場を、一人の来店客として訪れて見ても頷けるのではないだろうか。正直、つくづくかなわないと感じるのと同時に、こういう人が書店員でいることを同業者として誇りに思っている。


(文=山本亮)


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