私には、ベトナム人としてのプライドがある

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2021年05月13日 07:02  @IT

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写真豊橋技術科学大学入学前のタケオさん(右端)とご家族
豊橋技術科学大学入学前のタケオさん(右端)とご家族

 国境を越えて活躍するエンジニアにお話を伺う「Go Global!」シリーズ。ベトナムのオフショア企業「New IT」を経営し、越境HRプラットフォーム「Linkus」で、外国人の就業や雇用をサポートする活動もしているNguyen Manh Hung(グエン・マン・フン)さんのインタビュー。



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 周囲から「タケオさん」と呼ばれるマン・フンさん。前編では、ドラえもんの想像力に憧れ、タイムマシンに乗るような気持ちで日本にやってきたタケオさんの青春をお届けした。後編では、アクセンチュア勤務の後、起業にいたったいきさつや日本への思いなどを伺った。



 聞き手は、アップルやディズニーなどの外資系企業でマーケティングを担当し、グローバルでのビジネス展開に深い知見を持つ阿部川“Go”久広。



●寝ても、覚めても



阿部川“Go”久広(以降、阿部川) ハノイ工科大学を卒業後、日本で少し働き、豊橋技術科学大学の修士課程を修了してアクセンチュアに入社されたのですね。そこではどんな業務を行っていたのですか。



Nguyen Manh Hung(グエン・マン・フン、以降タケオさん) アクセンチュアは世界的なコンサルティング企業ですから、日本でも多くの案件が、大企業の基幹システムのコンサルなど大規模なものでした。私は保険業界の担当となり、保険の申し込みシステムを開発するチームの一員として、新規開発、補修、追加の開発なども行いました。



阿部川 特に大変だった仕事など、ありましたか。



タケオさん 7年ほど務めたので、いろいろなことがありました。最初のころは、外国人ということもあって、仕事に不慣れな部分も多かったと思います。先輩も後輩もとても優秀だったので、たくさん助けてもらいました。



 もちろん企業ですから、いつでも順調で晴れの日ばかりではありません。それは人生と同じですが。システム開発も、必ずしも顧客の要望通りにできるときばかりではなく、まだソリューションがないとか、問題自体が難しいとか、本当に真剣に思考を重ねないと実現できないことはたくさんありました。



 最終電車の中でも解決できない問題で頭がいっぱい、ということはよくありました。うまくできなかったことが、一晩寝て翌日出社したらできた、といったこともありました。睡眠も大事ですが、眠っている間も考えちゃって(笑)。そんなことが忘れられないですね。



 私は困難なことを解決するのが結構好きなので、解決策を見つけると、救われたような気持ちになりました。理系ですから、ソリューションを考えるのが好きなのです。



阿部川 それはずーっと考え続けるからできるのですよね。大変だったけれど、というか、大変だったので楽しかったのですね。



タケオさん 作ったシステムがコマーシャルなどで紹介されると、達成感というか、本当に良い気持ちになりました。自分のやったことが人の役に立っているなあと実感できました。



●ベトナム人としてのプライドがある



阿部川 7年間のアクセンチュア勤務の後、エボラブルアジアソリューションズで仕事をされますが、これはいわゆるオフショアですか。



タケオさん はい、そうです。アクセンチュアでの日々は、仕事や先輩後輩との関係など大変充実していましたが、「自分はベトナム人で、しかもITもできる。もったいないのではないか」と思ったのです。そろそろ何か、ベトナムと関係がある仕事ができるのではないかと考えて転職しました。



 エボラブルアジアソリューションズは当時社員5〜6人の小さな会社だったので、全員がいろいろなことを掛け持ちで仕事をしていました。私はアクセンチュアで培った知識を総動員して、案件の管理や顧客管理、プリセールスもポストセールスもやりました。さまざまな業務をどうやってバランス良くこなすかが大変でした。



 それまではエンジニアとしての仕事が中心でしたから、自分のことだけに集中すれば、ある程度成果が出せたのですが、管理や営業をやると、想定できないいろいろなことが起こります。「まだ知らないことがたくさんあるなあ」と思いましたが、立ち止まってはいられないので前向きに勉強しました。ここで、マネジメントや管理を体験し、学んだと思います。



阿部川 そして2018年9月に「New IT」を設立なさったのですね。ベトナムのオフショアを専門とする企業、ということでしょうか。



タケオさん 未来永劫(えいごう)オフショアだけをやる、というわけではありませんが、まずは毎日のご飯を食べないといけませんので(笑)、今はオフショアが中心業務です。



 なぜ、わざわざ会社を設立したかをお話しします。今まで日本でオフショアというと中国がメインでした。しかし中国経済の発展に伴って、彼らの関心はより大きな経済発展やスタートアップに移り、日本から関心がシフトしていったように思えます。



 現在は中国に変わって、ベトナムでのオフショア開発が徐々に増えてきました。とはいえ、ベトナムでのオフショアでは単純な作業しかできないとか、品質が低いとかいった問題があるとよく耳にします。それを何とか変えたい、というベトナム人としてのプライドがあります。



 オフショアと一言でいってもそのやり方はさまざまなので、私なりのやり方で、品質の高いオフショアをやりたいと思ったのです。もちろん、費用面で割安であることも大切ですが、それにプラスして、日本企業が得意とする品質の高いサービスも提供したい。それがやりたくて起業しました。現在社員は26人、ホーチミンに半分以上、東京には6人程度のスタッフがいます。



阿部川 このくらいの規模の会社ですと、何もかも掛け持ちでやらないといけないでしょうから、大変ではないですか。



タケオさん 規模を拡大していくとマネジメントが難しくなることは想定していました。ですから、それよりも「自分がやりたいことをうまくやるにはどうしたら良いか」を第一に考えています。今後は、誰が私の代わりになって働くといいのか、なども考えています。



阿部川 加えて、「BEENOS」の仕事もされているんですね。



タケオさん はい。弊社の事業には2つの軸があります。1つは、直接顧客と話してさまざまなソリューションを提案すること。もう1つは、BEENOSのビジネスパートナーとしていろいろな案件に参加し、業務を遂行することです。BEENOSの「国の壁を越えて、世界に対してビジネスを提供する」という考えは、私も同じなので、協働させていただくことになりました。現在は弊社のベトナムオフィスも巻き込んで、「Linkus」や越境ECプラットフォームなど、5つのプロジェクトを並行して横断的に行っています。



●安全な場所からちょっと外に出てみませんか



阿部川 コロナ禍で、仕事の進め方などに大きな影響はありました。



タケオさん IT業界は、コロナの影響に一番対応しやすい業界ではないかと思います。基本的にPCとインターネットがあれば仕事ができますから。



 とはいえ、コロナが感染拡大しつつあった早期の段階で、BEENOSから「今後は皆在宅勤務でいいです」と言ってもらったことには、とても感謝しています。社員を守ることで会社を守り、またそれは社会を守ることにつながる。その意味では「仕事に影響はない」と言えると思います。



阿部川 10年後にタケオさんは何をやっていらっしゃるでしょうか。



タケオさん やりたいことはたくさんあります。1番大きな目標は、イノベーションを通じて社会に貢献することです。また、なぜ自分が日本に来たのかを考えると、それ自体がチャンスなので、それをより生かした会社経営をしたい。具体的には、誰でも、好きなときに、好きなところで仕事ができる、そんな環境を会社に作りたいと思います。



 日本オフィスでは現在でもある程度実現していますが、ベトナムオフィスにも広げたい。また私のように来日して仕事がしたい人に支援も行いたいと思っています。さらに、今後ITはもっともっと社会の基盤になっていくので、ITの力で世界の問題を解決できるようなサービスを開発したいです。自分で全て開発しなくとも、案件の一部をお手伝いすることで、全体として社会に対して貢献することも、素晴らしいと思っています。



 現在、日本の技術者不足を海外からの技術者に支援してもらうプロジェクトを行っています。このような貢献はもっとできるし、もっと良いサービスを付加することもまだまだできると思っています。



阿部川 今でも日本が好きですか?



タケオさん はい。日本の武道がとても好きです。日本の食べ物も大好きで、特にお刺し身が好きです。日本の歴史も大好きで、特に明治維新からの明治、第二次世界大戦の後、この2つの時期に大変興味があって、本やWikipediaで学んでいます。日本の歴史の中でも激動の時期で、とても興味深いと思います。日本は私の第二の故郷です。



阿部川 最後に、日本の若いエンジニアたちにメッセージをいただけますか。



タケオさん これは個人的な考えですが、日本には、世界的にも高い教育環境で育った素晴らしいエンジニアがたくさんいると思います。アクセンチュアの先輩後輩にもたくさん優秀な方々がいらっしゃいました。でも私から見ると、皆さんは、いつもちゃんとした状態というか安全な場所にいるように思えます。



 もっとイノベーションが必要ではないでしょうか。私は、日本の方々は、もっとオープンに、そしてもっと枠を取り払うようなイノベーションを行える方々だと思います。私はそう信じています。



 イノベーションを行うためには、心を開いていくといいと思います。日本に、特に東京には、外国人がたくさんいます。でも外国人の間では、日本人の友達を作るのは難しいといわれてきています。もうちょっと心を開いて、たくさんの外国人の友達ができれば、考え方もだんだん変わってくる、そうすると自然に枠の外に出ることができる。そんな小さなことの積み重ねが、大きな効果につながると思います。



インタビューを終えて Go’s thinking aloud



 私が尊敬する浜野製作所の浜野慶一CEOは、起業は「まずやってみる。ダメなら元に戻ればいいだけ」と言い、しかし「事業の目的がフラつく人は逆境に弱い」とも教えてくれる。タケオさんほど事業の目的が真っすぐな人も実は稀有(けう)だ。起業の理由をたずねると、「日本とベトナムへの恩返し、社会に対する貢献」とよどみなく答えてくれた。すがすがしかった。



 どんなに貧しくとも、親は何とかして子どもたちのために生計を豊かにしようと身を粉にして働き、子どもはその背中を見て真っすぐに育つ。戦中戦後の日本も、そんな真っすぐが当たり前の国だったはずだ。日々の売り上げや市場での競争に翻弄(ほんろう)されることはビジネスでは当たり前のこととしても、同時に、100年先のドラえもんへの夢を見失わないことこそ、尊敬してくれる国々の方への、私たちの責務ではないだろうか。



阿部川久広(Hisahiro Go Abekawa)



アイティメディア 事業開発局 グローバルビジネス戦略室、情報経営イノベーション専門職大学(iU)教授、インタビュアー、作家、翻訳家



コンサルタントを経て、アップル、ディズニーなどでマーケティングの要職を歴任。大学在学時より通訳、翻訳も行い、CNNニュースキャスターを2年間務めた。現在情報経営イノベーション専門職大学教授も兼務。神戸大学経営学部非常勤講師、立教大学大学院MBAコース非常勤講師、フェローアカデミー翻訳学校講師。英語やコミュニケーション、プレゼンテーションのトレーナーとして講座、講演を行うほか、作家、翻訳家としても活躍中。


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