【三浦愛の突撃ドライビング取材/第2回】“天才肌”の福住仁嶺選手に聞く、スムーズさと限界の見極め方

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2021年05月13日 13:01  AUTOSPORT web

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福住仁嶺選手(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)にインタビューする三浦愛さん
2021年も全日本スーパーフォーミュラ選手権のピットリポーターを務めるほか、レーシングドライバーとしてスーパー耐久をはじめとしたさまざまなカテゴリーに参戦中の三浦愛さん。今シーズン、オートスポーツwebでは、三浦さんの目線で気になるスーパーフォーミュラドライバーに突撃取材を敢行し、同じドライバー目線で気になることをぐいぐい質問していく企画『三浦愛の突撃ドライビング取材』がスタートしました。

 第2回目の突撃取材のターゲットはDOCOMO TEAM DANDELION RACINGの福住仁嶺選手。第2戦鈴鹿では初のポールポジションを獲得したほか、スーパーGTでもライバルが警戒するほどの速さをみせ、注目を集めています。

 三浦さんは、昨年のインタープロト第2大会で福住選手と同じマシンをシェアしてジェントルマンクラスに参戦し、走行データの共有など、間近で福住選手の走りを見てきました。その中で彼女が湧いてきた“福住選手に対する疑問”とは?

「私は、福住選手はカートの頃から“天才”だと思っていて(笑)。一緒にインタープロトのレースで同じクルマをシェアして参戦させてもらいましたが、その時も、やっぱり『うまい!』というか、すごくスムーズな走りをするのが、彼のドライビングの特徴だなと思いました」

「その中で、どうやってクルマ、タイヤのグリップの限界を感じているのだろう? と疑問に思いました。よくステアリングを修正する人は、限界を超えて(ステアリングを)戻して、超えて、戻してという動かし方をする人が多いですが、あのスムーズさで、どうやって限界をつかんでいるのかが気になって……今回聞いてみようと思います!」

 さて、三浦さんと福住選手のドライバーズトークをお楽しみください!
(この取材は第2戦鈴鹿大会直前の4月23日に行いました)

【“天才”と言われる福住選手のドライビング】

三浦:あの、いきなりなんですけど……。

福住:はい、何でもどうぞ。

三浦:福住選手って、カートの頃から速くて“天才”という印象があるのですけど……。

福住:いやいやいやいや(苦笑)。僕自身はそうは思っていないです。天才だったら、もう優勝もして、チャンピオンも獲れていると思います。今のところはまだ(スーパーフォーミュラで)優勝もしたことがない状況ですからね。むしろカートの頃の方が、自分の感性で走っている感じはありましたけど、4輪に上がっていろいろなことを考えなきゃいけなくなってからは、自分の才能みたいなところは鈍くなったのかなと思います。

三浦:それは、4輪に上がってから自分のイメージしているようにクルマを動かせていないということ?

福住:それもあると思いますし、やっぱり4輪に上がれば、クルマを自分好みに作ることとか、クルマのセットアップを仕上げるというのも僕たちの仕事なので、そこができていない部分はありますね。

三浦:うまくクルマが決まれば、感性みたいなものが活かされる感じですか?

福住:たぶん、どのドライバーも同じかもしれないですけど……かと言ってダメな時は『自分の走りがダメなんだ』ってすごく落ち込みます。『自分に何が足りないのか?』『どうしたら自分に合ったクルマになるのか?』そういうところを、僕はもっと詳しくならないといけないのかなと。そういう苦労はしています。

三浦:クルマを作っていく上で、普段やっていることはありますか?

福住:プライベートの時は、あまり深くは考えて何かを……ということはないですね。でも、今は野尻(智紀)さんとスーパーGTで組ませてもらっていますし、スーパーフォーミュラでは(山本)尚貴さんと2年間同じチームで走らせてもらいました。いろいろなところを吸収して、真似できることは真似をして、チャンスはいっぱいもらってきています。そこで学んだことをしっかり忘れないように、きちんと復習をしないといけないなと、普段は意識しています。

【福住選手の“スムーズなドライビング”に迫る!】

三浦:速く走ることに関して、私が気になるのは、福住選手のハンドリングがすごくスムーズだということです。ステアリングの修正舵がすごく少ない感じがするんですけど……。

福住:本当は修正をあてるギリギリのところで走らないといけないし、他の選手はギリギリで走っているのかなと思います。逆に僕はそこまで行く前に“ちょっと滑っているな”という感覚があるので、そこまで行かないで走ってしまいます。

だから修正舵が少ないように見えるのだと思います。それが正しいか正しくないかは分からないですけど、そこでもっと攻めていったら実はタイムが出たということが、今までたくさんあったと思うので、そこは自分の良くないところなのかなと思うのと、あまり雑に走るというのが得意でないというか、ハンドルを切って戻してということをしながら速く走れたイメージはあまりないです。

もともとハンドルをあまり切らないようにと教えられたこともありますし、それ以上、ハンドルを切っても反応がないと……自分でどこか決めつけている部分があるから、切らないで走っているように見えるのかもしれません。

でも、予選でギリギリ一発を目指すときには、すごくアグレッシブに走った方がタイムが出るときもあるので、そのバランスを見つけるのは結構難しいですね。

三浦:そのスムーズさは、決勝でのバトルでも同じようなことが言える部分はありますか? 福住選手はアグレッシブにいくけど、クルマを壊すイメージが全然ないので……。

福住:その時の状況によりますけど、(バトルでは)あまりリスクをとるタイプではないですね。だから、面白くないとも言われる部分もあります。でも、その時のポテンシャルが高ければ、自信もあるから“行ける”と思うし、逆に目一杯走って厳しいと感じる状態なら、バトルを仕掛けられずに守りのレースになってしまいます。でも、その中でもすごく大きなアクションを起こすタイプではないです。それも、良くないことをいろいろ考えている証拠なのかもしれません。

三浦:やっぱり最終的にチェッカーを受けることが大切じゃないですか。そういうことも頭にあって“行かない”という選択になることもあるのですか?

福住:それもありますし、特に前にいる時ほどリスクを取らないようにと考えてしまっています。やはり、レースは優勝以外は負けと同じだと思うので、そういう気持ちも僕の中では変えないといけないなと思う部分もあります。余計なことばかり考えちゃうから、たぶん、今もうまく行っていないというか、なかなか優勝できていない理由のひとつなんだと思います。

三浦:外から見ると、これだけ速さがあるのに、どうしてそんなにネガティブに考えてしまうのだろうって思うんですよね。

福住:結果を残せば、また変わってくるとは思うのですけど……僕には実績がないんでね。『これが僕の実力なのかも』と思ってしまう時が正直あります。でも、どの選手を見てもダメな時はダメだし、良い時は良いというリズムがあると思うので『次は自分の番!』と思って、今はひたすら耐えています。そしてチャンスが来た時に、それを自分のものにするためには、自分のメンタルの強さや、レースでの強さも大切になってきます。そこはしっかりと鍛えたいと思っています。

【家族の支えの大きさと、福住選手が考える“理想の選手像”】

三浦:お決まりの質問になっちゃいますけど、結婚して、メンタルの部分も変わった?

福住:多少は変わりますね。背負っているものがたくさんあると今は思えるし、それによってプレッシャーになるよりかは、頑張ろうという気持ちの方が強くなっています。愛する家族のために、頑張って今後を支えて行かないといけないです。尚貴さんみたいに“カッコいい旦那”でいたいので、そうなれるように頑張りたいです。

三浦:福住選手の親しい先輩というか、師匠みたいな人はいますか?

福住:師匠みたいな人は……いないですけど、よく話してくれて助けてくれたり、いろいろ気にかけてくれるのは、やっぱり尚貴さん、そして野尻さんですね。でも、レース界で言ったら(師匠みたいな人)あまりいないですね。


三浦:福住選手が目指す理想像みたいな部分でいうと、山本尚貴選手になりますか?

福住:国内で言うとそうですね。やはり尚貴さんは予選がダメでもレースで前に来る力がすごくありますよね。海外のドライバーを含めてで言ったらマックス・フェルスタッペンですね。“自分”を強く持っていて、我が道を行きながらもクルマを速く走らせて、結果を残す時はメチャクチャ強いレースをします。そういうところは僕が求めているところです。

【インタビューを終えて/三浦愛さんの感想】

「外から見るとネガティブに見えてしまったり、謙遜しているように思いますけど、福住選手は自信がないのではなくて、常に上を目指してレースに取り組んでいることを強く感じました。普段はあまり表に出さないけど、“もっと上に行きたい”という気持ちがすごく強いドライバーなのだなと思いました」

「たぶん、並外れた感性を持っているからこそ周りからは理解されにくい悩みがあったのだと思います。クルマやチームを大切にしているからこそ、無理をしないというか、きちんと冷静な判断でバトルができるし、攻めどころも見分けられる。福住選手はプロのレーシングドライバーとして“冷静な目と繊細なセンサー”を持っているのだなと思いました」

 次回もスーパーフォーミュラに参戦するトップドライバーに、突撃インタビューを予定。今度は誰に、どんな質問をするのか……お楽しみに!

【プロフィール】
三浦愛(みうら あい)
1989年生まれ。カートで実績を重ね、フォーミュラチャレンジ、全日本F3選手権などに参戦。2014年には全日本F3Nクラスで日本人女性初優勝を飾った。2021年はスーパー耐久に参戦しつつ、スーパーフォーミュラではテレビ中継の現場解説を務める。
三浦愛 公式HP

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