杉野遥亮「初の舞台に挑む自分のなかからは葛藤や揺れも生じてくる。そんな内面を同じ空間で共有しつつ、心の奥底を揺り動かす“家族”の姿を目撃してほしい」

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2021年05月15日 15:11  ダ・ヴィンチニュース

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写真杉野遥亮さん
杉野遥亮さん

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。

King Gnu 常田さん/他がままに生かされてスピンオフ企画「僕を生かしてくれた人たち」

 20世紀アメリカ演劇を代表する劇作家ユージン・オニールによる自伝的傑作の舞台『夜への長い旅路』に出演する杉野遥亮さん。毎月3人の旬なゲストがこだわりのある1冊を選んで紹介する、雑誌『ダ・ヴィンチ』の巻頭人気連載「あの人と本の話」に登場してくれました。初の舞台作品となる本作への思い、そして昨年の自粛期間中、ひたすら読み続けていたという、少年マンガの金字塔に寄せる想いを伺いました。

「これまで『ONE PIECE』読んできたことがなかったんです。けれど昨年のコロナ禍による自粛期間中、ぽっかり時間が空き、『鬼滅の刃』全巻一気読了の勢いで、“そうだ、この機会に『ONE PIECE』を読んでみよう!”と。そうしたら止まらなくなっちゃって、朝から晩までひたすら読み続けていました。1週間くらいで90巻越えを制覇し、『週刊少年ジャンプ』の連載に追いつきました。連載中のワノ国編、大好きです!気づけば今、一番、好きな作品です。カイドウとビッグマムが戦う前、“よっしゃ、行くぜ!”みたいに、麦わらの一味が並んだ絵には胸を打たれちゃって」

 すべてのことがストップした昨年の自粛期間の時間は、杉野さんにとって、自分を深く見つめる時間になったという。

「物質的に自由になるのではなく、精神的に自由になりたいって、悶々と考え続けていました。そこに、自分に正直に生き続けているルフィたちの姿が寄り添ってきて気付いたんです。“俺はルフィになりたかったんだ”って。というより、人はみんな本来、それぞれルフィなんだって」

「自分の軸で生きてない」。数年前から、その軸をずっと探していた。そのころ、杉野さんにとって、初めての舞台作品となる『夜への長い旅路』の出演オファーは来たという。

「1年半か2年前くらいのことでした。あの頃は人を頼りにし、他人の声や評価で自分を知る、みたいな感じだったんです。だからいつもすごく不安だった。この舞台のお話をいただいたときも“大丈夫かな、できるかな”って」

 けれど、映画、ドラマをはじめ、数多の経験を丹念に積みあげ、その芝居が伸びやかさを増してきたとともに、杉野さんのなかでも、自分の軸は少しずつ見えてきたという。

「そうした月日を重ね、コロナ禍も経てきたなかで、役者としても、ひとりの人間としても、考え方、感じ方が変化してきた。自分の内にある余計なものを削ぎ落してきたなか、今はとてもフラットな気持ちなんです。舞台の稽古が始まろうしている今、まだまだ怖さはありますが、楽しみ、という気持ちの方が大きくなっている」

 同作はシアターコクーンが海外の才能と出会い、新たな視点で挑む演劇シリーズ「DISCOVER WORLD THEATRE」の第10弾。そのシリーズでの舞台づくりは4作目となる、イギリス演劇界、気鋭の演出家・フィリップ・ブリーンとの対話からも、前に進む力をもらったという。

「フィリップさんが『僕の時間はあなたの時間です』と言ってくださったとき、すごく心強くなって、“あぁ、もうこれで怖さは捨てられる”と思いました。初めてのことを経験する怖さとプレッシャーもあったと思うんです。初の舞台で会話劇ということもそうだし、錚々たる方々とお芝居をするなかで、自分がその空気を壊してしまわないだろうか、ということも。けれど、そう思ってくださる方がいるから、僕は大丈夫だなと」

『夜への長い旅路』は、“アメリカ近代劇の父”と称される劇作家、ユージン・オニールの遺作であり、オニール自身の青春時代における凄惨な家族の姿を描いた自伝劇といわれる。戯曲冒頭に付けられた妻への献辞のなかで、彼は“血と涙で綴られた、古い悲しみの劇”と記している。杉野さんはオニール自身が投影された次男・エドマンドを演じる。

「脚本を読み、その言葉を発し、動いていくうちに、いつのまにか自分のなかにエドマンドの核ができているという感じなのだと思います。過去に翻訳された戯曲を読んで感じたのは“人間ってこうだよね”ということ。家族って本来は、切っても切れない関係性のなかにあると思うんです。ゆえに“こうすれば、もっと変わる”という可能性だって秘めている。けれど痛みが伴いそうになると、人はその“こうすれば”がなかなかできない。本作の家族は、その関係性のなかにある哀切や怒り、後悔や絶望、愛と憎しみを表出させていく」

 それはきっと今の世の“家族”という関係性の池に一石を投じるものになる。

「たとえば幼い頃から、親に対して思っていること、不満に感じていることもある。でも、波風を立てたくないがゆえに、つい、話すべきことを話さなかったり、見て見ぬふりをしてしまう。そこに一滴、何かを垂らすだけで、何かちょっと状況は変わっていくんじゃないか? と思うんです。そのことに、この作品は目を向けさせてくれる。この家族は“心”で動いているんです」

 きっと、この舞台で杉野遥亮の新たな扉が開く。

「外側ではなく、僕の内面を観ていただきたいと思っています。自分にとって初めての舞台という場所は、何が起きるかわからないところでもある。これまでずっと演じさせていただいてきた映像作品の現場とは異なるものが、自分のなかから必ず現れてくると思います。そこでは、きっと葛藤や揺れだって生じてくる。そうした部分も共有しながら、エドマンドという役を、そして心の奥底を揺り動かす、家族の姿を見ていただきたいなと思います」

取材・文:河村道子 写真:山口宏之ヘアメイク:NEMOTO(HITOME) スタイリスト:伊藤省吾 (sitor) 衣装協力:シャツ3万1900円(税込)(ウジョー/エム TEL03-3498-6633) 他スタイリスト私物

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