『少年ジャンプ』副編集長が語る“最強の企画”「描きたいことを好きに描いていいと知ってほしい」

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2021年05月17日 10:01  リアルサウンド

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写真少年ジャンプ編集部に訊く、“最強の企画”とは?
少年ジャンプ編集部に訊く、“最強の企画”とは?

 『少年ジャンプ』編集部が、本気でマンガの世界を志している若い人たちに向けて刊行した『描きたい!!を信じる―少年ジャンプがどうしても伝えたいマンガの描き方―』(集英社)という本が、いま注目を集めている。そこで、同書の企画・編集者である齊藤優氏(『週刊少年ジャンプ』副編集長)に、これから先の未来を作っていく新人作家の重要性や、なぜいまこうした新しい世代に向けたマンガの教則本を出したのか、そして、そもそも「おもしろいマンガ」とはいったい何か――などについて訊いた。(島田一志)


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■多くの人が「マンガを描きたい」と思える本を


――かつては石ノ森章太郎先生の『マンガ家入門』をはじめ、若い人たちに「マンガを描きたい!」と思わせるような名著がいくつかあったものですが、そういう本はここ最近ではめっきり減っていますよね。もちろん、高度な作画テクニックや物語作りの理論が書かれた専門書はそれなりの数が出版されていますが、今回の『描きたい!!を信じる』のような、初心者に向けて広く、マンガを描くことの楽しさや厳しさを伝えようとしている本はあまりないような気がします。


齊藤:おかげさまでここ2、3年は『ONE PIECE』をはじめとする長期の人気連載以外にも、『鬼滅の刃』や『チェンソーマン』、『呪術廻戦』といったヒット作・話題作が立て続けに生まれているせいか、もともと多かった新人作家の持ち込みや投稿の数が、さらに増えているんです。そしてありがたいことにその数は一向に減りそうにありません。だったらそうした、初めてマンガを描こうとしている若い人たちに向けての「新しい入門書」を出そうか、というのがそもそもの発端でした。


 おっしゃるように、いまは専門的なマンガの技法書はたくさんありますけど、その前の段階の、つまり、マンガを描き始めたばかりの人たちに向けた本は少ない。いきなりキャラクター・メイキングがどうとか、ハリウッドのストーリー構成が……といわれたって、ほとんどの人はついていけない。そういう小難しい理論は置いといて、まずは描きたいことを好きに描いていいものなんだと知ってほしい。だから本書の最大のテーマは、タイトルにもあるように「描きたい!!」という気持ちを信じよう、ということなんです。


 もちろん、デジタル・アナログ両方の作画の方法など、あくまでも初歩的なものではありますが、テクニック面での情報も充実していますので、技法書としての実用性もあるかと思います。


――本のおおまかな流れとしては、マンガ家志望の「コーセイ」君に、『少年ジャンプ』編集部の「サイトウ」さんたちがマンガ作りのノウハウを一(いち)から伝授していくという会話劇、つまり、ある種の「物語」が縦軸としてあるので、非常に読みやすいですね。


齊藤:ありがとうございます。なので読者の方は、まずは本書の「主人公」であるコーセイ君になったつもりで読み進んでいただけると、よりリアルな形でさまざまなマンガの作り方が頭に入ってくるかと思います。


■新人作家が未来を作っていく


――『少年ジャンプ』という雑誌は昔から、予想もつかないようなマンガを描く新人がいきなり現われ、時代を変えていくような印象がありますが、やはり編集部としては、新人作家の育成にはかなりの時間をかけていますか。


齊藤:はい。私が新入社員の頃、当時の編集長に「マンガ誌の最強の企画は、新人作家の新連載」と教えられたのですが、本当にその通りだなと。『ジャンプ』ではそのためにできるかぎりの投資もフォローもしています。むろん、雑誌や出版社によってそれぞれの考え方があっていいと思いますが、少なくとも『少年ジャンプ』編集部では、他誌の人気作家を引っ張ってくるというよりは、『ジャンプ』を第一に志望して来てくれた新人マンガ家さんと切磋琢磨して、ともにヒット作を作り上げていくケースが多いですね。


――ちなみに『ジャンプ』本誌や単行本などを作る通常の業務だけでもたいへんな仕事量だと思いますが、編集部のみなさんは、どれくらい新人作家と向き合う時間を作っているのでしょうか。


齊藤:具体的に計算はしていませんが、結構な時間を新人作家さんのために割いています。これは私に限らずだと思いますが、「ここからここまで」というふうにひとつひとつの仕事を区切っているわけじゃなくて、いろんなことを並行してやっているからこそできているんじゃないかと思いますね。


 いずれにしても、繰り返しになりますが、雑誌の先を見据えた場合、新人作家さんの発掘・育成こそが『ジャンプ』の編集者がもっとも力を注ぐべき仕事のひとつだともいえますから、自分が副編集長になったいまは、現場の若い編集者たちがその仕事になるべく多くの時間を充てられるように、陰からフォローしているつもりです。


■「おもしろいマンガ」とは「“新しさ”があるマンガ」のこと


――『描きたい!!を信じる』に話を戻しますが、この本では、「おもしろさは人それぞれだ」というようなことも書かれていますよね。齊藤さんはどういうマンガを「おもしろい」と考えていますか。


齊藤:「おもしろいマンガ」を言葉で説明するのはなかなか難しいものがありますが……個人的な意見では、「なんでもいいので、“新しさ”があるマンガ」です。「何もかも斬新!」を目指すとかなりハードルは上がってしまうので、まずは絵でも、テーマでも、言葉のセンスでも、なんでもいいんです。何かひとつだけでも読んだ人をオッと思わせる、新しい部分さえあれば。


 今回の本の中でも、尾田栄一郎先生が「マンガを描く時に心がけていることは?」という質問に、「新しいものを見せたい」と答えられていて、それを見た瞬間、脱帽しました。20年以上週刊連載でトップを走り続けながら、いまだにそういうことを考えられているわけですから。そういう怪物作家さんたちと同じ土俵で新人作家さんは戦わないといけないので、「何か新しいことやってカマしてやろう!」という企みはあったほうがいいでしょうね。


■同じ「お題」でも違うものを描くのが「作家」


――今回の本では、空知英秋先生や白井カイウ先生といった、複数の人気作家が同じ「お題」でネームを描かれていて、その企画ページは教則本である以前に、単に読み物としておもしろかったです。当たり前のことかもしれませんが、みなさんそれぞれ個性的なネームを描かれていて……だからこそ「作家」なんだなと。


齊藤:そう思います。「少年ジャンプ漫画賞」のTwitterでマンガに関する質問を受け付けているんですが、「自分がいま描いている作品は誰々の作品と被ってる気がするんですけど、このまま描き進めても大丈夫でしょうか?」という質問が多くて。もちろん、何もかも同じだと困りますが、「そもそも本当に被っているのかをもう一度考えてみて、とにかくまずは1作仕上げてみてほしい」と返事をすることが多いですね。


 さっきお話しした「何かひとつだけでも新しいところがあればいい」というのと同じことで、似たようなテーマやモチーフを扱っていても、「どこか、あなたならではの味はないのですか?」といいたい。「作家」ならたとえデビュー前の新人であっても、なんらかの「個性」はあるはずなんですよ。そのことのわかりやすい例として、プロのマンガ家に同じお題でネームを描いてもらったわけです。結果的には、コマの割り方から何からすべて描いた先生によって違っていて、たしかに読み比べるだけでも楽しいページになりましたね。


――もうひとつ、この本では、尾田栄一郎先生、久保帯人先生、堀越耕平先生、松井優征先生、白井カイウ先生、出水ぽすか先生、吾峠呼世晴先生、芥見下々先生、藤本タツキ先生などの複数のマンガ家さんに、それぞれの「マンガの作り方」について訊いたアンケートも掲載されていて、そのページも読み応えがありました。いずれも興味深い答えが書かれていますが、個人的には、「ネームを直すときに気をつけていることは?」という質問に対する、吾峠先生の「主人公と直接関係ないことや、ストーリーの主軸と直接関係ないことは極限まで短くするかカットします」という答えが印象に残りました。


齊藤:その吾峠先生の回答は、連載マンガを作るうえでもっとも大切なことのひとつだと思います。実はアンケートページの質問は、私たち編集部員ではなく、新人マンガ家さんたちに「ジャンプ作家にどんなことを訊いてみたいか」考えてもらったものが元になっています。編集者が考えた質問というのは、どうしてもこちら側が答えさせたい予定調和なものになりがちです。でも、この本に載っているアンケートの質問はマンガ家の卵たちから出た生の声なので、描いている人にはかなり実用的なものになっているはずです。たとえば、「1話の原稿を完成させるのにどの位の時間がかかりますか?」という質問がありますが、これなどは単純ですが編集サイドからはなかなか出てこないたぐいの質問だと思います。


——あと、このアンケートページの回答を見ていると、みなさん、よく映画をご覧になっているのがわかりますね。


齊藤:それについては少し補足したいことがあります。同じ視覚表現として、たしかに映画はマンガを描くうえでとても参考にもなりますし、刺激も与えてくれることでしょう。だからもちろん、いくらインプットしても損はありません。ただ、それは別に「マンガよりも映画を多く観ましょう」といっているわけではないんです。なぜならば、アンケートに答えてくださっているマンガ家さんたちは、すでに膨大な数のマンガを読み込んでいる・描いているうえで、映画をさらに観ているわけでして。


 なので、若いマンガ家志望者には、「マンガを描きたいなら、まずはマンガをたくさん読んでください。または気に入ったマンガを繰り返し読んでください」といいたいです。「これはちょっと自分には合わないな」と思うようなものでも、いま話題になっている作品には必ず何か学べる部分があると思いますので、好き嫌いせずに、最初はいろんなジャンルのマンガをたくさん読むことから始めてもらいたいですね。


■描かずにはいられない人たちを応援します


――デジタル技術の進化が著しい現在は、創作の面でも媒体・流通の面でもマンガが変わりつつある時代です。そういう変わり目の時代にあっても、本質的な「おもしろいマンガの形」は変わらないとお考えですか。


齊藤:これは楽観的な意見かもしれませんけど、近い将来、「マンガに似た新しい何か」は生まれるかもしれませんが、いま我々が作っているような従来のマンガの形が完全になくなることはないだろうと思っています。そもそもテレビが普及し始めた頃には「映画は終わる」といわれていたわけですし、そのテレビ業界の人たちも、家庭用のゲーム機が流行り出した頃にはある種の危機感を抱いていたかもしれません。ですが、結果的にはそれぞれのメディアが良い形で刺激しあって、エンターテインメントの世界全体を盛り上げていますよね。なので、この先、いろいろな表現の形が増えていくこと自体は、個人的には歓迎すべきことだと思っています。


――それでは最後の質問です。コロナ禍で流行った言葉のひとつに「不要不急」というものがありますが、ズバリ、マンガは不要不急ですか?


齊藤:「いいえ」とお答えしたいところですが、正直にいえば、不要不急の人もいるでしょうし、そうでない人もいるだろうと思っています。ただ、物語・マンガを読まずにはいられない人と同じように、描かずにはいられないという人だってたくさんいると思います。だとしたら、私としては、そういう人たちのためにできるかぎりのことを全力でがんばりたいと思っています。私個人は、もちろん物語がないと生きていけない側の人間です。そして、たくさんのマンガ家さんと接してきたので「描かずにはいられない」という人たちの気持ちもわかっているつもりです。なので今回の『描きたい!!を信じる』という本が、そういう人たちの力になってくれればいいと心から願っているんです。


■齊藤優プロフィール
2005年集英社入社、『週刊少年ジャンプ』編集部配属。歴代担当作品は『アイシールド21』『銀魂』『黒子のバスケ』『ニセコイ』『ワールドトリガー』他多数。その後キャラクタービジネス室を経て2020年より『週刊少年ジャンプ』編集部副編集長。


(取材・文=島田一志)


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