アフリカで「money!」とナイフを突きつけられた女性冒険家が、相手に伝えた言葉

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2021年05月17日 20:00  週刊女性PRIME

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週刊女性PRIME

眩しい笑顔が素敵!日の丸を広げる、走る冒険家・Ponちゃん

 拳銃を突きつけられて、ホールドアップ。

「命が惜しければ、金を出せ」

 日本では、なかなかない話。でも海外旅行では、国によっては、ありえない話ではありません。そんなとき、いったいどう対処すればいいのでしょうか?

「50ドルが命の値段です!」

 私がかつて、1986年に行われた『第10回アメリカ横断ウルトラクイズ』(日本テレビ系)に参加し、アメリカへ行ったときのこと。

 ハワイのチェックポイントで勝ち抜いてアメリカ本土に飛ぶことが決まった挑戦者たちに対して、番組スタッフから、およそ次のような注意がありました。

「皆さんは、これからアメリカ本土に上陸しますが、本土は観光地のハワイと違って、危険なことがたくさんあります。裏道に入ったら、昼間でも、拳銃を突きつけられてホールドアップされても不思議はありません。皆さんの誰かにもしものことがあったら、この番組は終わります。ですから、財布のなかに最低50ドルくらい入れておいて、いざというときは、財布ごと相手にあげてください。そうすれば、たぶん命は助かります。50ドルが命の値段です!

 この注意が本当のことなのか、本土行きが決まって浮かれている出場者たちの気を引き締めるための「おどかし」だったのかはわかりません。

 でも、この「命の値段が50ドル」というフレーズは、やけに印象に残りました。

生まれて初めての「ホールドアップ」!

 鹿児島に、「走る冒険家」こと、Pon(ぽん)ちゃんという女性がいます。本名は岩元みささんといい、生まれは1993年。

 もともと陸上競技をやっていて、高校を卒業後「私自身が挑戦する姿で、周囲の人を勇気づけたい!」と考え、冒険家になった方です。

 日本で開催されるマラソンだけでなく、世界一過酷と言われる『サハラマラソン』や『イラニアンシルクロードウルトラマラソン』などにも参加されています。2018年の『イラニアンシルクロードウルトラマラソン』では230キロを走破して、日本人初の完走者として話題になったこともあります。

 このPonちゃん。南アフリカのケープタウンで、現地人の男性にナイフをつきつけられて、「money!」とお金を要求されたことがあるそうです。

 治安の悪い国に行くこともある冒険家ですから、「いつかはホールドアップに遭遇するかもしれない」と覚悟はしていました。しかし、実際にそうなってみると、怖い……。冷静を装ったけれど、本当に怖かったそうです。

 おとなしくお金を渡せば、命は助かるかもしれません。しかし、Ponちゃんの頭のなかに、怖いながらも、こんな思いが浮かんできたのです。

(ここで私がお金を渡してしまったら、日本からの旅行者が、また同じ目に遭うかもしれない。そして、この人はこれからも同じ手段で、日本人やアジアの人たちからお金を奪い続けて生きていくことになるかもしれない。それは、どっちも嫌だ!)

 生まれて初めての「ホールドアップ」に恐怖を感じながらも、Ponちゃんはそう考えたのです。

ナイフをつきつける相手に伝えた言葉

 そんなことを考える間も、ナイフはずっと右の脇腹に突きつけられたまま。まさに絶体絶命。そのとき。

(この人は、きっと、愛が足りていない)

 Ponちゃんは、そう感じました。そして、携帯の翻訳機能を使って、こんな言葉を相手に伝えたのです。

「私は日本人です。日本人はアフリカ人のことが大好きです。私は、あなたと友だちになりたい」

 意外な言葉に驚く相手。すぐには受け入れられない様子。

 しかし、その後、何度か言葉をやりとりするうちに、相手は突きつけていたナイフをおろして、携帯にこんな言葉を打ち込んでくれたのです。

「Sorry」

(よかった! 心が通じた!)

 安心したPonちゃんは思いました。

(ここでこのままお別れしたら、この人は、あとから「あのときはうまく言いくるめられてしまった」と思うかもしれない……それも嫌だな……)

 そこで、提案しました。

「友だちになってくれてありがとう。ナイフをおろしてくれてありがとう。友だちになった記念に、一緒に買い物に行きましょう。あなたは、何が欲しいのですか?」

 聞けば、その男性。本当にお金がなくて困っていて、赤ちゃん用のオムツが欲しいと。Ponちゃんは「これは、友だちになった記念だからね」と念押しをしたあと、2人でオムツを買いに行き、仲よくお別れしたそうです。

 なんて素敵なホールドアップの話でしょうか!

 Ponちゃんは言っています。

「相手を脅して奪うのではなく、仲よくなって助け合うという関係性を、地球で生きていくみんなが大切にしていけたら、世界は平和に向かっていくと信じています」

 この話を聞いて思いました。

「本当にお金に困ったときは、人差し指を相手に向けて、ホールドアップのまねをする。それをされた相手は、“好意としてあげられる額”のお金を黙って渡してあげなくてはならない」

 そんな慣習を世界中で「約束ごと」にしたら、世界中から「物騒(ぶっそう)な本物のホールドアップ」がなくなるのではないか?

 ……と、そんな夢のようなことを考えてしまいました。

(取材・文/西沢泰生)

【PROFILE】
走る冒険家Ponちゃん(岩元みさ) ◎1993年7月4日生まれ。鹿児島県出身。『サハラマラソン(237km)』『ナミブレース(251km)』などで完走。2018年『イランシルクロードウルトラマラソン(230km)』では、最高気温63.1℃の中、日本人初完走。モチベーショナルスピーカーとして講演活動もしている。
『走る冒険家Ponちゃん公式チャンネル』→https://m.youtube.com/channel/UCz3Q8RMZ9L2_papwS_ZW0aQ

【著者PROFILE】
にしざわ・やすお ◎作家・ライター・出版プロデューサー。子どものころからの読書好き。『アタック25』『クイズタイムショック』などのクイズ番組に出演し優勝。『第10回アメリカ横断ウルトラクイズ』ではニューヨークまで進み準優勝を果たす。就職後は約20年間、社内報の編集を担当。その間、社長秘書も兼任。現在は作家として独立。主な著書:『壁を越えられないときに教えてくれる一流の人のすごい考え方』(アスコム)/『伝説のクイズ王も驚いた予想を超えてくる雑学の本』(三笠書房)/『コーヒーと楽しむ 心が「ホッと」温まる50の物語』(PHP文庫)ほか。

このニュースに関するつぶやき

  • 美談かな?たまたま助かっただけの話だと思う。本当の貧困層だったら生きるための食費を求めている、そもそも読み書きが出来ない、薬物で正気を失っている…可能性がある。
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