乾貴士、武藤嘉紀所属のエイバルの降格要因は? 小さな町の夢にサヨナラ

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2021年05月18日 17:21  webスポルティーバ

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 エイバルはスペインの北、バスク地方にある山間部の小さな町だ。

 人気アニメ『風の谷のナウシカ』の風情と言ったらいいだろうか。緑の山々に囲まれた景色は、中世ヨーロッパの匂いを残し、畜産や林業が生業となっている。人口は3万人に満たない。

 そんな町のクラブであるSDエイバルが、1部リーグに7シーズン連続で在籍したことは、そもそも奇跡に近かった。

 エイバルは2014−15シーズン、初めて1部リーグを舞台に戦っている。本拠地イプルアスタジアムはそれを機に5000人収容(現在は約8000人収容)に拡張されたが、それまでは3000人程度の規模だった。イプルアに隣接したマンションのテラスから、人々が試合を眺める風景は風物詩のひとつ。牧歌的クラブで、自前の練習場もない(人工芝の設備はあった)。チームは今もバスで30分以上かけ、隣町の練習場まで通っているのだ。

 日本代表の乾貴士が5シーズンにわたって在籍し、今シーズンはプレミアリーグから武藤嘉紀もレンタルで入団し、日本でも名前が知られるようになった。しかし依然として、予算規模は20チームの中で2番目か3番目に少ない。それがエイバルの実態である。

 2020−21シーズン第37節。エイバルはバレンシアに4−1で敗れて、最下位での2部降格が決まった。だが、それを「失敗」とするのは酷だろう。それでも7シーズン目はなぜ生き残れなかったのか、検証する価値がある。




「(コロナ禍で)無観客の試合のダメージが大きかった。本拠地イプルアでわずか2勝。思ったようにポイントを稼げなかった」

 2015−16シーズンから6年目の采配となるホセ・ルイス・メンディリバル監督は、降格理由を淡々と説明したが、それに尽きるだろう。ホームでわずか13ポイントは20チームで最低。アウェーで17ポイントは中位に近い数字だけに、ホームでの不振は明白だ。

 イプルアは小さなスタジアムであるが故に、観客が入ると熱が充満し、一体感が出た。選手はその後押しを受け、いつも以上の力を出し切り、敵はやりにくさを感じる。ホームアドバンテージが強く出た。それを失ったエイバルは、厳しい戦いを余儀なくされることになった。

 そしてコロナ禍は、もうひとつの不利をもたらした。5人まで選手交代が許されたことによって、戦力差があからさまに出てしまった。一丸となって最後まで戦い、ぎりぎりで勝ち点を得るパターンは崩れた。

 先手を取られると、戦意まで喪失することになった。

「バレンシア戦も、最初のボールロスト、最初のカウンターを決められている。それで選手たちは疑念を持ってプレーするようになった。前半の最後に1点を返したが......」

 メンディリバルは語っているが、最後は負け癖のようなものがついていた。

 バスク人指揮官は、ハードワークを土台にしたハイプレス、ハイラインの戦いを作り上げた。ボールを蹴り込みながら、球際で負けず、セカンドを拾い、押し込んではゴールを奪う。自陣に入られたらリトリートでしぶとく守る。そのプレーモデルの中で、選手を成長させていた。

 乾はまさにその筆頭格だった。2015年夏にブンデスリーガからやって来た当初は、守備の不安が指摘されていた。しかし、辛抱強く使われ続け、パスと侵入経路を分断するディフェンスやプレスのタイミングなどを覚えると、2年目からは攻撃での良さが出て、主力になっていった。メンディリバルは選手の力を引き出す名将と言えるだろう。

◆「お金はゼロでもいいくらい」。乾貴士がスペインでプレーできる喜びを語る

 今シーズン、実はエイバルは2人の主力を失ってスタートした。ひとりはチーム最多得点・最多アシストのチリ代表MFファビアン・オレジャーナ。もうひとりは次にゴール数が多かったブラジル人FWシャルレス。チーム全体が世代交代を求められる中、この穴は埋まらなかった。

 新エースとして迎えられたのが武藤だったが、わずか1得点ではFWとして及第点は与えられない。

 2部降格が決まったバレンシア戦は象徴的だった。武藤は先発したものの、チームメイトと連係が合わず、不調のまま前半35分で交代を命じられている。プレミア仕込みのフィジカルとスピードで、メンディリバルの期待を背負いながら、ケガもあってフィットしなかった。バレンシア戦の評価は各紙とも星0(0〜3の4段階)と辛らつだ。

 乾に至っては、バレンシア戦はベンチのままで90分間を過ごしている。直近6試合で出場時間はアラベス戦の8分間のみ。正念場で指揮官の信用を失った。今シーズン前半、若手ブライアン・ヒルに左アタッカーのポジションを奪われながら、トップ下、右サイド、ゼロトップなどで起用されてきたが、得点に絡むプレーが少なく、次第に出場時間を減らしていった。

 日本人2人は地元で期待されていただけに、降格の責任は免れない。2人の去就は不明だが、出直しスタートになるだろう。あるいは、年俸を大幅に下げてでもエイバルの1部復帰に心血を注ぐのは選択肢のひとつだが......。

 いずれにせよメンディリバルの続投はないと言われる。降格とは関係ない。それは決定事項だったようで、ひとつのサイクルの終焉だ。

 繰り返すが、エイバルが7シーズン連続で1部にいたこと自体、祝祭に近い。いつ終わっても不思議ではなかった。

「エイバル、夢にサヨナラ」

 スペイン大手スポーツ紙『マルカ』の見出しは、やけにしっくりくる。5月22日の最終節。エイバルはイプルアにバルセロナを迎える。最後の宴だ。

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