直木賞『熱源』・芥川賞『背高泡立草』がワンツーフィニッシュ 文芸書週間ランキングを考察

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2021年05月19日 01:21  リアルサウンド

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週間ベストセラー【単行本 文芸書ランキング】(2月12日トーハン調べ)
1位『熱源』川越宗一 文藝春秋
2位『背高泡立草』古川真人 集英社
3位『むかしむかしあるところに、死体がありました。』青柳碧人 双葉社
4位『店長がバカすぎて』早見和真 角川春樹事務所
5位『medium 霊媒探偵城塚翡翠』相沢沙呼 講談社
6位『清明 隠蔽捜査(8)』今野敏 新潮社
7位『ライオンのおやつ』小川糸 ポプラ社
8位『イマジン?』有川ひろ 幻冬舎
9位『ノースライト』横山秀夫 新潮社
10位『流浪の月』凪良ゆう 東京創元社


 やはり芥川賞・直木賞は強い。2月の文芸書トーハンランキングは、1月に発表された第162回受賞作が1位と2位に名を連ねる形となった。


 1位は直木賞受賞作。デビュー2作目にして初ノミネートとなった川越宗氏一の『熱源』。山田風太郎賞と大藪春彦賞の候補作にもあがっており、第9回「本屋が選ぶ時代小説大賞」受賞作でもあることから、プロアマ問わず、すでに多くの読み手から期待と評価を集めている書き手だということがわかる。


関連:直木賞『熱源』に学ぶ、“多文化共生”の難しさ 1月期月間ベストセラー時評


 『熱源』は、日本に強制移住させられた樺太アイヌと、ロシア帝国との併合によって母国語を話すことさえ禁じられたポーランド人、二人の主人公によって織りなされる物語。どちらも強制的な同化により、故郷を失い、アイデンティティも歪められていく。やがて樺太で二人が出会い、時代の流れに唯々諾々と呑まれるだけが運命ではなく、道は自分の手で選びとるものなのだと熱を帯びる場面には胸を打たれる。強烈な同化を望むのは根っこにおそれがあるからだろう。自分たちとは“ちがう”ものは、いつか自分たちに牙を剥くのではないかという恐怖。多様化を謳いながら選択の自由に及び腰な現代社会を生きる我々にも、他人事ではない。


 2位『背高泡立草』は芥川賞受賞作。著者の古川真人氏は、デビュー作『縫わなばならん』以降4度目のノミネートの末、受賞となった。舞台は、長崎の島に家をもつ吉川家。島には〈古か家〉と〈新しい方の家〉がありどちらも空き家なのだが、年に数度、納屋の草刈りをするため島に集まる古川家の人々の一日を同作では描き出す。現代と過去が交錯しながら語られていく島と家の歴史。放っておくと伸びた草に埋もれていく島は、時代の変動に翻弄された樺太と対照的にも思えるが、連綿と紡がれていく歴史があって今があり、語られるべき何かがある、という点では通じる部分があるように思う。対比的に読んでみるのも、おもしろいかもしれない。


 直木賞ノミネートも遠い未来の話じゃないだろう、と思わされる注目の作家が10位ランクインの凪良ゆう氏。『流浪の月』は、吉川英治文学新人賞の候補作となり、本屋大賞にもノミネートされた作品だ。もともとBL小説の分野で活躍していた凪良氏が、一般文芸のジャンルで最初に注目を集めたのは2017年に刊行された『神様のビオトープ』。死んだ夫の幽霊とともに暮らす女性の日々を描いた同作に胸をうたれた編集者ふたりが、ほとんど同時期に声をかけて刊行とあいなったのが昨年9月に発売された『流浪の月』と12月に発売された『わたしの美しい庭』だ。


 『流浪の月』は、少女誘拐監禁事件の被害者と加害者の物語。父を亡くし、母に捨てられ、叔母の家で性暴力を受け、逃げ場のない孤独に耐えていた少女。成熟した女には興味を抱くことのできない青年に連れられ、彼とともに過ごした日々は少女にとって両親が揃っていた日々の幸せを思い出させるものだった。青年は少女に触れてもいなければ傷つけられてもいない。大人になった今でも、彼の記憶はとても甘い。なんの障害もないはずなのに、世間の目は二人がともにいることも、“普通”に生活することも許さない――。理不尽な不自由に苦しめられる二人の物語もまた、強制的な“同化”に抗う物語なのかもしれない。


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