ネイマール以降、ブラジルから真のスター選手が生まれないのはなぜか

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2021年05月19日 06:31  webスポルティーバ

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落日のサッカー王国ブラジル(前編)

 ペレ、リベリーノ、ジャイルジーニョ、ソクラテス、ジーコ、ファルカン、カフー、ドゥンガ、ロマーリオ、ベベット、リバウド、ロナウド、ロナウジーニョ、カカ、そしてネイマール......。

 ブラジルはレベルの高い選手を、常に世界へと供給し続けてきた。まだテレビがなかった1940年代から現代に至るまで、ブラジルにはどの時代も、偉大な選手が複数、存在していた。

 セレソンの「3R」を覚えているだろうか。2002年にブラジルが日韓W杯で優勝した時のメンバーだ。ロナウド、リバウド、ロナウジーニョ。彼らには世界中が拍手を贈った。1982年スペインW杯の「黄金のカルテット」もそうだ。ジーコ、ソクラテス、ファルカン、トニーニョ・セレーゾもブラジルの誇りだった。

 これら名の知られた選手はほんの一部にしか過ぎない。その他にも多くの選手がブラジルから世界へと出て行った。ブラジルはサッカー選手の輸出大国だ。90年代以降、統計がとれているだけでもゆうに2000人以上のブラジル人プレーヤーが国外のクラブに移籍した、他の南米諸国に、アジアに、アフリカに、オセアニアに。しかし、やはり一番大きなマーケットはヨーロッパだ。

 その状況は今も変わらない。今でも多くのブラジル人選手が世界に供給されている。しかし、ひとつだけ違うことがある。ここ最近、ブラジルから本物の「フェノメノ(超常現象)」が輩出されていないことだ。50年間途切れなかったブラジルのスター選手が、ここ数年、誕生していない。




 1980年代から、ブラジルのトップクラスの選手はひとりの例外もなく、ヨーロッパでプレーしている。現在もそうだ。しかし、それらのチームで絶対的なスターとして君臨している選手は、ネイマール以降、存在しない。つまりもう10年以上、ブラジルは新たなスターの誕生を見ていないのだ。

 もちろんその間にも希望はあった。「次世代のスター」「第2の○○」などと呼ばれる選手は、それなりにいた。しかし彼らが本格的にブレイクすることはなかった。そして今でもブラジルのトップ選手といえば、ネイマールの名を挙げるしかない。

◆ネイマールを丸裸にする。市場価値ナンバー1の知られざる素顔

 ガブリエル・ジェズスがいるじゃないか。そう言う人がいるかもしれないが、残念ながら24歳のマンチェスター・シティのFWは、チームの絶対的アイドルではない。シティのスターはケビン・デ・ブライネだ。ジェズスはベンチを温めることもたびたびあり、優秀ではあるが、このままでは本当のスター選手になることはないだろう。

 アヤックスのダビド・ネレスはどうだ。確かにポテンシャルはある。いいプレーをし、ゴールも多く決め、スピードもある。しかし、ずっと若きスター候補と言われ続けているままだ。

 レアル・マドリードのヴィニシウス・ジュニオール。スピーディーなストライカーで、人を驚かすようなすばらしい動きを見せる。しかし彼もまた不十分だ。ブラジルを代表する選手のリストに入るには、もっと努力する必要がある。そして20歳のロドリゴは"ブラジルの未来"と言われているが、レアルではベンチにさえ入らないこともしばしばだ。

 リバプールのロベルト・フィルミーノ、トッテナム・ホットスパーのルーカス・モウラ、エバートンのリシャルリソン、マンチェスター・シティのフェルナンジーニョ、リヨンのルーカス・パケタ、パリ・サンジェルマンのキャプテン、マルキーニョス、ユベントスのダニーロ、バルサのフィリペ・コウチーニョ、レアルのカゼミーロ......。

 もしくはそれよりも一世代前にスター候補とされていたドゥグラズ・コスタ(バイエルン)、マルセロ(レアル・マドリード)、ウィリアン(アーセナル)......。彼らにもずっと期待をかけてきたが、気がつけばもう30歳を超えてきている。

 そのうちの誰が我々を夢見させてくれたろう。プレーを見るだけでワクワクさせてくれたろう。冒頭にあげた選手たちとは比べ物にならない、誰ひとりとして――

 我々はブラジルサッカーの歴史の中でも、大きな低迷期にある。ワインで言えば、何年も当たり年がないという状態だ。それは多くの条件が重なりあって生まれた現象だと私は考える。

 ブラジルの優秀な選手たちの99%は、整備もされていない空き地やストリートから生まれてきた。裸足に、凸凹な地面、ボールは布をぐるぐる巻きにしたもの、そんな予測不可能な環境でサッカーをしてきた少年たちにとって、スパイクに芝のピッチに革製のボールでプレーすることなど朝飯前だった。

 しかしここ30年、ブラジルは建築ラッシュで、こうした広場や空き地が急激に減った。子供たちが自由にボールを蹴る場所はどんどん奪われてしまった。また、これはブラジルだけの現象ではないが、携帯電話やインターネットの普及も無縁ではないだろう。かつては道でプレーするしか楽しみのなかった子供たちが、今は画面の前で過ごしている。

 それに加えて経済の低迷だ。ここ何十年もの間、ブラジルの経済は非常に難しい状態にある。貧しい家の子供たちは少年と呼ばれる年齢から遊ばず、家族のために仕事に駆り出されることも多い。一方、金のある家は子供に、サッカーよりも勉強を勧める。こうして、寝ても冷めてもサッカーという子供の数はどんどん減ってしまった。

 しかし、何よりも大きな原因は、選手の国外移籍の低年齢化だろう。かつてブラジルの選手が国外に出ていくのは20歳をゆうに超えてからだった。それが年を追うことにどんどん低年齢化している。ジーコがブラジルを出たのは30歳の時だった。ベベットは28歳、リバウドは24歳、ロベルト・カルロスは22歳、ロナウジーニョは21歳。

 一方、現在ヨーロッパにいる選手が国を出た年齢は、コウチーニョ16歳、ロドリゴ18歳、フィルミーノ19歳、リシャルリソン20歳......全員ではないにしろ、その多くが20歳以下だ。

 ブラジルではクラブも財政難なので、若手を育てるよりも、ある程度の高値がつけばどんどん売ってしまう。海外のチームも、ライバルに取られるぐらいなら、いち早く自分の手元に置いておきたいと思う。選手も、いつ給料が支払われるかわからないブラジルのチームにいるより、海外のチームを望む。
(つづく)

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