“安西先生”にそっくりな殺し屋!? 『SAKAMOTO DAYS』圧倒的な画力が冴えるアクションシーンを堪能せよ

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2021年05月19日 11:01  リアルサウンド

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『SAKAMOTO DAYS』のアクションを堪能せよ

 『SAKAMOTO DAYS』(集英社)は、鈴木祐斗が「週刊少年ジャンプ」で連載している漫画だが、異彩を放っているのは主人公の坂本太郎が『SLAM DUNK』(集英社)の安西先生を彷彿とさせる、あまり喋らない太ったおじさんだと言うことだろう。坂本の風貌を見て「これはギャグ漫画なのか?」と思う未読の方も多いかもしれない。確かに笑える要素も多い。しかし本作はキレッキレのアクション漫画である。


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 坂本はかつて「伝説の殺し屋」と言われ、全ての悪党から恐れられ、全ての殺し屋にとっては憧れの存在だった。しかしある日。坂本は殺し屋を引退して結婚。現在は娘を持つ父として、東京の外れで坂本商店の店長として働いていた。そんな坂本の元に、かつて仲間だった「人の心が読める」エスパーのシンが訪ねてくる。殺し屋に戻るように説得するシン。しかし坂本は断る。実はシンは組織からの刺客で、殺し屋に戻ることを断ったら坂本を「殺せ」と言われていた。


 翌日、せめて自分の手で尊敬する坂本を殺そうと坂本商店を訪れるシン。間髪入れずに銃を撃つが坂本は舐めていた飴玉で弾道をそらし、逆にシンを返り討ちにする。意識を失ったシンは坂本に看病される。坂本の妻・葵が作る料理を食べたシンは、坂本が妻と娘がいる「何て事ない日常」を守るために殺し屋を辞めたのだと悟る……。


 物語は坂本商店を営む坂本の穏やかな日常と、殺し屋と戦うアクション活劇が同時進行で描かれていく。坂本は無口でほとんど喋らないが「心が読める」シンが隣にいることで彼が何を考えているのかが読者に伝わる仕掛けとなっている。構造としては坂本がボケでシンがツッコミのギャグ漫画とも言えるだろう。


 例えば、シンが心を読めることを逆手にとってシンを殺害する想像をする坂本に「なんですぐ想像で殺すんですか!!!?」と言うやりとりは漫才のようだが、面白いのはその見せ方。「想像上の殺害シーン」が唐突に挟み込むため、一瞬、何が起きたのかと混乱するのだが、これは想像の攻撃を現実の攻撃と同じように感じとってしまうシンの主観を読者に追体験させる見せ方なのだろう。こういった後で考えると意味がわかり、思わずニヤリとしてしまう場面が本作には多い。


 寡黙な坂本が主人公であることからもわかるように『SAKAMOTO DAYS』は、言葉よりも画で語ろうとしている作品だ。そんな作者の画力が、存分に発揮されているのが本作最大の見せ場と言えるアクションシーンである。


 第一話の狭い店内でシンと坂本が戦う場面では、商品が散らばる中、背後をとった坂本が蹴りを食らわすことでシンを棚ごと吹っ飛ばすシーンに至るコマの流れが実に見事で、動いているかのように感じさせてくれる。見せ方は『AKIRA』(講談社)の大友克洋が得意とした、コマとコマの間をうまく省略することでキャラクターの動きを読者に想像させるという正攻法で、読めば読むほど「漫画が上手い」と感心する。


 次の第2話には、犯罪者に占拠されたバスを坂本とシンがバイクで追いかけるシーンがあるのだが、バイクアクションの疾走感もたまらない。バイクでバスの屋根に飛び乗ると、シンは窓を蹴り破って社内に入り、つり革を両手で掴んで足技で犯罪者の首を締め上げる。一方、坂本は、暴走するバスを道路標識がついたポールを使って止めるのだが、どちらも派手なシーンでありながら、ディテールが細かく、身の回りにある小道具を武器にして戦う場面は良質のアクション映画を見ているようだ。


 第3話には、捕まったナカセ巡査を助けるために坂本とシンが暴走族のアジトで戦う場面があるのだが、煙幕の中で2人が暴走族を倒していく姿を見開き2ページを19分割にして見せている。アクションシーンは毎話バリエーションが豊かで「次はこう来たか」と驚かされる。


 戦いの舞台となる中華街や遊園地といったロケーションの見せ方も見事だ。細密だがディフォルメの利いた背景画が実在感のある箱庭的世界を構築している。


 家族と暮らす日常を守るために、坂本は次々と現れる殺し屋と戦うことになるのだが、次第に殺し屋の戦闘レベルも上がってきている。第6話に登場した変装と暗殺を得意とする南雲は坂本とは同期の殺し屋で、他の敵とは桁違いの能力を見せている。今後、こんな奴が増えていくのだろうか?


 ジャンプ漫画のヒットの定石を考えると、敵も味方も戦闘力がインフレし、やがて異能バトル路線へと向かいそうだが、無口な太ったおじさんが主人公という時点で『SAKAMOTO DAYS』はジャンプの王道からだいぶ外れている。もしかしたら、このすっとぼけたトーンで最後まで進むのかもしれない。


 これだけアクションが上手いのだから、鈴木祐斗にはバトルに特化した漫画も描いてほしいが、それは次回作でいいのではないかと思う。『SAKAMOTO DAYS』からユーモアが消えて、バトル一辺倒となってしまうのは寂しい。アクションと笑いのバランスはこのままで、坂本の「何て事ない日常」が末永く続いてほしい。


(文=成馬零一)


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  • ☆ もしアニメ化の際は、“中の人”は安西先生と同じでヨロ! 実写化なんて話になったら…芋洗坂係長あたり?
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