「バリアフリーが進んでいる社会」「私らしく過ごせる社会」へ−多発性硬化症のワークショップ開催

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2021年05月28日 15:00  QLife(キューライフ)

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 製薬会社のノバルティスファーマは5月18日、多発性硬化症についてのワークショップをオンラインで開きました。ワークショップは「世界多発性硬化症の日」(5月30日)に向けたもので、多発性硬化症の患者さん4人が参加。対話の内容をグラフィックに描き起こす手法「グラフィックレコーディング」で可視化しながら、自身の現状や未来のありたい姿について話し合われ、参加者からは自分らしく生きていける社会の実現に向け、バリアフリー化の推進を求める声が多く挙がりました。

 多発性硬化症とは、脳の情報を伝える神経の線を覆っている「髄鞘(ずいしょう)」が壊れ、脳からの情報がスムーズに伝わらなくなることでさまざまな症状が現れる病気です。どんな症状が現れるかは、患者さんによって異なりますが、代表的な症状として、視力が低下する、視野が欠ける、しびれる、力が入りにくい、歩きにくい、尿が出やすくなる/出にくくなる、疲れやすいなどがあります。多くの患者さんの症状は、良くなったり(寛解)、悪くなったり(再発)を繰り返します。

家族や職場の関係者、主治医が支えに

 ワークショップに参加したのは、多発性硬化症の患者さんである、けいこさん(神奈川県在住)、なっちゃんさん(島根県在住)、めぐさん(福岡県在住)、まきさん(東京都在住)の4人です。

 多発性硬化症の症状で特に悩まされていることについて、なっちゃんさん、めぐさん、まきさんは「ウートフ徴候」(体温が上がると一時的に症状が悪化し、体温が下がると元に戻るもの)を挙げました。めぐさんは、「夏やお風呂上がりは、つたいながらよろけながら歩きます。夏のお風呂上がりは、かき氷、扇風機、クーラーで一気に体を冷やしてやっと動けるくらい」と説明し、これからの季節に不安をにじませました。

 けいこさんが「疲れやすい」「痺れる」「トイレが近い」と症状を列挙すると、なっちゃんさんとめぐさんは大きく頷き、共感を示しました。けいこさんはまた、「多発性硬化症では脳の萎縮が心配されるので、定期的にMRI検査を受けており、最近、脳が委縮していると言われました。現実を受け入れたくなかったんですけど……。集中力や記憶力の低下が著しいです」と、戸惑いをみせました。

 診断されてから現在まで頼りになった人を問われると、歌手であるけいこさんは、「お店のオーナー」と回答。「病気になってから長時間立っていられなくなりました。立って歌うのが普通ですし、もう辞めなくてはいけないと思ってお店のオーナーに話したときに、椅子に座って歌えばいいじゃないかと提案してくれたんです」と話しました。その後、ほかのお店でも事情と椅子を使いたい旨を説明し、理解してくれる場所で今も歌手活動を続けているそうです。

 ヨガのインストラクターをしているめぐさんも、けいこさんと同様、職場の関係者が頼りになったといいます。「スタッフや会員の方から『杖ついてでもいいから来て。口で言うだけでいいから来て』と言っていただいたのが支えになって、今もヨガを続けられています」

 なっちゃんさんは、「診断を受けたときからずっと母を頼りにしています」と通院先への送迎や子守を手伝ってくれる家族に対し、感謝の気持ちを口にしました。

 まきさんが頼りにしているのは、主治医の先生だそう。「長年続けていた治療で副作用が出るようになり、治療法を変更しました。先生は丁寧に、急にではなく、少しずつ治療を変えていく方法をとらせてくれました」と、主治医の先生と信頼関係を築いている様子でした。

「病気のことをポジティブにとらえられる社会になってほしい」

 ワークショップでは、未来の理想の社会や自身のありたい姿、その実現に向けて必要な行動についても考えました。

 けいこさんが掲げた理想の社会は、「物理的なバリアフリーが進んでいる社会」。歩くことも走ることもできるけれど、疲れやすいため、ときどき電動車いすに乗るというけいこさん。「車いすを使うようになったら、バリアフリーでない場所が多いことを知りました」と指摘し、高齢者や子育てをしている人にとっても不便ではないかと問題視しました。その上で、「人の優しさで乗り越えるのではなく、物理的にバリアフリーが進んでほしい」と切望しました。

 理想の社会の中でありたい自分の姿を一言で表すとしたら、「ワクワクしている自分」だといいます。「歩けるし走れる私が電動車いすに乗ることについて、理解を得るのは難しいと感じています。私が使っていいのかという罪悪感もある」と複雑な心境を吐露した上で、「私のような電動車いすの使い方をしている人もいる、罪悪感なんて持たなくていいと発信していきたい」と決意を表明。理想の未来に向けて、「罪悪感を抱えずに堂々と電動車いすに乗りたい」と前向きな姿勢をみせました。

 なっちゃんさんの理想の社会は「誰もが“私が私らしく”過ごせる社会」。「しがらみに惑わされず、自分らしく過ごせる社会になってほしい」と思いを巡らせました。自身のありたい姿を一言でいうと「私は私」と力を込め、「体調と体力が安定し、好きな仕事ができ、いろんなところに行っている想像を膨らませた」と話しました。「これまでに車で四国を一周したり、九州を巡ったりした」との経験を踏まえ、「今度は北海道を一周したい」と希望を語りました。そんな未来に向け、「体力をつけるために子どもとの散歩を増やす」「Googleストリートビューで旅先の下見をする」と自らに課しました。

 めぐさんは、「個々の自分らしさや得意なことを活かせ、体も心も生き生きと過ごせる社会」が理想の社会だとしました。得意なこととは、人と比べてではなく、自分ができると思えることで、「病気があるとできることが限られてくるが、できることを活かせる。わくわくしたり、癒されたりする趣味を活かせる社会が理想です」と説明。現状では自由に出かけたくても、エレベーターの位置などに気をつける必要があることから、「社会の支援サポートやバリアフリーが充実して、周りの人に心配されることなく、当たり前に出かけられる社会になればいい」と願いを込めました。

 自身のありたい姿は「自由な私」だといい、「心身の不調を抱えている方にヨガを伝えていきたい」と意気込みを語りました。ありたい姿に向けては、「オンラインでヨガを行うために、(オンライン会議システムの)Zoomでミーティングを主催する。まずは試行錯誤しながら、身近な友だちや病友を相手に体験ヨガを始めたい」と意欲をみせました。

 まきさんは、「病気を抱えている人もそうでない人も共生できる社会」を理想に掲げました。「病気のことをカミングアウトすると、言われた側も下を向きがちだと感じてきた」と自身の経験を振り返り、「病気のことをもう少しポジティブにとらえられる社会になってほしい。心の障壁をなくして、病気の人も病気でない人も、一緒に生きていける社会を目指せたらいい」と話しました。ありたい姿を一言で表現すると「ポジティブな私」だとし、「病気のことを周囲に積極的に話せる自分でありたい」と抱負を語りました。「周りの人も笑顔になるくらい笑顔で話しかけるよう心がけます。良好な関係を作って、その中で病気のことも話していきたいですね」

完成したグラフィックレコーディング(ノバルティスファーマ提供)

 ワークショップは、参加者が時折笑顔を見せながら、和やかな雰囲気で幕を閉じました。けいこさん、なっちゃんさん、めぐさん、まきさんが掲げた未来を想像すると、5年後、10年後の社会がどう変わっているのか楽しみになりますね。明るい未来に一歩近づくため、理想の未来の社会と自分のありたい姿、それに向けて必要な行動について、みなさんも考えてみてはいかがですか? (QLife編集部)

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