15歳で仕種は「赤ちゃんのまま」でも感情表現豊か 重心児の長女が教えてくれた幸せの価値

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2021年06月08日 16:00  AERA dot.

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写真2015年のゆうちゃんとぴぴちゃん。「ふたりは、お互いとても安心できる存在のようです」(江利川さん)/江利川さん提供
2015年のゆうちゃんとぴぴちゃん。「ふたりは、お互いとても安心できる存在のようです」(江利川さん)/江利川さん提供
「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害を持つ子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出会った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。

■重心児の長女の日常

 我が家の長女は、重症心身障害児(重心児)と呼ばれる寝たきりの中学3年生です。

 呼吸をしたりペースト食の摂取は可能ですが、自分の力だけでは命を維持することが難しく、胃ろうから栄養を注入したり、夜間に人工呼吸器を使用するなど、苦しくなる部分を医療的ケアで補い生活しています。

 今回はそんな長女の話です。

「寝たきり」というと、文字通りずっとベッドにいる子どもを想像される方も多いと思いますが、平日はバギーのまま乗車できるスクールバスで特別支援学校へ登校し、彼女にとっての習い事であるデイサービスを経由して、夕方に帰宅します。

 長女は、会話をすることができません。

 発語は私を呼ぶ「まぁま」の一言だけであり、言葉の理解は、単語がいくつかわかる程度です。それでも、感じたままの喜怒哀楽をはっきりと出してくれるので、私たちはコミュニケーションを取ることができます。

■喜怒哀楽は普通の子どもと変わらない

 おかあさんといっしょの曲を聴いたり、大好きな甘いクリームを食べたりした時には、うれしそうに「ウキャッ」と喜び、DVDが終わると唸って怒ります。自分の頭の中で思っていたことと私たちの反応が違う時には、悲しそうな声を出して泣きます。

 彼女が心地よいと感じることも不快に思うことも、健常のお子さんと何も変わりません。家族だけでなく、長女に関わる多くの方から刺激をもらい、ゆっくりではありますが、今でも少しずつ成長を見せてくれています。

 学校やデイサービスは、彼女とって、欠かせない場所です。3歳で通園(児童発達支援センター)に通い始めたばかりの頃は、家族以外に抱っこされるとずっと泣いていましたが、就学頃には先生や友達を意識するようになり、社会性が芽生えると、さらにコミュニケーションが取りやすくなりました。

 ■得点すると「ニヤリ」、好きな曲に「ニコニコ」

【学校の先生からの連絡帳より】
・何かを伝えたい時に「あ“ぁ〜」と可愛くない声を出していたゆうちゃん(笑)
「もっと優しく【トントン、せんせ〜】って言ってよ」と言いながら右手を伸ばしているうちに、教員が「トントン、せんせ〜」と言うと、右手をすっと上げてトントンポーズで応じてくれることが増えてきました。

・体育ではボッチャを行いました。今日もやる気満タン! 「やってやるわよ!」と言わんばかりの表情で入場し、傾斜をかけたテーブルにボールを置いて投球! みごと3回中2回得点し、得点したことがわかったのかニヤリ。得点できなかった時は渋い顔で活動していました。

【デイサービスの連絡帳より】
・YouTubeで「ブンバボーン」と「しゃぼん玉」の歌を流すと声を出して大喜び! しゃぼん玉は(曲に合わせて声を出して)歌っていました。

・ゆうちゃんが最後の一口まで大きく口を開けておやつを食べる姿は、いつ見ても気持ちが良いですね! 今日は友達が聴いていた「どんな色が好き?」という歌に「この曲好きかも!」と感じたようでニコニコでした。

■言葉を話せなくても伝わる

 言葉を話せなくても、声や表情で気持ちは充分伝わります。たくさんの方に可愛がってもらい、楽しいエピソードが書かれた連絡帳を見るたびに、家族は「今日も元気でいてくれて良かった」と安心するのです。

 数年前、神奈川県内の障害者施設でとても痛ましい事件が起きました。被告の男性は、被害者が会話ができるかを確認してから犯行に及んだとのこと。

 私はこのニュースが大々的に流れた初公判の日に、『可愛い子』というタイトルでブログを更新しました。

■面白くかわいく表現してくれる

『レスパイト入院のお迎えの日。病棟に行くと初対面のドクターがニコニコしながらこちらに来た。

「ほんとに面白くて可愛い子ですね。診察しようとしてDVDを横に動かしたらウーッと怒るし、腕を診るために伸ばしたら、くすぐったかったのかキャキャッと声を出して笑ってくれたり…」

 ドクターが言う【面白い】は感情表現のことのようだ。ゆうは喜怒哀楽がものすごいので(笑)初対面でも彼女の性格を理解して頂けて良かった。ゆうは話せるか話せないかなら、確実に話せない。でもこの子は話せなくても、こんなに面白く可愛く自分を表現してくれるのだ』

■長女の笑顔がうれしい

 もちろん、長女を育てるのは、きれいごとだけではありません。首の座らない150cmの身体を、赤ちゃんのように横抱きにしてお風呂に入れるのはかなりの体力が必要ですし、夜中に何度も人工呼吸器のアラームが鳴って寝不足が続くと、レスパイトケア(※病院などが、家族が行っている介護や育児を一時的に代替してリフレッシュしてもらうケアやサービスのこと)など休息できる環境がなければ、メンタルに響きます。

 でも、それ以上に、家族は長女の笑顔に癒され、この子がいてくれることがとてもうれしいのです。特に、現在、思春期真っ只中の双子の次女は、他の家族には素気なくても、たびたび長女が寝ているマットに横になり、ギューッとハグをしている姿を見かけます。

 実はこれを書いている今日(2021年5月下旬)は、娘たちの15歳のお誕生日です。

■「生きていたらかわいそう」と思った日もある

 長女の病気や合併症が次々と見つかった0歳児の頃、私は絶望の中で主治医のター先生に、この子は生きていたらかわいそうだと言ったことがありました。

 でも、その時に返って来たター先生の言葉がとても印象的で、今でも私の中に大きく残っています。

「ゆうちゃんは人の機嫌を伺ったり、愛想笑いをしたりしません。ゆうちゃんが笑っているときは、心から楽しいと思っているときなんですよ」

■「幸せ」の概念が変わった

「幸せ」の価値を、自分の概念を中心に考えていたことに気付きました。そして、この言葉をきっかけに、少しずつ長女の状態を受け入れ、前を向くことができたように思います。

 長女は15年経っても、動きも仕種も赤ちゃんのままです。けれども、彼女は誰かに気を遣うことも誰かと揉めることもなく、常にありのままの姿で真っすぐに生きていて、私にはとても幸せそうに見えるのです。

 HappyBirthday!! Twin sisters!! 我が家に来てくれて、ありがとう。

〇江利川ちひろ/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ

※AERAオンライン限定記事

このニュースに関するつぶやき

  • よー分からんけど18トリソミーかな?18トリソミーで15迄生きてる方が珍しい。糞あエラもそれを知って取材したんだろうな。
    • イイネ!6
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  • 多くの人は、いつかは身体障害者か知的障害者となって死ぬんだよ。彼らが生きやすい社会であれば、自分たちも安心して長く生きられる。お互い様。
    • イイネ!44
    • コメント 2件

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