引退した競走馬、ナイスネイチャ支援を生み出したウマ娘と「推し」 ゲームファンの熱量が課題解決の一歩に

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2021年06月10日 07:10  ウィズニュース

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写真当初の目標額の18倍の支援を集めたナイスネイチャのバースデードネーション(Syncableのページより)
当初の目標額の18倍の支援を集めたナイスネイチャのバースデードネーション(Syncableのページより)

アニメやアイドルファンの熱量を測る物差しの一つにグッズやコンテンツなどの消費行動があります。矢野経済研究所の調査によると、2019年度のアニメ市場は3千億円、アイドル市場は2610億円にまで広がりました(2020年度は新型コロナウイルスの影響で大幅に縮小と予測)。多様なお金の使い方があるなかで、引退した競走馬・ナイスネイチャのバースデードネーションが当初の目標額から18倍の約3600万円が集まりました。前年と比較すると20倍です。ここに一役買ったのが、ナイスネイチャも登場する実在の競走馬をもとにしたスマホゲームの「ウマ娘」です。ゲームファンの熱量が引退馬支援につながった事例から、推し活の可能性について考えました。(withnews編集部・丹治翔)

【写真】33歳の誕生日、そのときナイスネイチャは…牧場からの報告はこちら かわいらしさ、凜々しさ満点

目標の18倍の支援額
「サイトを見る度に支援者が増えていく。今までに経験がないことでした」

ナイスネイチャの33歳の誕生日である4月16日に合わせて、ドネーションを企画した認定NPO法人「引退馬協会」の沼田恭子代表理事は、振り返ります。

誕生日プレゼントの代わりに、支援している団体のために寄付をお願いするキャンペーンとして知られるバースデードネーション。5回目となったナイスネイチャのドネーションは、支援者も1万6296人を数えました。年々増えていましたが、過去最多だった昨年の約40倍です。

支援者たちが書き込むコメント欄は「ウマ娘を通じて取り組みを知りました」「リアルのネイチャさんもゲームのネイチャさんもどちらも応援しています!」といった、ウマ娘に関わるものが目立ちました。沼田さんも「影響は相当大きかったと思います」と話します。

ウマ娘、リアルを生かした設定が支持
ウマ娘はトレーナーとなったプレーヤーが、競走馬を擬人化したキャラクターを育て、レースで勝つことを目指す育成ゲームです。Cygamesが今年2月に配信を始めると、スペシャルウィークやサイレンススズカなど、実在の競走馬を生かした設定やストーリーが支持を集め、5月14日には700万ダウンロードを突破しました。

このゲームにナイスネイチャも登場します。有馬記念で3年連続3着となった実力馬は「下町生まれの高望みしないウマ娘」。自分は脇役と考えるため、過度な期待からはやや逃げがち。そのため、いつも好走どまり――。沼田さんは「ナイスネイチャの庶民的な特徴をよくとらえている」と太鼓判を押します。

引退馬におだやかな余生を
引退馬協会が所有しているナイスネイチャは、活動を知ってもらう「広報部長」の役割を担っています。協会は引退馬を所有したり、新たな馬生を送るための再調教をしたりなど、直接、間接を含め100頭近くの支援に携わっていますが、「引退した後に余生を全うできる競走馬はまだまだ少ないです」と沼田さん。JRAによると、馬1頭を繋養するにはえさ代や人件費、場所の確保などで毎月数万円がかかり、担当者は「役目を終えた馬たちをすべて養い続けるのは困難」と現状を語ります。

バースデードネーションも支援を募る一環で、「ナイスネイチャのようにおだやかな余生を一頭でも多くの引退馬に過ごしてほしい」と2017年に始まりました。今回の寄付金は引退した種牡馬や繁殖牝馬の預託料などに使われる予定です。

課題認知にも意義
取り組みは、NPO活動が対象の寄付プラットフォーム「Syncable」を通じて展開されています。Syncableは2016年末にスタートし、現在は1,700以上の団体が活用。バースデードネーションも先駆的に導入しました。

「金額のインパクトはもちろん、引退馬の課題をこれだけ多くの人が認知できたことにも意義があります」

こう話すのは、代表取締役の田中辰也さんです。Syncableによると、支援者数とともに、寄付を募るページへのアクセスもサービス最多の23万UUを記録しました。

ページは「みなさん、こんにちわ!ナイスネイチャです」と馬が語りかけるような形で始まります。ナイスネイチャの紹介から、ごく一部の馬を除いて引退後の行方が分からなくなっている競走馬の実情を約3千字の文章にまとめています。

田中さんによると、ページの平均滞在時間は約4分。「決して短くはない文章ですが、しっかり読み込んでもらえている印象です」。そして、ドネーションだけでなく、引退馬協会への継続的な寄付を選択した人が400人いました。

「今回だけの関係性ではなく、継続支援を選択した方がこれだけいるのも初めてです。課題の認知から実際の支援まで、色々な視点から反響の大きい取り組みとなりました」

地道な活動に光
異例の支援金額、支援者数を記録したドネーションですが、そもそもウマ娘のブームに乗っかろうとしたわけではありません。シニアコンサルタントの佐藤徹さんは「引退馬協会は継続してドネーションを続けています。過去のページは『ナイスネイチャ』と検索すると上位に表示されているので、ウマ娘のゲームが始まってから関心を持った人たちの目にとまりやすかったのでは」と分析します。

「取り組みを知った人たちが、ツイッターなどのSNSに投稿して、裾野がさらに広がっていく。プロジェクトの公開当日は待機組が生まれるほどで、開始から1時間ほどで目標額を突破する勢いとなりました」

沼田さんがゲームの存在を知ったのは、ドネーションが始まる少し前からです。「引退馬の里親希望やグッズ販売が急に増え始め、『ウマ娘の影響かもしれない』と他のスタッフに言われて初めて知りました」。今回のドネーションも目標額を200万円(期間中に300万円に引き上げ)にするなど、昨年の成果を踏まえた内容にした以外に変化はありませんでした。

この「例年通り」が大事なポイントだった、と佐藤さんは指摘します。「アニメやゲームなどの力によって、ファンたちが社会課題にもライトな形で接点を持つ可能性はあると思います。しかし、その導線が無理強いやお仕着せに見えてしまうと、そもそも伝えたいことが伝わりません」

「『ナイスネイチャの誕生日をお祝いする。そのアクションが他の引退馬の支援にもつながっている』というシンプルなメッセージが、初めて寄付をする人たちにとっても敷居を下げたのだと思います。それは、引退馬の環境改善へ地道に、誠実に取り組んでいる協会の姿勢から生まれているものです」

「プロジェクトの情報拡散などを手伝うこともある私たちが今回したことは、寄付の募集開始を公開して経過を見守ることぐらいでした。自分たちにとっても、これまでの非営利団体支援のあり方を見つめ直す良い機会となりました」

熱量→支援、適切に結びついてこそ
ウマ娘の公式ページには、72頭の競走馬をモデルにしたキャラクターが紹介されています。人類と共存してきたウマ娘たちが日本一を目指し「トレセン学園」で切磋琢磨するという設定ながらも、沼田さんが言及しているように、それぞれが史実を大切にしながら魅力的に描かれています。

競馬の魅力の一つは、競走馬のストーリーです。脈々と続く血統、ライバルとの名勝負、悲願のタイトルへの挑戦……。レースに出る馬たちは、関係者やファンの思いを背負ってターフやダートを駆けます。

ウマ娘をきっかけに、実際のレースや競走馬の物語にも触れ、競馬の世界も好きになっていく。その連鎖の延長線上にウマ娘と引退馬支援の「化学反応」が起きたのでしょう。沼田さんも「これまでは何度も支援してくれる熱心な人たちに支えられていたのですが、一気に裾野が広がって、とてもうれしいです」と支援の輪が広がる可能性を感じています。

日本ファンドレイジング協会の『寄付白書2017』によると、東日本大震災を経て2016年の個人寄付の推計総額は7756億円、寄付者数の推計は4571万人です。Syncableによると今回のドネーションに加わった1万6千人の多くが今まで寄付行為の経験がなかったことから、アプローチ次第では新たな寄付文化を予感させます。

しかしそれも、推しへのあふれる熱量が、支援活動と適切に結びついてこそです。「ウマ娘であなたを知ったにわかですが、今でも元気でいてくれたことがたまらなく嬉しいです」「ナイスネイチャ君も関係の方も、みんなで美味しいもの食べて欲しいです」「また来年再来年もお祝いさせてください!」。ナイスネイチャへの寄付者のコメントを読み返すと、誕生日を純粋にお祝いする気持ちが伝わってきます。

1カ月の寄付期間が終わった5月18日。バースデードネーションのページには、支援のお礼とともに使い道についての方針が示されました。手数料や不測の事態へのプール金を除くと、寄付総額の約6割が預託料などに使われる見通しですが、それでも当初予定していた2頭よりはるかに多い引退馬が支援を受けられることになります。

支援をする馬について、沼田さんは「頭数は限られるが馬主や牧場などから、養い続けることが難しくなった馬たちを募集していきたい」。その過程も協会のページなどで報告していく構想です。「寄付がどう使われていくかは、誠意をもって伝えていきたいんです」と語った沼田さん。化学反応がこの先、どういう展開に進むのか楽しみです。

     ◇

〈Key Issue(キーイシュー)〉アニメからアイドルまで、今では一つの市場として無視できなくなったのが「推し」の世界です。「オタク」と言われた時代から様変わりした現代において、生きづらさを抱える人たちを癒す役割も担っています。価値観の多様化やSNSによるコミュニケーションは「推し」をどのような姿に変えようとしているのでしょうか。「Z世代」「メディア」「子育て」「健康」など記者の専門テーマから切り込みます。

このニュースに関するつぶやき

  • ナイスネイチャか、懐かしい。まだ生きているとは嬉しい。ぬいぐるみも買った記憶がある。どうせ3着だと思って、馬券は買わなかったけどw
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  • ‥競走馬も引退後に‥種馬や繁殖牝馬や乗用馬でかわいがられて生涯を送るの‥極わずか‥
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