万引きしたのは“鳩の餌”……! 全財産を持ち歩く哀しき老女に、店長が「おい、ババア!」と顔色を急変させたワケ

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2021年06月12日 19:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

 こんにちは、保安員の澄江です。

 ここのところ新規のスポット契約が増え、見知らぬ土地の新しい現場に入る機会が増えてきました。どの店も、被害の増加を実感されているようで、一人でも多く捕まえてほしいと口を揃えます。お客さん全員がマスクをつけて、大きなバッグを持ってくるだけでも怪しく感じてしまうのに、ソーシャルディスタンスを意識しているのか他人を避けるように周囲を気にしながら歩くので、みんなが不審者に見えてしまうのだと話す店長もいました。お客さんを疑いたくない。その気持ちを維持するには、万引き者を捕捉するほかなく、保安員の導入を決めたそうです。今回は、つい先日捕らえた不思議なおばあちゃんについて、お話したいと思います。

 当日の現場は、関東の一部地域を中心に店舗展開するスーパーマーケットT。初めて行く現場なので早目に出向いて、挨拶する前に店内把握(店内の構造や状況を把握すること)を済ませると、ワンフロアながらも広大な売場は死角だらけで、どこで何を隠されてもおかしくない状況にありました。開店まもないために使用を限定しているのか、稼働していないものの、真新しいセルフレジも導入されています。

 恐れずに言ってしまえば、犯罪機会を刺激する店づくりをされているような状況で、こうなると万引きされないわけがありません。長年の経験から、お店の構造やレイアウトをみれば、どれほどの常習者が潜在しているか予想がつくのです。

(久しぶりの新店だから、間違いのないようにしないと)

 少し緊張しながら事務所まで挨拶に出向くと、どことなく鬼越トマホークの金ちゃんに似ている体の大きな強面の店長が、優しそうな笑顔で応対してくださいました。

「緊急事態宣言されてから、まとめ買いするお客さんが多くてさ。どさくさに紛れてカゴヌケされている気がするんだよね」
「どの店も同じでございますよ。セルフレジは、大丈夫そうですか?」
「一度開けてみたんだけど不正が多くてさ。恐くて使えないんだ。ただでさえマスクとかエコバッグに振り回されているのに、セルフレジまで気にしていられないよ」
「そうですよね。ちょっと前の話なんですけど……」

 ここのところ人と話すことが少なく、常にどこか不安な気分でいたので、ちょっとした日常を取り戻せたことがうれしく、ついつい余計におしゃべりした次第です。

 捕捉があった時の連行場所を確認させてもらい、心地よい緊張感を持ちながら現場に出ると、思いのほか客足が悪く暇な時間を過ごすことになりました。

 自然と耳に入るお客さんたちの会話から察するに、近隣のライバル店で朝市を開催しているようで、夕方に向けて客足が伸びる雰囲気です。そのため早めに昼食をいただき、後半の勤務を開始してまもなく、どことなく和泉雅子さんに似た感じのする70代と思しきふくよかな女性が目に止まりました。カートの上下段に設置したカゴの中に、大きめのバッグを2つずつ載せて店内に入ってきたのです。

 店内に多くの荷物を持ち込む人は、それだけ隠し場所が増える上、ホームレスの可能性も考えられます。気になって行動を注視すると、菓子パン売場に直行した老女は、蒸しパンケーキを2つ手にして、カートの上段に置いたバッグの狭間に挟み込むように置きました。

 さらに続けて2つの蒸しパンケーキを手に取り、今度は下段にあるバッグの狭間に挟み込んでいます。わざわざ上下段に分けて商品を隠すように置く意味がわからず、不審に思いながら老女の行動を見守ると、そのまま店の外に出て行ってしまいました。入店から退店するまで、およそ90秒。ただ盗みにきた人の犯行は、いつも素早く、手際の良いものなのです。

「ちょっと待って。お店の者ですけど、パンケーキの代金、お支払いいただけますか」
「え? ああ、そうよね。ごめんなさい」

 店の外に出たところで呼び止めると、さほど悪びれた様子も見せず素直に認めてくれたので、そのまま事務所に連行して処理を進めます。早速に、未精算のものをテーブルに並べてもらい、続けて身分を証明するものがあるか尋ねると、後期高齢者用の医療保険証を提示されました。それによると、この店の近くにある団地に住む老女は、79歳。聞けば、一人暮らしをしているそうで、迎えに来てくれるような人は思いあたらないと話しています。事務員に店長を呼び出してもらい被害を特定すると、計4点、合計で400円ほどになりました。所持金を聞けば、6,000円ほど所持しているので、食うに困っての犯行ではなさそうです。

「お金あるのに、どうして払わなかったの?」
「いや、外にいる鳩が可愛くてね」
「え? 鳩が、どうしたって?」
「うん。おなか空いてそうで、かわいそうだったから」

 蒸しパンケーキを盗んだのは、店の前に集まる鳩に給餌するためだと、悪びれる様子なくニヤニヤと話す老女に、急に顔色を変えた店長が怒気を強めて言います。

「もしかして、いつも鳩に餌やっているの、あんたなのか?」
「うん。毎日とはいかないけどね。2〜3日に1回は、やっているかな」
「あんたみたいに餌をまく人がいるから、餌付けされた鳩が、たくさん集まってきて困っているんだよ。フンの掃除、毎朝おれがしているんだぜ。盗まれたパンを餌にされた揚げ句、フンの掃除までさせられてよ。おい、ババア! ちゃんと聞いているのか?」

 低い声で凄まれても動ぜず、それを無視するかのように財布から500円玉を取り出した老女は、それをテーブルに置くと居並ぶ蒸しパンケーキをバッグにねじ込みはじめました。

「おいおい、謝りもしないで、勝手に入れるなよ。もう警察呼ぶから、そこでおとなしくしてな」

 蒸しパンケーキをテーブルに戻させ、きちんと謝罪したほうがいいと進言してみるも、ごめんごめんと口先だけで謝るばかりで話になりません。どうやら店長に怒鳴られたことが気に入らず、無視することに決めたようです。気まずい雰囲気が重苦しく、警察官が到着するまでの間、世間話をして場をつなぎます。

「鳩が、好きなんですか?」
「うん。幼稚園をやっていた頃に、大きな鳩小屋を作って、たくさん飼っていたのよ。だから懐かしくてね」
「幼稚園をやっていた?」
「そう。わたし、夫がやっていた私立幼稚園のあとを継いで園長をしていたの。バカだから騙されて、全部取られちゃったけど」

 話を聞けば、不動産取引に係る詐欺被害に遭ったそうで、そこから団地で一人住まいを始めたとのことでした。同性で年が近いからか、私の問いかけには余計なことも含めて答えてくれるので、気になっていることを質問してみます。

「お荷物たくさんあって大変ですね。お仕事か何かで使うものなんですか?」
「ううん、違うわよ。これは、私の全財産」
「全財産? 持ち歩いていたら大変じゃないですか? おウチには置いとけないんですか?」
「騙されてから、他人が信用できなくなってね。家に置いておくと不安で、いつもこうしているのよ」

 全財産といっても、荷物の状況から察するに衣類がほとんどで、私の感覚からすれば盗まれるようなものではありません。詐欺被害の話が事実なのかはわかりませんが、どこか壊れてしまっているような老女の現況を見れば、なにか大きなことがあったことに違いなさそうです。

 到着した男女の警察官が犯行状況を確認して、老女の犯歴照会をかけた結果、さしたる前科はなかったようで微罪処分で済ませる流れになりました。蒸しパンケーキの代金を精算してもらい、老女を警察官に引き渡すと、嫌味たっぷりな感じで店長が声をかけます。

「もう二度と来るなよ。鳩の餌やりも、絶対ダメだからな」

 返事をすることなく、少し悲しげな微笑を浮かべた老女は、パトカーのトランクに全財産を積まれて警察署に連行されていきました。

(文=澄江、監修=伊東ゆう)

このニュースに関するつぶやき

  • こういう老害こそ自分が悪だと気づいていない最もドス黒い悪という奴なんだろうな。
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