『ザ・ファブル』の原点! “環状族”を描く『ナニワトモアレ』が圧倒的に面白い理由

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2021年06月13日 09:41  リアルサウンド

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 2000年から始まり足掛け14年にもわたって「週刊ヤングマガジン」に掲載された、南勝久の『ナニワトモアレ』ならびに『なにわ友あれ』。通称『ナニトモ』として知られるこの作品がド傑作であることは、広く知られていることだと思う。


関連:【画像】『ナニトモ』といえばシビック!


 舞台は1989年。当時、夜間の阪神高速環状線では「環状族」と呼ばれる若者たちが、チームを組みつつ道交法ガン無視で走り回っていた。彼らの走り方は、車線も一般車も関係なしのやりたい放題。サスペンションを固め車内にはロールバーを入れ、エンジンにすら手を入れたりして車を改造。それを乗り回しケンカに明け暮れる環状族は、若い女の子によくモテた。主人公グッさんとその悪友であるマーボは、ナンパ目的で足を踏み込んだ環状の世界に魅せられ、いつしか環状族として走りにケンカにのめり込むようになっていく。


 80年代の終わりから90年代にかけて阪神高速を走り回っていた環状族が主役の漫画ということで、当然ながら当時彼らが乗っていたクルマが大量に登場する。劇中でも説明されているが当時の環状はシビックの全盛期で、ワンダーシビックこと三代目シビックを筆頭に、今でいうネオクラシックカーがゴロゴロ登場。とにかく猫も杓子もシビックという状況を描写しつつ、主人公グッさんの乗るS13シルビアやマーボのスプリンタートレノ(AE86)、CR-Xやスターレットといった往年のスポーツカー/ツーリングカーが要所要所で出てくるのも見所である。


 環状族の走りの描写も濃い。作者本人が元環状族ということから、実際の環状線の状況がリアルに描写され、走ったことがある人なら登場人物がどのあたりを走行しているのかしっかり理解できる。コーナーの位置とスピードメーターの速度表示の噛み合い方や、車両の操作の描写も地に足がついており、車に関する描写だけでも満腹である。


 と、ここまで書いたところで梯子を外すようなのだが、実のところナニトモの面白さは車や走りに関する描写以外の点にある。この漫画は走り屋の漫画ではなく「環状族の漫画」であり、この点がナニトモを独特な内容にしている。


 そもそも環状族とは、関西ローカル色の強い集団である。劇中でテッポー(という名前の登場人物がいるのである)が説明するところによれば、そもそも走り屋の集団が、暴走族より偉そうにして我が物顔で走り回っていること自体が全国的には珍しい。理由は単純、元は単車で暴走族をやっていた連中が、そのまま箱車に乗り換えて環状へ上がったからである。そのため、どんなに走りが上手くても、チームが集団で走り回る環状では単独で生き残ることは難しい。環状を攻めるなら、まずチームに入るなり新しくチームを作るなりして徒党を組み、さらに他チームとの抗争を生き延びて存在感を示すしかないのである。


 この、環状族は走りとケンカの両方を要求されるという点が、ナニトモの物語を奥深くしている大きなポイントだ。物語を大きく動かすのは走りではなくチーム対チームの抗争劇であり、その中で多様な登場人物が活躍したりしなかったり、男を磨いたり磨かなかったりするのである。


 正直な話、おれは車に全然興味がない。車が欲しいとも思わないし、自分から積極的に運転したいと思ったことも一度もない。そこまで車に興味がない人間からしても圧倒的にナニトモが面白いのは、このチーム間の抗争劇とチーム内の人間関係を軸に、「バブル期の環状族」という後にも先にも存在しない強烈な集団を描いた作品だからだ。つまるところ、この漫画は「知らない風習と考え方を持つ人々をリアルに描いた漫画」として、猛烈に面白いのである。


 その面白さを支えているのが、南勝久のリアルさへのこだわりだ。環状での走行シーンがリアルであるということ以外にも、登場人物の話し方ひとつとっても、キャラクター性と関西弁のバランスを考えたものが選びとられている。


 また、環状族にはチーム同士の付き合いもある。敵対するチームもあれば仲のいいチームもあるし、同じチームで毎週のように顔をあわせるメンバーもいる。しかし、基本的には仕事や日常生活で顔をあわせる間柄ではないから、自然と「あだ名は知ってるけど本名はわからない」「どの車に乗っているかはなんとなくわかる」という程度の付き合いの人間が増えることになる。そういった点を表現するため、ナニトモでははっきりと本名が全部わかる人間が全く登場しない。主人公グッさんですら本名がわからないし、家族構成や住まいについても何もわからない。「名前や生活の詳細がわからない」ということで表現されるリアルさも、世の中には存在するのだ。


 暴力に関する生々しさも強い。例えばケンカのシーンでも、何発もボロボロになるまで殴り合うようなことはほとんどない。ケンカ慣れした人間のクリティカルな打撃が入ればもう立っていられないし、打たれ強い人間に対しては素人がどれだけ殴っても意味がないという生々しさに、全編が貫かれている。チーム同士で戦うときは、まず相手集団のリーダー格を全員で潰し、動けなくしてしまえばあとは勝手に逃げていく……というような、実戦でしか知り得ないようなテクニックも盛り込まれている。


 こういった情報の盛り込み方と読ませ方で、ナニトモは当時の環状族たちが何を考え、どういう風景と空気の中で走っていたのかを表現しきっている。その内容はまるで、大阪を舞台にした『シティ・オブ・ゴッド』のようだ。そして、環状族たちの生態や考え方は、当時を知らず車に興味のないおれのような人間が読んでも、猛烈に面白い。環状族という異文化と不穏な暴力とオフビートな笑いをシャッフルして提示されるので、何回読んでも発見があるのだ。


 映画化もされた『ザ・ファブル』によって、南勝久という漫画家を知った人も多いと思う。それならば是非、南作品の原点であるナニトモにも触れていただきたい。長い漫画だが、読み出せば一瞬で全巻読んでしまうはずである。それにしても、『ザ・ファブル』はいつ連載再開してくれるんでしょうか。楽しみに待っているのだけど……!


(文=しげる)


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