『SPY×FAMILY』&『スパイ教室』に見る、最高にカッコいいスパイの条件

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2021年06月14日 11:11  リアルサウンド

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『SPY×FAMILY』『スパイ教室』スパイの条件

 世界で最もカッコいいスパイが、ショーン・コネリーによって演じられ、若山弦蔵が声を当てた007ことジェームズ・ボンドであることは絶対として、現在の世間でカッコいいスパイを挙げた時、遠藤達哉のマンガ『SPY×FAMILY』に出てくるロイド・フォージャーと、竹町のライトノベル『スパイ教室』のクラウスの2人が並び立つ。共に国を代表するスパイだが、近寄りがたい存在ではなく、ちょっぴりヌけたところが愛らしさを誘い、部下たちも読者も引きつけて止まない。


関連:【画像】『SPY×FAMILY』アーニャとヨル


 鉄のカーテンによって分断された西国(ウェスタリア)と東国(オスタリア)のうち、東国で精神科医をしているロイド・フォージャーには秘密があった。実は〈黄昏〉と呼ばれた西国の敏腕スパイで、東国の政治家ドノバン・デズモンドに接触し、政情を探るために潜入した。娘のアーニャは養子で、息子が通う名門校に現れるドノバンに子どもを介して接触しようと、孤児院を訪ねてもらったもの。妻のヨルも、母親がいないとアーニャが名門校を受験できないため、婚活して迎えたものだった。


 疑似家族。それだけでも興味深い設定だが、『SPY×FAMILY』の場合はアーニャがエスパーで、人の心を読めるという点が特別だ。ロイドがスパイだと知りながら、というよりスパイを知ったからこそ面白そうだと養女になった。ヨルはヨルで、東国で〈いばら姫〉の名で恐れられている凄腕の殺し屋。独身のままでは世間からいらぬ嫌疑をかけられると結婚相手を探していたところ、心を読んでヨルが殺し屋だと知ったアーニャがロイドを動かし、お互いを接近させた。


 アーニャだけがロイドやヨルの正体を知っていて、ロイドはヨルやアーニャに、ヨルもロイドやアーニャに自分の正体がバレないかといった不安を抱えているシチュエーションから生まれるすれ違いに、ハラハラさせられるのが『SPY×FAMILY』シリーズの特徴。もちろんロイドはロイドで、ヨルはヨルで完璧なまでにスパイであり、殺し屋の任務を果たす様がそれぞれにカッコ良い。


 第6巻のMISSION:37から、6月4日に出た最新刊の第7巻MISSION:38にかけ、ロイドはアーニャが通うイーデン校の同級生、ダミアンに近づく形でターゲットのドノバンと初の接触を果たす。そこまでの段取りがなかなかの工夫ぶり。面談がかなったドノバン相手に巧みな話術で心理を探ろうとする姿に、凄腕スパイとしての片鱗を見る。


 アクションでも、第1巻のMISSION:1からアーニャをさらった組織を格闘技で圧倒してのける。もっとも、第7巻のMISSION:40で、研究所潜入の任務に未来予知ができる飼い犬のボンドを連れていく姿がやや滑稽。決して冷酷無比ではなく、人間らしい部分があることが、殺し屋のヨルや、彼女の弟で国家保安局に務めながら〈黄昏〉を追うユーリに、正体を気づかれない理由なのかもしれない。


 ヨルはヨルで、妻であり母親として頑張ろうとして、食べたら死ぬような料理を作ったり、殺し屋としてのパワーをつい発揮して身の回りのものを壊したり、ロイドを負傷させるギャップが魅力を増加する。正体を明かせないで生き続ける窮屈さに、ロイドも含めて皆がだんだんと気づいていった先、フォージャー家に何が起こるのかが楽しみだ。


 ロイドは〈夜帷〉と共同作戦をとったり、家庭生活をそつなくこなしていたりする部分に完璧さが現れているが、『スパイ教室』に登場するクラウスは、まるで逆なところに凄みが現れる。


 ディン共和国にあって「焔」というチームに所属し、世界最強のスパイと目されていたクラウスは、参加しなかった作戦で『焔』の仲間をすべて失い虚無に沈む。そんなクラウスに与えられたのが、スパイ養成学校で落ちこぼれだった少女たちを鍛え、死亡率9割の“不可能任務”に挑むというものだった。


 世界最強のスパイだけあって、6個の南京錠を放り投げ、2、3度腕を振るだけで鍵を開けてしまうクラウスだが、その方法と問われて答えたのが「良い具合に開けろ」だけ。他にも交渉は「美しく語れ」で格闘は「とにかく倒せ」としか教えないクラウスの、超イケメンにして超凄腕ながら、教え方についてはまるでダメというギャップが笑える。


 もっとも、教えられる少女スパイたちにとってはたまらない。そのまま任務に挑めば死んでしまうと怯え、奮起した少女スパイたちは、クラウスを脅して“不可能任務”を取り下げさせようと画策する。そこは世界最強だけあって、色仕掛けも爆薬も見破って退けるクラウス。毒使いの《花園》のリリィなど、あと1歩に迫ったように見えて、「このお遊びには、いつまで付き合えばいい?」という決めゼリフとともに撃退される。


 このセリフは、クラウスの下で成長してく少女たちが、シリーズの中で挑む任務でも、ピンチをひっくり返す場面で登場する。水戸黄門の印籠のように、それが出されるまでのヒヤヒヤ感を味わうのも、シリーズの楽しみ方のひとつ。毒使いだけでなく動物使いや変装の名人や発明のプロといった、それぞれに突出した能力を持ちながら、それ故にスパイ学校で落ちこぼれていた少女スパイたちが、欠けている部分を補いながら任務をこなすチームプレイの妙も読み所だ。


 5月20日に出た最新刊の『スパイ教室05 《愚人》のエルナ』では、スパイ養成学校で最優秀だった6人によるチーム『鳳』が登場して、クラウスをボスに戴こうとして『灯』に挑んでくる。もっとも、教え方が「月にかかる虹のように盗め」や「満月のように丸ごとの自分で」といったクラウスに、「鳳」のメンバーがためらう気持ちも理解できる。完璧に見えて穴があるクラウスのギャップに萌えよう。


 最後に。ジェームズ・ボンドを演じたショーン・コネリーは2020年10月31日に、そして声をあてた若山弦蔵も2021年5月18日に亡くなった。最高にカッコ良いスパイを生み出した2人に、改めて心からの感謝を贈りたい。


(文=タニグチリウイチ)


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