「神様のカルテ」著者、最新作に実体験の「コロナとの闘い」

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2021年06月14日 11:30  AERA dot.

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写真夏川草介(なつかわ・そうすけ)/1978年、大阪府生まれ。医師、作家。信州大学医学部卒。2009年、『神様のカルテ』で小学館文庫小説賞を受賞しデビュー。映画化もされる。近著に『勿忘草の咲く町で 安曇野診療記』『始まりの木』など。
夏川草介(なつかわ・そうすけ)/1978年、大阪府生まれ。医師、作家。信州大学医学部卒。2009年、『神様のカルテ』で小学館文庫小説賞を受賞しデビュー。映画化もされる。近著に『勿忘草の咲く町で 安曇野診療記』『始まりの木』など。
 長野県の感染症指定病院の医師、夏川草介さんが、コロナとの闘いの最前線を小説『臨床の砦』(小学館/1650円・税込み)に描いた。

 信州の小さな病院が感染者を受け入れるが、病床はすぐに不足する。周辺医療機関の理解は得られず、老人介護施設ではクラスターが発生。危機に立ち向かう医師と看護師の姿は限りなくノンフィクションに近い。

「このままでは自分の精神がもたないと感じたのが執筆のきっかけです。書くことで心の中を整理する、リハビリのようなものですね」

 コロナ診療の現場は想像以上の厳しさだ。発熱して外来を訪れる人の対応に追われ、普段のような十分な診察ができないままホテルや重症者の受け入れ病院に送り込む。夏川さんには本来の消化器内科の仕事もあり、働き詰めの状態が1年以上続いている。医師も看護師も限界に近づいているのに事態は改善しない。

 大ヒット作「神様のカルテ」シリーズの著者である夏川さんは、今までも医療現場で悩んだとき、答えが見つからないときに小説を書いてきた。

「誰かに伝えようという気持ちは後から湧いてくるものです。医療の抱えている問題を書くことで、自分が何に悩み、どうしたいのかに気づくことがある。小説は不思議と答えを導いてくれるときがあるんです」

 今年1月末に書き始め、わずか2週間で脱稿した。病院から帰って1、2時間、淡々と思いを並べるように書いた。睡眠時間が削られても、書かないと寝付けない。今までの作品よりスピードが速かったのは、それだけ切羽詰まっていたからだ。

 昨年2月、クルーズ船の乗客を受け入れたときは病院内で意見が割れ、恐怖から泣き出す看護師、絶対に診るべきではないと主張する医師もいた。一丸となって何かできる空気ではなかったという。

「バラバラになってもおかしくないタイミングはいっぱいありましたが、大半の人が残って頑張っています。だからこそ、この物語も支え合うことが大事なんだという結論に持っていくことができました。私が踏みとどまっているのも、周りに踏みとどまっている人がいるからです」

 中学生の頃に読んだ山本周五郎『赤ひげ診療譚』が夏川さんの医師としての原点だ。

「自分の生活も大事ですが、ときにはそれを犠牲にしても闘うときがある。コロナ診療を通して、そういう立派なドクターが意外と周りにたくさんいることに気づきました」

 小説からも過酷な状況が伝わってくるが、経済より医療が大事というつもりはなく、様々な分野で奮闘する人の一側面として読んでほしいという。

 変異株が広がり、夏川さんのいる病院でも40代、50代の重症患者が急増している。

「本当にきつい。ワクチン接種が進めば少し落ち着いてくるとは思いますが、正直なところ、そこまで持ちこたえられるかどうか……」

 今こそ読みたい一冊だ。(仲宇佐ゆり)

※週刊朝日  2021年6月18日号

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