なぜ大学の女性リーダーたちは「多様性」を掲げるのか? 同志社大学長×東大副学長が対談

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2021年06月15日 08:00  AERA dot.

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写真(左から)東京大学理事・副学長(国際・ダイバーシティ担当) 林香里さん(57):1963年生まれ。ロイター通信東京支局記者などを経て、2009年から東京大学大学院情報学環教授。21年4月から現職。専門はジャーナリズムとマスメディア研究/同志社大学学長 植木朝子さん(54):1967年生まれ。90年、お茶の水女子大学文教育学部国文学科卒業。2007年から同志社大学文学部国文学科教授。副学長を経て、20年4月から現職。専門は日本の中世歌謡・芸能[写真/林香里さん(朝日新聞社)、植木朝子さん(楠本涼)]
(左から)東京大学理事・副学長(国際・ダイバーシティ担当) 林香里さん(57):1963年生まれ。ロイター通信東京支局記者などを経て、2009年から東京大学大学院情報学環教授。21年4月から現職。専門はジャーナリズムとマスメディア研究/同志社大学学長 植木朝子さん(54):1967年生まれ。90年、お茶の水女子大学文教育学部国文学科卒業。2007年から同志社大学文学部国文学科教授。副学長を経て、20年4月から現職。専門は日本の中世歌謡・芸能[写真/林香里さん(朝日新聞社)、植木朝子さん(楠本涼)]
 ジェンダーギャップ指数が世界120位の日本で、大学が担う役割は大きい。大学の女性リーダーである同志社大学長・植木朝子さんと東大副学長・林香里さんの二人が、大学におけるジェンダーとダイバーシティーについて語り合った。AERA 2021年6月21日号から。

【グラフ】大学における女性の割合はこちら

*  *  *
 今春、東京大学で新総長のもと立ち上がった執行部では、女性比率が「初めて半数を超え」話題を呼んだ。昨年、同志社大学でも150年近い歴史の中で「初の女性学長」が誕生。大学で女性リーダーがまだ少数派のなか、同志社大学の植木朝子学長と東京大学の林香里理事・副学長が、大学におけるジェンダーやダイバーシティーの課題についてリモートで対談した。

──「女性初の学長」「執行部の女性比率が初の過半数」と注目される状況についてどう思いますか。

植木:就任会見でも話しましたが、注目されることは有り難いのですが、女性が学長になることが当たり前になって、話題にならない時期がくることが望ましいと考えています。
林:注目される分、責任の重さを感じています。「女性が執行部の半数以上になった」ことが何を意味するのか。とにかく実行あるのみと思っています。

植木:何か失敗をしたときに、個人としてでなく、「女性だからダメなのではないか」と言われないか、プレッシャーを感じます。今はまだ過渡期なのだろうと思いますが。

■声届けられる者の責任

──企業などでも、女性が管理職や指導的地位に就いたときに、「女性」というバイアスのかかった見方をされることへのジレンマの声を多く聞きます。どう折り合いをつけてきましたか。

林:バイアスのかかった見方をされることは常に感じてきました。私は40代までは「自分は女性ではない。研究者なんだ」と、女性であることを禁欲的に抑えてきました。でも、50代に入ってやめました。私が女性であることは否定できませんし、東大の女性教授の比率は約1割です。10人集まると女性は私が1人だけという会議もしょっちゅうです。そうすると、マジョリティーである9人が「当たり前のこと」として気づいていないことが多々見えるのです。その違和感を口に出して伝えないといけないと思うようになりました。

植木:わかります。例えば、夏の会議室ってすごく寒いんですよね。男性はスーツにネクタイをつけているので冷房の温度設定が低くなっています。でも、男性が9人で女性が1人だけですと、寒さを口にすることはできません。「当たり前のこと」として、我慢している存在に気づく人もいません。些細なことに思われるかもしれませんが、マイノリティーの抱える困難や我慢というのはこうした小さな日常の積み重ねの中にあるのだと思います。マジョリティーの側に悪気がないケースも多く、違和感を伝えられる状況を作ることも大事だと思います。

林:「声を届けられるポジション」にいる者としての責任かなと思います。声を届けたくても、できない女性たちがたくさんいますから。また、マイノリティーは女性だけに限りません。

植木:私が副学長のときに、社会人入試で入った女性から、成績証明書を旧姓で出してほしいという要望がありました。本学ではトランスジェンダーの学生は戸籍名でない名前で成績証明書を出せるので、問題ないと思いましたが、一部で反対の声があがりました。結婚後の姓は自由に選べるのだから、トランスジェンダーとは事情が違い、旧姓使用の要望は「わがままだ」と言うのです。それを聞いて、女性の抱えている困難さがきちんと理解されていないと思いました。姓が選べると言っても、96%が夫の姓になっているのが現状です。必ずしも希望通りの選択ができているとは限らないことを説明し、理解を得ました。

■まずは母数を増やす

──女性学長の比率は大学全体で約1割。国立大学に至ってはわずか3.5%です。植木学長のおっしゃる「女性が学長になることが話題にならない時期がくる」ために必要なことは何でしょうか。

林:まずは、女性の母数を増やすことが大事だと思います。

植木:私も「数」は必要だと思います。ただし、役職者の数値目標などを設け、「数」が先行すると女性を追い込みかねないとも危惧します。女性に偏りがちな育児や介護の負担を減らす方策や時間の負担を軽減する方策を考えながら進めることが大事だと思います。

林:東大は「2021年の入試合格者の女性比率が過去最高」と報じられましたが、まだ2割です。女子学生の比率をまずは引き上げていかなければいけません。そうしないことには女性教員の割合も増えていきません。

植木:私は15年に学部長になりましたが、そのときも「女性初」でした。今は17人いる学部長、研究科長のうち5人が女性です。前例ができたことで、全体の意識が変わったのかもしれません。学部長、研究科長を経験した人たちが副学長になっていく流れがあるので、少しずつ増えていけばと思います。

林:東大には、昨年まで女性の研究科長がいたのですが、今はいません。リーダーシップをとれる女性がきちんとステップを踏み、バトンを渡していけるようにすることも私の仕事なのだなと、今のお話を聞いてあらためて思いました。

■多様性推進は成長戦略

──日本は世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数で120位と低迷が続きます。大学が担うべき役割は何でしょうか。

植木:「教育」だと思います。学生や教職員への啓発活動や、学外に大学の専門的知見を発信することが大事かと思います。

林:「教育」という点は私も同感です。今、教養学部の1、2年生に向けた啓発動画の提供を検討しています。加えて、学生たちには日本の外に出て、「ジェンダーギャップ指数120位とはどういうことなのか」、グローバルな視点に立って見てほしい。身をもって知ってほしい、とも思っています。

植木:今はコロナで海外に出ることは難しいですが、国内にいる留学生などと交流することはできます。学生が、自分と異なる文化や価値観に触れることは非常に大事だと思います。最近ではヘイトスピーチやレイシャルハラスメントなども問題になっていますが、その国の人を実際に知れば変わります。

林:国際的な視野を広げることは、多文化共生やダイバーシティーについて考えるきっかけにもなるはずです。

──新体制発足時の重点課題として両大学とも打ち出したのは、「ダイバーシティーの推進」です。その理由は。

林:ダイバーシティーの推進は、教育と研究を高めるための、いわば成長戦略。世界の最先端で勝負するには、優秀な学生が欲しいわけです。ところが、入学してくる学生の男女比はあまりにもアンバランスで、多様な優秀層がきちんと取れているのかという危機感があります。

植木:同志社の創立者・新島襄が残した言葉に「人一人ハ大切ナリ」があり、本学ではその精神が脈々と受け継がれてきました。新島の言葉を現代に置き換えたのが「ダイバーシティー」ではないかと考えています。

■一過性で終わらせない

林:研究の現場では「当たり前を疑う」ことが重要で、そこから発明や発見が生まれます。同質性の中にいては、その視点はなかなか得られません。そういう意味でも大学にとってダイバーシティーは不可欠です。

植木:同感です。ダイバーシティーとは性別だけでなく、国籍や障がい、性的指向なども含みます。多様性を欠いた組織は、柔軟性を欠き脆弱だとも思います。

──ダイバーシティー推進の「具体的な取り組み」は。

植木:4月に「スチューデントダイバーシティ・アクセシビリティ支援室」を開設しました。本学は障がい学生支援に力を入れ、先進校となってきましたが、身体と精神、発達の障がいの窓口は別でした。これを一本化し、多様な性的指向や性自認の相談にも対応できるようにしました。さらに現状の分析や課題の洗い出しをするため「ダイバーシティ推進委員会」も立ち上げました。

林:私は就任して3カ月で、これからいろいろと取り組んでいくところです。これまで2割いる女子学生たちに対するケアが手薄でした。マイノリティーの学生への支援を考えるワーキンググループをまず立ち上げました。加えて、バラバラに行われてきた支援を包括的に考える会議体を作りたいと考えています。

植木:マイノリティーにとって快適な状態は、みんなにとっても快適ですからね。

林:ダイバーシティーはバズワードにもなっていますが、一過性のキャッチフレーズで終わらせてはいけません。グローバル時代に不可避な「社会イノベーション」です。

(構成/編集部・石田かおる)

※AERA 2021年6月21日号

このニュースに関するつぶやき

  • ����ジェンダーギャップ指数120位とはどういうことなのか�ȥ����ڥå����å���
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  • 「多様性」にケチつけたり、罵倒したりする人間は、多くの場合、頭が悪い。自分がいつ少数派になっても不思議ではないことが、想像できないからだ。
    • イイネ!27
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