「地震雲」は存在しないってホント!? 雲研究者・荒木健太郎先生に聞く「雲と天気と防災のこと」【後編】

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2021年06月15日 17:02  マイナビニュース

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ここ数年、夏になると心配なことが、大雨や台風による水害などの気象災害。いつ起こってもおかしくない災害ですが、雲研究者の荒木健太郎先生は「天気の知識を持つことは、防災にも役立ちます」と語ります。

Twitterで雲や気象に関する情報を投稿して話題になったり、この春には書籍『すごすぎる雲の図鑑』(KADOKAWA刊)を上梓した雲研究者の荒木健太郎先生に、思わず空を見上げたくなる「雲と天気、そして防災のこと」を聞きました。

後編では、荒木先生がこの春書いた書籍『すごすぎる雲の図鑑』を作った経緯や天気の知識を持つことのメリット、そして雲と言えば気になる「地震雲」のことについて伺います。

■前編:虹は狙って見つけられる!? 天気を予測する「観天望気」とは

荒木健太郎 プロフィール
雲研究者、気象庁気象研究所研究官、博士(学術)
1984年生まれ、茨城県出身。慶應義塾大学経済学部を経て気象庁気象大学校卒業。地方気象台で予報・観測業務に従事した後、現職に至る。専門は雲科学・気象学。防災・減災のために、豪雨・豪雪・竜巻などによる気象災害をもたらす雲の仕組み、雲の物理学の研究に取り組んでいる
Twitter:@arakencloud

『すごすぎる天気の図鑑』作った経緯は?

――この春刊行された『すごすぎる天気の図鑑』、面白いかたちの雲や天気の話がわかりやすい! と話題になっています。

美しい雲や空の写真だけでなく、文字にも全部フリガナを振っていて、子どもたちに雲や空の面白さ、防災に繋がる知識を持ってほしいという思いで作りました。もちろん、子どもだけでなく大人も楽しめる内容です。

――雲や雨の様子がキャラクターで説明されていて、パラパラと見ているだけでも楽しい一冊ですね。

天気や雲の本は、以前は数式ばかりの難しい内容の本か、ふわっとした説明しかない写真集が多かったのですが、もっと定性的に理解できる本が作りたいと思っていました。2014年に『雲の中では何が起こっているのか』(ベレ出版)を執筆した際、物理現象を説明するキャラクターのイラストを使って解説を始めてみたら、雲目線で物事を考えられるようになったんです。

『雲を愛する技術』(光文社新書)、『世界でいちばん素敵な雲の教室』(三才ブックス)といった雲の本も執筆してきたのですが、読者さんの反応を聞くと、意外と小学生の方も読んでくださっていて、写真だけでも楽しんでますという話を聞きました。小学生って屋外にいる時間が多いので雲や空をたくさん見ていて、わたしたちが気づかない現象に気づいていたりもするんです。

そんな子どもたちにも、雲や空の面白さ、防災に繋がる知識を持ってほしいと思い、作りました。

――普段身近な天気のことですが、こうして見ると親近感がわいてきます。荒木先生は元々気象学を勉強されていたのでしょうか?

実は元々気象に興味があったわけではなく、数学を使った身近な分野の研究をしたいという思いがあり、最初は経済学部に入りました。ただ、当時はやりたい研究のできる研究室との出会いがなく、気象庁の教育・研修機関である気象大学校に入学して気象学の理論を学びました。

実は天気予報がうまく予測できない原因は、雲にあるんです。でも雲は解明されていないことも多く、これを調べたいと考えて現在の研究所に入りました。

研究所に来る前には地方気象台で天気予報や注意報・警報に携わる仕事も行っていたのですが、そのなかで「気象学は防災のための学問だ」と強く感じたんです。それが「雲研究者」としての活動の根幹にもなっています。

――たしかに台風や豪雨などの災害は気象学と関係が深いと思いますが、「防災のための学問」なんですか?

2015年9月に、豪雨により北関東の鬼怒川が決壊した水害がありました。実はその水害が起こる前、鬼怒川が流れる茨城県常総市で講演をして「集中豪雨はどこでも起こりうるし、鬼怒川も氾濫するかもしれません。ハザードマップを見て備えましょう」という話をしました。鬼怒川の水害では講演に参加してくれた方も被災されたのですが、あとで話を聞くと「まさか起こるとは思っていなかった」と言われたんです。

この「まさか……」と言う言葉、被災地で必ず聞く言葉です。ワークショップや講演をして防災の意識を持っても、続けることは難しい。継続できるアプローチが必要と考えたときに、楽しみながら続けられる防災のかたちが必要だと思ったんです。
「天気と上手な距離感で付き合う」2つのおいしいこと

――鬼怒川の水害のように、近年夏になると気象による災害が気になります。荒木先生は「気象学は防災のための学問」と言われています、知識を持つことで、防災にどう役立つのでしょうか。

天気の知識を持つと、おいしいことがふたつあります。ひとつはきれいな空や雲、美しい風景に出会いやすくなります。虹や彩雲も、コツさえつかめば頻繁に見られますよ。ちょっとした知識を持つだけで、きれいな風景が見られます。

もうひとつは、災害から身を守れることです。天気が急変する真下に、何も知らずに無防備でいるよりも、気象情報を上手く活用してあらかじめ備えておけば、「ゲリラ豪雨」と呼ばれるような大雨に遭う前に避難したりといったアクションを起こせます。

そのように美しい風景を見せてくれる一方、ときには気象災害を引き起こす空や雲と上手な距離感で付き合ってほしいですね。

――「虹が見られるかな〜?」と思うと、空を見るのも楽しくなりますね。

防災の知識を付けなきゃ! と思い詰めず、平時は空や雲を楽しんで、非常時にしっかり備えてみてください。
「あのへんな雲、もしかして地震雲!?」は勘違い!

――災害と言えば、SNSで「地震雲を見た」という投稿を見かけます。この雲はどういった雲なのでしょうか?

大きな地震があった後は、地震雲がSNSで話題になりますね。でも、雲は地震の前兆にはならないんです。

――えっ、地上から上がる細長い雲とか「地震雲」だと思っていました。てっきり地下から影響を受けているものだと。

こういった「地震雲」とよく言われるのは「飛行機雲」ですね。

飛行機雲は空を横切るものが多いですが、自分が見ている方向と同じ向きに飛んでいると、空に昇っているように見えたり、下に落ちていくように見えることもあります。

見ている方向の関係で、不思議がられて「地震雲」と呼ばれることがあります。

――ウロコみたいに波打ってる雲も「地震雲」っぽい! と不安になるのですが。

これは上空の空気の波に乗った「波状雲」です。山を越えた風や、上空のジェット気流に伴って現れることが多くあります。冬場、東北地方の太平洋側では山を越えた空気の流れによってよく見られるありふれた現象なのですが、なぜか不気味がられることが多いんですよね。

夕焼けがすごいときや、大規模な彩雲なども地震の前兆と言われてしまうこともあるようですが、実はこれらの現象は、全部気象学で説明できるんです。

――地震と雲とは関係しないんですか。

地震をはじめとした地下の状況が雲にどんな影響を与えるのか、そもそもわかっていません。一方、「地震雲」と言われることの多い雲がどう発生したのかは、気象学で説明できます。

もし仮に地下から雲へ何らかの影響があったとしても、気象学で説明できる物理と区別できるものではないので、人間の目で雲のかたちなどから地震の予兆を知ることはできません。

――全部説明できると思うと、ちょっと安心します。

地震が不安なのであれば、地震に対しての備えをしっかりしましょう。その上で、観天望気で天気を予測してみたり、雲を見て楽しんでほしいですね。
気象庁の臨時記者会見は注意して!

――最後に「天気や雲のことが気になってきたかも」という方に向けて、メッセージをお願いします。

これから梅雨末期には、大雨による水害が起こりやすい時期になります。災害のニュースを見かけるとき、「気象庁が臨時記者会見をするときはマジでヤバい」と思ってください。

――「気象庁の臨時記者会見、マジでヤバい」ですか。

大規模な災害が予想されていたり、すでに災害が起こっていてもおかしくないような場合、気象庁は「特別警報」を発表します。「50年に一度の大雨」とか「今までに経験したことのないような大雨」といった、その地域にとって極めて危険な状況です。

こういった状況が見込まれると気象庁から臨時記者会見が開かれるので、テレビやニュースでこの会見を見聞きしたときは「いつもと全然違う、本当に危ないことがおこりそうだ」と考えてください。そして自分の地域の状況を確認するのが重要です。

――大変な状況だとは思うのですが、自分の住む場所から遠い地域だと危ない意識が持てないこともあります。

テレビの向こう側だと他人事に聞こえてしまいがちですが、自分の地域でなかったとしても「今住んでいるところで災害が起きたら避難できるのか、身を守れるのか」と、自分事に置き換えてみてください。

食料品や生活用品などの備蓄だったり、住んでいる地域のリスクをハザードマップで見たり、最適な場所へ避難ができるのかなど確認してみましょう。特に今はコロナ禍の影響で、選択できる避難の場所や方法は変わっています。避難所に加えて、ホテルや親戚・知人の家など、自分に合った避難場所をあらかじめ考えておきましょう。

これをきっかけに「自分の住んでいるところで起きたらどうなるのか」と、ご家庭でぜひ話し合っていただきたいです。

――災害が起きないに越したことはないですが、自分の身を守るためにも知っておきたいですね。「天気と上手な距離感で付き合う」ことを実践してみたいと思います。荒木先生、ありがとうございました!

■前編:虹は狙って見つけられる!? 天気を予測する「観天望気」とは

KADOKAWA『空のふしぎがすべてわかる! すごすぎる天気の図鑑』
著者・荒木健太郎、定価1,375円
雲、雨、雪、虹、台風、竜巻など空(気象)にまつわる、おもしろくてためになる知識をやさしく紹介。映画『天気の子』の気象監修者としても有名な荒木健太郎氏が、天気や気象にまつわるとっておきのネタを教えてくれます。(羽村よりこ)
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