バリバリのドラ1候補に急浮上の大学生左腕。隅田知一郎が頭ひとつ抜けた

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2021年06月17日 06:51  webスポルティーバ

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 これで、頭ひとつ抜けたかもしれない──。

 6月7日、神宮球場のマウンドで投げる隅田知一郎(すみだ・ちひろ)を見て、そんな思いが頭に浮かんできた。




 2021年のドラフト戦線は、有望な大学生左腕が多い。筑波大の佐藤隼輔、創価大の鈴木勇斗、法政大の山下輝、関西学院大の黒原拓未。それぞれに長所があるものの、今春時点では突き抜けた存在とは言いがたかった。そんななか、西日本工業大のエース左腕・隅田が全日本大学野球選手権大会で見せたパフォーマンスは鮮烈だった。

 全国大会常連の上武大を相手に、立ち上がりから奪三振ショーを演じる。8イニングを投げて被安打4、奪三振14、与四球1、失点1。試合は0対1で敗れたものの、隅田個人にとっては最高のアピールになった。

「チームが勝つためにああいうピッチングをイメージしていましたけど、あらためてすごい打線だったんだなと感じました」

 大会を終えて九州に戻った隅田は、そんな実感を語った。西日本工業大に勝った上武大は順当に勝ち上がり、東農大北海道との準々決勝では毎回得点でコールド勝ち。準決勝では慶應義塾大に6対10で敗れたものの、終盤まで王者を脅かした。

 全国屈指の強打線を相手に披露した快投だけに、価値が高い。驚くべきは、どの球種でも三振を奪えるだけの精度があったことだ。

 試合後、隅田は「変化球すべてが決め球になるのが自分の持ち味なので」と語っている。この日、使った球種はスライダー、カットボール、チェンジアップ、ツーシーム、スプリット。ストレートを含めて6球種が「決め球」になるのだから、打者は的を絞れない。

 今春のリーグ戦では、あえてスライダーとスプリットを封印して戦っていた。武田啓監督の「スライダー抜きで勝負してもいいんじゃないか?」という助言がきっかけだ。その背景には隅田が抱えていた課題があった。

「スライダーを投げた直後のストレートが課題だったんです。スライダーはボールを内側に切る感じでリリースするのに対して、ストレートはタテに切る感覚でした。でも、感覚の誤差を修正し切れず、スライダーのあとのストレートがシュートしてしまっていて」

 スプリットの封印は、マスターしたばかりのツーシームの精度を高めるため。相手校にデータのない球種でリーグ戦を優位に戦える目論見もあった。

 上武大戦では、すべての球種を解禁した。課題だった「スライダーの後のストレート」も大きな進境があった。

「体をギリギリまで開かないように我慢して、体をタテ振りするイメージでストレートを投げていました。まだ完成とまではいきませんが、今までの自分にはない修正ができました。確実にステップアップできています」

 上武大戦で最速148キロを計測したストレートも、打者に向かって加速するような強烈なキレがある。今永昇太(DeNA)の立ち姿を参考にした力感のない投球フォームに、ピンチの場面での勝負度胸のよさ。この総合力の高さは、もはやドラフト1位候補と呼ぶにふさわしい。

 ただし、上武大戦では誤算がひとつあった。2回裏に主砲のブライト健太に浴びた決勝本塁打だ。

 西日本工業大サイドは今春の関甲新リーグでMVPを受賞したブライトを力でねじ伏せ、チームに勢いを呼び込もうと考えていた。試合前々日には、武田監督が「インコース3ついけ」とバッテリーに指示している。

 ところが、右打者であるブライトの懐を突き刺すはずだったストレートは、初球ボールに。2球目は甘く入って、レフト線への大ファウル。3球目はさらに甘く入り、豪快なスイングで左中間スタンドに運ばれた。

 隅田は「ストレートで勝負するからには厳しいところを攻めないといけないのに、ボール2〜3個分甘く入ってしまった」と悔やむ。一方で武田監督は、このストレートこそ隅田の伸びしろだと考えている。

「真っすぐはまだ伸びるはずです。角度ももうひとつ上から投げられると思います」

 これから秋のリーグ戦、そしてドラフト会議に向けて戦いは続いていく。ただ、西日本工業大は卒業後も硬式野球を続ける予定の隅田とアンダースロー右腕の下山泰輝以外の4年生は、今春限りで引退する。

 隅田にとっては、「野手のみんなに助けてもらったから大学選手権に出られた」という思いがある。今春の九州地区大学北部ブロックは近年まれに見る大混戦になり、西日本工業大、日本文理大、別府大の3校が同率で並び、優勝決定戦(巴戦)を行なった。

 隅田は別府大戦に先発、日本文理大戦にリリーフと連投するも、疲労はピークに達していた。9連覇中の絶対的王者・日本文理大に2点の勝ち越しを許し、西日本工業大は窮地に立たされる。だが、主将の前田瑞が9回に同点二塁打を放ち、延長11回の末に優勝を手にした。

 仲間の援護がなければ、神宮での快投もなかった。上武大戦後、引退する同期から「もっと大きな存在になってくれ」と励まされた隅田は、新たな決意を胸に再スタートを切っている。

「チームメイトからも『エースは隅田だ』と言ってもらって、なんとか西日本工業大として初めて全国大会勝利を挙げたかったんです。春はそれが叶わなかったので、秋もまた神宮に出てアピールしたいです」

 目指すは明治神宮大会出場。秋のリーグ戦では、王座返り咲きを狙う日本文理大も黙ってはいないだろう。また、明治神宮大会に出場するには、九州六大学と福岡六大学の代表校とも1つの出場枠を争うため、ハードルはより高くなる。

 それでも、隅田が再び神宮球場に帰ってくることがあれば、その時は間違いなく「ドラフト1位」の称号も引っさげていることだろう。

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