パーティションで「密室化」してクラスター 感染対策の落とし穴と正しい使い方

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2021年06月17日 08:00  AERA dot.

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写真電気通信大学の石垣陽特任准教授がパーティションの中で、感染者の呼気が滞留する様子を再現した。空間が密室と化していた(写真:石垣特任准教授提供)
電気通信大学の石垣陽特任准教授がパーティションの中で、感染者の呼気が滞留する様子を再現した。空間が密室と化していた(写真:石垣特任准教授提供)
 新型コロナウイルスの感染対策としてすっかりおなじみになった、オフィスや飲食店のビニールシートや アクリル板のパーティション。安心の目安になると思いきや、思わぬ落とし穴があるという。AERA 2021年6月21日号から。

【実験】パーティションで区切られた空間で空気はどうなる?

*  *  *
 オフィスや飲食店での感染対策として、パーティションの設置はすっかり定番になった。座席や区画を仕切るアクリル板やビニールシートを目印に、「自分のオフィスは大丈夫」「このお店なら大丈夫」と心強く感じている人も多いはずだ。

 だが、このパーティション、置き方を間違えると、感染予防ではなくクラスターの原因となりかねないという。

 電気通信大学の石垣陽特任准教授(情報工学)らのチームは、5月27日、パーティションについての注意すべき研究結果を発表した。パーティションが空間を遮蔽して空気を滞留させてしまい、換気に悪影響を及ぼし、結果として感染拡大の一因となる可能性があるという。

 きっかけは、3月下旬、宮城県内のオフィスで発生したクラスターだった。30人ほどのオフィスで計11人が感染した。

「このオフィスも感染対策としてビニールシートのパーティションを設置していました。調査を行うと、このパーティションによって空気が滞留し、感染が広まったと考えられることがわかったのです」

 オフィスの広さは180平米ほど。向かい合わせに並べられた机が5列ほどの島をつくっていた。向かい合う席の間は透明のビニールシートで仕切られた。ビニールシートは高さ160センチ、天井との隙間は80センチで、下は床まで垂れ下がっていた。対面部分だけでなく、いくつかの列の通路側にもビニールシートを設置していた。

■パーティション内で感染

 これだけを聞くと、適切な感染対策に思える。だが、実際には、このオフィスで2人の感染者がほぼ同時に出た数日後、次々に複数人の感染が判明、クラスターになった。感染したのは、パーティションで区切られた同じエリアにいた人たちだった。

 石垣特任准教授は、「縦方向に長すぎるパーティションが原因のひとつでは」と指摘する。

「パーティションは天井の隙間は十分ではなく、床との間も空いていなかった。パーティションで区切られたエリアが密室化し、空気が滞留してほとんど入れ替わっていなかった恐れがあります。隣接する席だけではなく、背中合わせに座っていた人も感染しました」

 石垣特任准教授は空気の循環を調べるため、クラスターが起こったオフィスの環境を再現し、実験を行った。

 室内を天井近くまであるパーティションで仕切り、ドライアイスから出る白煙を感染者の呼気に見立てた。ドライアイスをたくと通常冷たい煙は下方に溜まりがちだ。ファンで空気をかき混ぜ、煙の温度を室温にまで上げて、感染者のせきや呼気などから出る、ウイルスを含むマイクロ飛沫と同程度の温度になってから検証した。

「空気はパーティションの隙間からほとんど漏れませんでした。部屋でタバコを吸った後のように、ドライアイスの煙はパーティションで区切られた空間に充満しました」(石垣特任准教授)

 煙の濃度を計測すると、パーティション内の空気は1時間に0.1回だけしか入れ替わっていなかった。商業施設などで「換気の悪い空間」を避けるために窓開け換気をする場合、厚生労働省が推奨する換気は1時間に2回以上。この基準の20分の1しか換気できていないことになる。

 このオフィスは換気システムがなく、冬場だったため、窓も閉め切っていた。換気という意味では絶望的な条件に思える。

■設置の高さにカギ

 だが、同じパーティションのままでも、窓を開けファンを稼働させると、換気量は窓を開けない場合の100〜280倍になったという。

 このことからこのケースではパーティションの設置と換気、二つの課題があったとみられる。

 では、どうすれば、感染を効果的に防止できるのか。

 石垣特任准教授は、パーティション設置のポイントをこう解説する。

「まずは、空気の流れをパーティションで遮らないようにすることです。パーティションは、人の頭から口元をカバーするように、高さを調整してください」

 効果のある具体的な高さは今後調査するというが、座る場合、人の頭の高さである120センチが目安だという。立って働く場合は身長に合わせる。床まで仕切る必要はなく、オフィスの場合は、口元付近までをカバーすればいい。

 本当に口元から下はカバーしなくても大丈夫なのか。もし、ウイルスを含む飛沫が手につけば、感染の原因となるのではないか。たとえば、せきをすると、飛沫はあらゆる方向に飛び散る。その範囲は約1〜2メートルとされる。

 だが、東京理科大学の倉渕隆教授(空気調和・衛生工学会副会長)は、こう指摘する。

「本来、手はパーティションで守る対象ではありません。くしゃみや会話で出る飛沫が、直接顔にかかるのを防ぎ、ウイルスを口や目、鼻などの粘膜から体内に入れないようにするのが、パーティションの役割です」

 つまり、パーティションの役割はあくまで「飛沫感染」を防ぐことにあり、手や体に付着したウイルスによる「接触感染」を防ぐことではないのだという。
「『接触感染』は、手をこまめに洗い、飛沫のついた表面をきれいにすることで防ぐことができます」(倉渕教授)

■1時間に2回窓を全開

 ただし、飲食する場合は、皿や食べ物についた飛沫を口に入れないように、人の頭から机までを仕切るほうが望ましい。飲食店での感染対策でよく見かける、卓上から着席した人の頭くらいまでをカバーするアクリル板は、パーティションの置き方としては適切ということだ。

 密室化を防ぐという意味では、パーティションは空気を滞留させる恐れのあるコの字形に仕切るのではなく、風通しのよいI字形が望ましいという。

「アクリル板が大きい場合は、人の前にだけ置き、敷き詰めないようにすれば空気の通りがよくなります」(石垣特任准教授)

 その上で、石垣特任准教授は換気の重要性をこう強調する。

「パーティションの置き方を変えても、部屋の空気が入れ替わらなければ、対策の意味はありません。エアコンに通常は換気機能はないので、まずは、建物の換気システムを入れること。換気システムがない場合も、窓を開けて、ファンなどを使って空気の逃げ道を作れば、空気は循環します」

 換気システムがない場合は、必要に応じて窓を開ける。厚労省は、1時間に2回以上、数分間程度、窓を全開にすることを勧めている。

 ただし、換気をする上で注意点もある。空気の入り口と出口となる窓や扉を、対角線上に開けることだ。窓や扉を一つだけ開けても、ほとんど空気が入らなかったり、入ってもすぐに出たりしてしまう。

■ファンは人に当てない

 ファンで空気の排出を促進することもできる。窓に向かってファンを回し、ウイルスを含む可能性のある空気を排気するのがセオリーだ。その風を人に当てないように注意したい。

 私たちが換気が必要な目安を知ることはできるのか。

「空気がよどんでいると感じたり、場所によってエアコンの利きが違うと感じたりしたら、換気のサインです。換気システムがある場合も、窓を対角線上に開けて、空気の入れ替えをすることをお勧めします」(倉渕教授)

 換気ができているか、数値で確認する方法もある。

「CO2センサーで二酸化炭素の濃度を測定すれば、換気の状況がわかります。二酸化炭素の濃度1千ppm以下(空気中の二酸化炭素濃度が0.1%以下)であれば、換気ができていると考えてよいでしょう」(同)

 パーティションがあるからといって安心ではない。適切な設置と換気で対策を心がけたい。(ライター・井上有紀子)

※AERA 2021年6月21日号

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