前代未聞!? 校長の電話から始まった福島第三小学校のリモート参観の舞台裏

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2021年06月17日 08:11  マイナビニュース

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世界中がコロナ禍に見舞われた2020年。一斉休校などにより、日本の教育現場では、子どもたちの"学びの保障"が議論になった。しかし、学ぶ機会が奪われたのは学生だけではない。教える側の教員たちにとっても同じだった。

○コロナ禍だから意義のある挑戦

福島市立福島第三小学校は、平成11年度に文部省(当時)から研究開発学校として指定を受け、以来年に1回、教育研究公開を実施している。過去20年以上にもわたって続く、伝統にもなっているこの機会を、同校で校長と務める佐藤秀美氏は、コロナ禍の昨年度、実施すべきか否かで悩んでいたという。

「教育研究公開というのは、当時の文科省から指定を受け、総合的な学習の時間の導入をはじめ、各教科のよりよい指導の在り方について本校で自主的に行ってきた研修の成果を公開で発表する場として長年続けている大変意義のある行事です。他の多くの自主研究校は相次いで中止を決めていましたが、昨年度はちょうど3年単位でのまとめの年でもあり、なんとか実施することはできないだろうかと検討しました」

「コロナ禍だからこそ挑戦する意義があるのではないか」と逆境の中でも前向きに考えた佐藤氏だったが、ただでさえ教室の中で生徒たちはソーシャルディスタンスを保つことが求められ、密を回避しなければならない状況。そこに参観者を教室に入れるというわけにはいかない。

そこで考えたのが"オンラインでの実施"。「頭には浮かんだものの、我々にはそのノウハウはありません。学校だけでなんとかしようとするのではなく、第三者の力を借りよう」と、一斉休校明けの7月中旬に、佐藤校長自ら受話器を握りしめ、ダイヤルしたのがNTT東日本の電話相談窓口だった。
○校長自ら動く

電話で相談を受けた、NTT東日本 福島支店の菅野真由奈氏も「校長先生から直々にお電話をいただいて、とても驚きました」と明かす。というのも、学校現場におけるICT対応と言えば、県内の教育委員会の担当課が窓口となって進められるのが一般的。佐藤校長の取った行動は異例中の異例だった。

「しかも予算ゼロでのご相談で(笑)。それでも校長先生の熱意に押されて、お話を伺うにつれ、なんとかご協力したいという思いに駆られて上司にも相談したところ、『当社にとっても、この案件は今後の事業展開にとって極めて有意義な先進事例になる』という結論に至り、"実証実験"というかたちで全面的にサポートとバックアップを行いながら進めることになりました」
○NTT東日本による協力体制

かくしてNTT東日本の協力のもとスタートを切った、2020年度の教育研究公開のリモート参観。従来の教育研究公開では、参加者はすべての教室を自由に参観することができたが、感染防止策のため、校内の別会場に設置したスクリーン上でリアルタイムに配信し、"パブリックビューイング"のスタイルで授業をオンライン参観するという形で行われることになった。

実施にあたっては、公開授業では黒板側の教師と対面する児童の姿も同時に映し出す必要があり、2台のカメラが公開用の教室に配備。撮影機器として、NTT東日本のクラウド型カメラサービス「ギガらくカメラ」が選ばれた。

もとは商業施設の防犯用として使われることの多いカメラで、クラウド上で高画質な映像を視聴、録画できることに加え、「非常に広角で教室を見渡すようにして映し出すことができ、音声も比較的鮮明に拾うことができる」というのが採用された理由だ。

福島第三小学校の現在の校舎は昭和48年3月に竣工された歴史ある建物。校内の無線LAN環境では通信速度が不十分なため、NTTドコモCS東北福島支店の協力により、通信はモバイルルーターを活用した。

感染症対策のため、教育研究公開の現地での参加者は福島県内の人に限られていたが、当日はアドバイザーを務める東京大学大学院教育学研究科の秋田喜代美教授の研究室ともオンラインでつないで、リモートで参加したそうだ。

○リモート参観の舞台裏

まさにスポーツ中継のような"パブリックビューイング"スタイルで行われた、リモート参観。検討段階では「ビデオで撮影したものを視聴するのでもいいのではないか?」という意見も当然あったが、あくまでもリアルタイムでの視聴にこだわったのには理由がある。同校の教職員で、研修主任も務める君島慎一朗氏は次のように語った。

「実は従来、教育研究公開の後には、参加者どうしで授業について語ったり、教科ごとの分科会で集まって話し合う場も設けられたりしているんです。直前に見たものを熱が熱いうちに話し合う。だからそこで同じ空間を共有するというライブ感がとても重要なんです」

君島氏とともに教育研究公開の対応にあたった、学力向上主任を務める、永野忠明氏は、準備段階での苦労と当日の様子を次のように振り返った。

「本当にカメラの高さ1つとっても細かく検討しました。NTT東日本さんと何度もリハーサルを重ねて。そんな中、当日想定外で発生したトラブルがルーターの設置場所でした。事前の確認段階では問題なく通信できていたのですが、参観者が壁になってしまったんですね。NTTさんには、当日もサポートしていただいたのですが、本当に機材の調達から何から何までNTTさんのお力がなければ我々だけでは解決できないことばかりでした」

NTT東日本 福島支店で担当課長を務める島崎純一氏は、今回の実証実験を振り返り、その意義を次のように語った。

「黒板の板書をカメラで映すということだけでも、我々にとっても初めての経験で、決して簡単ではなく、試行錯誤する中で、多数の知見を得ることができました。ICTというのはあくまで手段にすぎません。中身、内容、目的があってこそ初めて有効に活用できるものなので、こうした問題や課題を解決する機会というのは会社にとっても非常に貴重な資産になります」

一方、当日の参加者の反応は、「教育研究公開というのは、外部の方が大勢来校されて、子どもにとってもテンションの上がる1日なんです。従来のように参加者が直接参観するかたちではありませんでしたが、例えば音楽集会においてもカメラを意識しながらの積極的な行動が見られるなど、リモートで制限された中でも、活き活きとした子どもたちの学びの姿をお見せすることができたのではないかと思っています」と君島氏。
○ICTが地域活性に果たす役割

今回のリモート参観には221人が参加したが、このうちの70人は新採用の教員だったという。

「昨年は県内のこういった研究公開の場がことごとく中止になってしまいましたが、若手の先生たちが学ぶ場を求めているという証しだと思います。我々にとっても、教育現場におけるこのようなオンラインの活用法があるんだという気付きがあり、新しい研究公開の在り方を学ぶ貴重な機会になりました」

福島第三小学校では、リモート参観による教育研究公開の経験を経て、その後も全校集会や、今年5月に行われた運動会といった行事でも同様にリモート視聴や観戦が行われたとのこと。今後も「保護者の授業参観などにも活用していきたい」と話す、佐藤氏。

最後に、ICTがもたらす将来の地域活性の可能性について、期待を込めて次のように語った。

「福島というのは、首都圏に人材も物質も供給するだけの土地でした。しかし、これからは今回のように、ICTを活用して福島に居ても仕事ができて、人材育成も含めて福島での地産地消も可能になって、まさに"Society 5.0"の世界が実現するのではないでしょうか」(神野恵美)

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