水野美紀 芸歴30年オーバーの私が我が子から学んだ「複雑な感情」

0

2021年06月17日 11:30  AERA dot.

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

AERA dot.

写真水野美紀さん
水野美紀さん
 42歳での電撃結婚。そして伝説の高齢出産から3年。母として、女優として、ますますパワーアップした水野美紀さんの連載「子育て女優の繁忙記『続・余力ゼロで生きてます』」。今回は、撮影現場での「緊張」への対処と恐怖、そして我が子から学んだ「複雑な感情」について。

【父・唐橋充の複雑な感情…イラストはこちら】

*  *  *
 7月期のドラマの撮影が始まった。撮影がスタートする時の緊張感は好きだ。

 初めましてのキャストやスタッフと挨拶し、セットに初めて足を踏み入れ、これからの3カ月弱、どんな空気感漂う現場で過ごすことになるのか。

 皆が皆を観察しながら探りながら撮影が進む。

「おっと、今回はかなり経験豊富なカメラマンさんだな」とか、「セットに美術さんのこだわりを感じるな」とか、「照明さんたのもしいな」とかとか、いちいち新鮮に感じながら初日は進んでいく。

 スタッフ側もきっとそうに違いない。

 初めて一緒になる俳優を見ながら、「へえ、そんな芝居するんだー」とか、「意外と肩幅あるんだー」とか、「セリフ噛むんだー」とかとか思ったりしているに違いない。

 あれ。

 怖い!! よくよく考えたら怖い!

 しかしもうキャリアも30年以上になった今では、どんなに頑張っても自分が3カ月間、完璧にやり切って終わることなど無理なのだと分かっている。

 ちょいちょいセリフ飛んだりするし、間違ったりするし。

 なので最初にダメなところを露呈しちゃった方が後がラクだと、そんな風に達観している。

 そうしていれば無駄に緊張しないで済む。

 無駄に緊張しなければ、無駄に緊張している時よりも落ち着いて芝居ができる。

 落ち着いて芝居ができれば、失敗も減る。

 ほんと言うと、セリフをうまく言う云々の失敗なんて些細なことで、感情をうまくコントロールできなかったりとか、会話をする相手とちゃんと感情を交わせなかった、とかいう、内面で起きていることの方が大きい。

 緊張していると視野が狭くなるので繊細な感情をいろいろ取りこぼす。これが一番恐ろしい失敗かも。

 あと、「緊張してるな」と思われるというかバレるのは一番恥ずかしい!

 そうすると「緊張しているのがバレないようにしなくちゃ!」とさらに緊張することになる。

 緊張というのは顔の筋肉をこわばらせる。

 緊張がバレないように笑顔を作ろうとしても、口がヒクヒクしたりする。

 その顔を見られるのはめちゃめちゃ恥ずかしい。

 若手の緊張は初々しくて可愛いが、私が緊張していても周囲はただただ戸惑うだろう。

 いや、緊張していることに戸惑う訳ではなくて、「緊張してません」という感じで振る舞ってるけど緊張しているのがダダ漏れ、という恥ずかしい状態が周りを戸惑わせるのだ。

 それは無意識に、相手に「気付いてません」という感じで振る舞うことを強要することになるからだ。

「めっちゃ緊張してるやん大丈夫?」と、軽く声をかけづらいだろう芸歴30オーバーには。

 だけども気付く。

「あ、バレてる」ということにこっちはすぐに気付いてしまう。

「なのに気付いていないフリをしようとしてくれている! 気を使わせてしまっている、恥ずかしい!」

 この事実にさらに緊張は増す。この状態から緊張を解くのはもう不可能だ。

 そういう時は最初に「緊張しています!」と口に出しちゃうのが一番だ。自分も周りもラクになれる。

 生きていくって大変。

 まもなく4歳になる我が子は、喜怒哀楽、面白いほど顔に出る。

 そのうち、親にそういう顔なんて見せなくなるのだ。寂しいもんだ。

 だけど今は全ての感情がストレートにダダ漏れだ。

 嬉しければ即興のオリジナルソングを歌い上げ、全裸で部屋を駆け回る我が子だが、先日、複雑な心情を垣間見せる場面があった。

 ガラス越しにそば打ちの様子が見える蕎麦屋を通りかかって、長い棒でそばを伸ばし、粉をふっては生地を折りたたんで、さらに粉をたっぷりふり、トントンと切る工程を食い入るように見ていた我が子。

 帰宅してさっそくタオルと棒を使ってその様子を再現しはじめた。

 タオルを広げて棒をコロコロ。

 そしてタオルを折りたたむ。

「粉、ふらないの?」と聞くと、急に手を止めてうつむいて、小さな声で何か呟いている。

「どうしたの? お粉、ぱっぱってやらないの?」と聞きながら顔を近づけると、小さな声で「それは恥ずかしい……」と言うのだ。

 私には分からない。それの何がどう恥ずかしいのか。しかし恥ずかしいと言うのだから、何か理由があって恥ずかしいのだろう。なんて複雑なんだ。

 もう一度台本を読んで、キャラクターを多面的に作り込もうと思ったよ、母は。

■水野美紀(みずのみき)
俳優。ドラマ・映画・舞台で活躍中。<出演情報>NHK 特撮ドラマ「超速パラヒーロー ガンディーン」が6月26日、日本テレビ系ドラマ「ボクの殺意が恋をした」が7月4日にスタート。レギュラー番組は、フジテレビ系バラエティ「突然ですが占ってもいいですか?」毎週水曜22:00〜、読売テレビ「水野美紀の映画生活(シネマライフ)」毎週金曜22:54〜<関西ローカル>  http://www.ytv.co.jp/cinemalife/

【書籍『水野美紀の子育て奮闘記 余力ゼロで生きてます。』好評発売中】

    ニュース設定