公立小で初「異年齢クラス」を導入 学年を超えて「筆算のやり方」教え合う姿も

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2021年06月19日 08:00  AERA dot.

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写真常石小学校で行われている、「つくる」をテーマにした高学年のワールドオリエンテーション。子どもたちは「常石パーク」と名付け、畑や秘密基地づくりに取り組む(写真:常石小学校提供)
常石小学校で行われている、「つくる」をテーマにした高学年のワールドオリエンテーション。子どもたちは「常石パーク」と名付け、畑や秘密基地づくりに取り組む(写真:常石小学校提供)
 子ども一人ひとりの個性を尊重し、自律と共生を掲げるイエナプラン教育。公立校として初めて取り入れたのが福山市立常石小学校だ。「義務教育」を特集したAERA 2021年6月21日号は、導入背景や効果などを取材した。

【写真】常石小学校では筆算のやり方について思い思いに考えを伝えあう

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 広島県福山市では、現在の常石(つねいし)小学校を改編し、22年にイエナプラン教育の実践校「常石ともに学園」を開校する。公立校としては全国初の試みだ。

 20、21年度は新設校への移行期間に位置づけられ、現在は1〜3年生の全てと、4〜6年生の一部の教育活動を異年齢で行っている。正式開校前にもかかわらず、注目度は高い。移住を検討する家族も多く、21年度の新1年生入学者23人のうち、5人は市外からの移住者だった。

 甲斐和子校長はイエナプラン教育について、こう語る。

「これまで私たちは個性を育む教育を大切に考えながらも、『この学年はこれをやる』『ここまでは教える』という意識をなかなか拭(ぬぐ)い去れずにいたように思います。でも、イエナプランでは一人ひとり違うことが当たり前に、ごく自然にそこに存在する。それぞれの成長を、私たちも一緒に成長しながら見守っていける教育だと感じます」

■異年齢での授業で効果

 イエナプランだからこその学びの深まりも、日常的に起こっているという。5月末、甲斐校長が参加した「ブロックアワー」でも、そんな瞬間があった。

 2年生のある児童が計算問題を解いていたが、習ったばかりの筆算のやり方を間違えていた。教員がそれに着目し、どうすればいいか、2、3年生に問いかける。3年生が2年生に自分の知識を伝えたり、2年生が疑問を口にしたり、思い思いに発言する。やがて、筆算に必要な桁の繰り上がりが話題になった。すると、3年生を中心により大きな桁の数え方を知りたがる声が上がる。

「学ぶ必要がある内容ではない『京』や『垓』といった単位まで自分たちで興味を持ち、学び始めた。そして、その後の単元テストでは、きっかけになった2年生の子も筆算の問題をスラスラ解いていました。皆が様々なことを言う中で、どれかが腑(ふ)に落ちたんだと思います」

 福山市がイエナプラン教育に取り組むことになったのは、16年に「変化の激しい社会をたくましく生きる子どもを育てる」ことを目指して始まった教育改革「福山100NEN教育」がきっかけだ。同市教育委員会の三好雅章教育長は、二つの問題意識があったと説明する。

「一つは子どもが楽しそうでなかったこと。これまでの教育は、一つの価値観やゴールを大人が示し、『子どもの意見を引き出す』などと言いつつも大人がイメージした道筋に沿って授業や行事が行われてきました。その結果、学校では指示されたことに一生懸命取り組む子どもの姿は見られたけれど、自分たちで考え、楽しそうに熱中するエネルギーを感じることが少なかったです」

 二つ目が「理解度」への危機感。こんな例題がわかりやすい。

「子どもが10人、1れつにならんでいます。ことねさんの前に3人います。ことねさんの後ろには、何人いますか」

 1年間授業を受けた1年生のほとんどが、この問題文を読むことができる。そして、同じように10−3=7のような計算もできる。それでも、この問題を解けない子が大勢いる。

「小学校の先生はそれぞれの単元を、繰り返し、丁寧に教えています。単元ごとに見るとほとんどの子が理解しているように思えます。それでも、文章題になると式を立てられず、答えが出せない。教科をベースにしたスモールステップではなかなか本当の理解につながらないんです」

 個々人で、学ぶスピードや理解度が全く異なる現状もある。福山市では16年、市内二つの小学校の1年生を1年間観察し、国語と算数の授業を動画に記録しながら言葉や数の習得過程を調査した。入学時点で言葉の習得状況や語彙(ごい)はどうか、1年間学び、それがどう変化していくか。その過程を研究したという。

「学びのペースや習得過程はその子それぞれだと改めてわかりました。学年や教科を超えた取り組みが必要だと痛感しました」(三好教育長)

■目指すのは深い学び

 その結果を受け、イエナプラン校の具現化前から、七つのパイロット校を中心に異年齢での学習に取り組み始めた。イエナプランを導入する常石小学校は今後、その教育のモデルケースになる。三好教育長は言う。

「私たちが目指すのはイエナプランそのものではなく、深い『学び』です。全市で取り組んでいるので、教員が異動しても、経験が生かせると思います。『学び』の追求は、長い時間をかけて育てる取り組みです。『福山100NEN教育』は、この一点に集中しています」

 イエナプランに限らず、私立校では新たな選択肢となりうる教育の場がわずかだが増えつつある。だが、子どもたちの圧倒的多数は公立校で学ぶ。そして、公立校でも入学時点で家庭の経済状況や教育への考え方によって、大きな「差」が存在する。その「差」は本来、公教育のなかで解消されるべきものだ。

 子どもが主体で、それぞれのペースで自立的に学んでいく。できる子だけが勝ち残るのではなく、一人ひとりを取り残さない。そんな教育は、公立校にこそ必要なものと言えるだろう。(編集部・小長光哲郎)

※AERA 2021年6月21日号

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  • 10人並んで前に3人なら、本人の後ろは「10−3=7」ではないですよね。 ....実は「11人いる!」?
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