相棒猫の死にハッとしたもう一匹 「泣かないと決めてたけど」50代女性のペットロス経験

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2021年06月21日 10:10  AERA dot.

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写真夏彦君(左)と彦星君(右)(提供)
夏彦君(左)と彦星君(右)(提供)
 飼い主が毎日どんなにペットの健康管理に気を配ってあげても、犬や猫の寿命は人間より短く、いつか別れの日が来てしまうのは避けられない。家族同然の存在を失ったダメージから長い間立ち直れず、つらい思いを抱える人も多い。しかし、小さな行動の積み重ねで少しずつ心を上向かせることもできるという。昨年、愛猫を病で亡くし、その後、ペットロスを日ごとに克服しつつあるという経験者に話を聞いた。

【写真】「大好きだよ」と言って撫でてあげたいのに、あの子はもういない
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「もう二度と元気なあの子には会えないんだ……そう思っただけで悲しくて、苦しさで胸が締めつけられるような気持ちでした。昨日、撫でてあげたらとってもうれしそうだった、あと少しで退院できると信じていたのに……。自分ではどうにもできない状況に涙があふれて止まらず、本当につらくてたまりませんでした」

 都内のIT企業勤務の伊藤香織さん(仮名)は昨年、コロナ禍で愛猫「夏彦」君をなくした。伊藤さんは40代半ばで一念発起し、都心に猫が2匹まで飼えるマンションを購入。夏彦君が亡くなるまで、先に飼っていたオス猫「彦星」君と1人と2匹暮らしだった。

 2匹ともいわゆる保護猫。先に飼った彦星君は、福島県双葉町の出身。2011年末、東日本大震災の原発事故の影響による立ち入り禁止区域で、置き去りにされた動物の保護を環境庁が一時的に許可した日に保護された猫だった。吸い込まれそうなグリーンの瞳に精悍な顔立ちのキジトラ猫で、どこか堂々たる風格を漂わせていた。

「外見では分からない猫エイズのキャリアがありましたが、だからこそ飼ってあげたいとも思いました。なにより、そのイケ猫ぶりにひと目ぼれ! 連絡をくれた保護猫活動を行なう知人を介し、1カ月のトライアル期間を経て家に迎えました」

 黒猫の夏彦君が伊藤さんのもとにやってきたのは、それから4年後。同じ知人を通し、やはり猫エイズキャリアのある当時推定3〜4歳のオスの保護猫だった。

 こうして始まった2匹の猫との生活。それは想像以上に豊かな時間を伊藤さんにもたらした。

「通勤電車では携帯アプリで自宅にいる2匹の様子を遠隔チェック。仕事や私生活で落ち込むことがあっても、家に帰ればこの子たちが待っている……独身で一人暮らしの私はそれだけで本当に癒されました」

 2匹の体調が良いときは、伊藤さんの帰宅を出迎えた後に大運動会。室内をぴょんぴょん跳び回りながら、「見てますかぁ?」と言わんばかりにチラチラと伊藤さんの様子をうかがう。

「私の帰宅に興奮するというよりは『僕たち今日も元気ですよー!』とアピールするために、『さあ、今日も始めるか』と、わざわざやってくれる感じ(笑)。2匹とも普段はほとんど鳴かない静かな子たちで、アプリで見ていると帰宅直前までクッションの上でまったり寝ているので、そのギャップがすごく面白いんです」

 その2匹の存在がより大きく感じられたのが、コロナ禍だ。昨年春の緊急事態宣言後、伊藤さんの生活も一変。出社は一切なくなり、すべての業務が在宅リモートワークに切り替わった。感染収束が見えず、会食は自粛という状況下で、友人や同僚と直接会える機会が失われ、同僚たちとの何気ない雑談も消えてしまった。

 そんな中で漠然とした不安や孤独を感じることが増えていったという。

「自宅に引きこもるような環境はメンタル的にかなりきつい。猫たちがいなかったら病んでいたかもしれません」

 彦星君は、飼い猫ながら伊藤さんにとってはパートナー的な存在感。感染拡大の報道に伊藤さんが顔を引きつらせていても、ふと隣を見れば泰然と座る彦星君がいた。その横顔を見れば心強くなり、「改めて気をつけて生活しなくては」と身が引き締まる思いがしたという。

「夏彦も温もりが恋しくなると、兄のように慕う彦星のそばに行き、ペロペロなめてもらって安心する。その様子が本当にかわいくて見ているだけで癒されます」

 2匹の猫たちに救われた伊藤さんだが、予期せぬ事態が愛猫を襲う。夏彦君に深刻な病気が発覚したのだ。夏に、なかなか治らない外耳炎に不安を感じて大学病院を受診したところ、リンパ腫が見つかった。検査の結果は悪性だった。

 室内飼いで健康管理に万全を期しても、体質や年齢で病気になってしまうケースは少なくない。

「夏彦は、すでに内耳の骨が壊れるほど腫瘍が肥大していて……。それでも専門医の『抗がん剤治療で治癒できる可能性もある』という言葉に望みをつなぎました」

 夏彦君はすぐに入院。腫瘍の影響で舌や口の中に麻痺が出て食餌もとりづらくなり、栄養摂取は鼻チューブ、時には喉に管を直接入れることもあった。

 それでも伊藤さんは猫たちにストレスをかけないよう、極力、猫たちの前で泣かないように努めていた。家では夜中に彦星君が寝た後や、買い物で外に出た時に裏道でこっそり泣いていたという。

「夏彦は臆病な性格の子だから痛々しい姿が不憫で……。遠方の病院でしたが休診日以外はほとんど毎日、面会に行っていました」

 酸素室で心電図やチューブにつながれた夏彦君の姿を見るたび、伊藤さんは涙が出そうになるのをグッとこらえ、「夏ちゃんは強い子だから大丈夫だよ、大好きだよ」と話しかけながら、夏彦君の顔や体を撫でてあげた。すると、夏彦君は伊藤さんの手に顔を押し付けたり、自分から体勢を変えて「もっと撫でて」と言うように気持ち良さそうな顔をしたり。伊藤さんはそれだけでうれしくて、夏彦君が満足するまで何時間でも撫で続けたという。

「『彦ちゃんも会いたがってるよ』と、彦星の動画を見せて鳴き声を聞かせると、こちらに向けた目に少し力が入るのがわかりました。時間がくると『また来るよー』と声をかけ、後ろ髪をひかれる思いで病院を後に。夏彦の様子に一喜一憂しながら、早く良くなりますようにと祈るような思いで毎日を過ごしていました」

 しかし、別れは突然だった。

 2回目の抗がん剤治療を順調に終えた矢先、誤嚥性肺炎を起こし、そのまま亡くなってしまった。急なことで、連絡を受けて病院に駆け付けると、すでに息を引き取っていた。

「最期を看取れず病院で死なせてしまったことが心残りで後悔ばかりでした」

 一緒に通院した道を歩けば涙があふれてきたという。でも、悲しいのは伊藤さんだけではなかった。

 病院から夏彦君を連れ帰った日、遺体の箱に寄ってきた彦星君は中をのぞくと、箱から離れて暗い洗面所にうずくまり、しばらく部屋に戻らなかった。

「すぐに相棒の死にハッと気づいたんでしょうね。私もひどく落ち込み、夜中に何度も目を覚ます眠れない日々が続きました」

 犬猫などの葬儀を手がける霊園に連絡をとり詳細を確認。愛犬の葬儀の経験者である友人が車を出して現地へ同行してくれた。コロナ禍にもかかわらず、寄り添ってくれたことが本当にありがたかったという。

 伊藤さんは愛猫を亡くした直後は酒量が増えてしまい、休日は昼間からワインを飲んで鬱々と過ごしたこともあったという。しかし、「あなたと暮らせて幸せだったと思う」「できることはすべてやったよ」「今いる猫のためにも身体に気をつけて」といった友人たちの温かい言葉になぐさめられた。

 彼女に寄り添う彦星君の存在と癒しの力も大きく、少しずつ心が前向きに戻っていった。

「猫エイズがテーマのマンガを読み、『わかる!』と共感するうちに、つらさを吐き出せたように感じて少しラクになったことも。同時期に飼い猫を急な病で亡くした知人と気持ちをシェアしあえたことでもかなり救われました。また、ペットロス経験した友人の『今も後悔や自問自答するけれど、これはしょうがないこと』という言葉に、この思いを抱えながら自分を許したり認めたり、自己肯定していくしかないんだと思い至りました」

 数カ月後、愛猫たちを世話してくれた同じ知人から連絡があり、1歳半のオスの保護猫を急きょ預かることになった。初対面から彦星君との相性が良好で、「これも縁」と迎えることを決めた。

 現在11歳の彦星君は加齢で体力が衰え気味だったが、若い新入り猫と遊ぶうちに食欲が回復。久しく上がれなくなっていた高所へもポンとジャンプするようになり、伊藤さんを驚かせた。実は彦星君は2年前に悪性黒色メラノーマが見つかり、右目を摘出する手術を余儀なくされた。幸い一命はとりとめたが現在は進行性の肥大型心筋症を患っており、経過観察中だ。  

 また、相棒猫の夏彦君を失った直後から、ストレスからか血がにじむほど過激なグルーミングをするように。ずっと伊藤さんの心配の種だったが、それもピタリと止んで心底ホッとしたという。

「猫はとても繊細だから、よけいなストレスを与えないように悲しくてもガマンして、彼らの見てない所でコッソリ泣くことが多かったんです。でも、無理して平気なフリをするのはこじらせるばかりで良くない。つらいときはつらいと周囲に言える状況が自分のメンタル回復にはとても良かったですね。この悲しみを受けとめてくれる人になら、心の中を吐き出しても大丈夫。つらい状況を自分一人で乗り越えようとせず、誰かを頼ったり、時には環境を変えたりすることも、決して悪いことではないのだと思います」



 2020年の全国犬猫飼育実態調査(一般社団法人ペットフード協会調べ)によると、飼い犬の数は848万9000頭、猫は964万4000頭。2019年以降、癒しを求めてペットを飼う人が増加傾向にある。とくに家で過ごす時間が増えた昨年は、ペットの存在で家族間コミュニケーションが深まったという声も多い。一方で、無責任な飼育放棄も多発し、安易な多頭飼いなども社会問題化している。

 犬の平均寿命は14.48歳、猫は15.45歳、人間よりも寿命は短いが、それなりの期間は生きる。そのため、気持ちがあっても飼い主が高齢だと最期まで世話できず、結果的にペットの不幸せにつながってしまう。実際に、前出の伊藤さんと近しい保護猫活動グループでも、生後3カ月の子猫の引き取りを希望した夫婦がいたが高齢だったため、譲渡を断らざるをえなかったケースがあったという。

ペットによって得られる癒しや安らぎはすばらしい。しかし、動物を不幸にしないためにも、住環境や経済状態、飼い主の年齢などの条件をクリアできない場合は、飼育を見送る自制心と冷静な判断も必要なのではないだろうか。(取材・文/スローマリッジ取材班 山本真理)

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  • 「どれだけ尽くしても後悔は必ず残る。だから自分を責めてはいけない」殿の主治医から言われた最後の一言で、私は酷いペットロスにならずに済んだ。有り難う、先生。
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