障がい者雇用の新しい取り組み ノーマライゼーションを目指す企業に聞く

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2021年06月21日 11:01  OVO [オーヴォ]

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写真栗原工業株式会社 入社式。
栗原工業株式会社 入社式。

 障がいを持つ者と持たない者とが平等に生活する社会を実現させることを目指す――。これは、1950年代に北欧から始まった社会福祉理念の一つ、ノーマライゼーションだ。障がい者や高齢者が社会生活を送る上で障壁となるものを取り除くバリアフリー、誰にとっても使いやすいユニバーサルデザインも、この概念に含まれる。日本でも2011年、内閣府に障害者政策委員会が設置され、2018年には2022年までの5カ年計画である第4次障害者基本計画が策定されている。この基本計画の柱の一つである「雇用・就業、経済的自立の支援」の分野での取り組みを探った。




■障がい者雇用による野菜作りを、社員の健康ケアにつなげる取り組み

【動画】障がい者雇用の新しい取り組み

 2021年6月1日、大阪市にある栗原工業株式会社の本社ビルで入社式が行われた。同社は電気設備工事などを行う創業100年超を数える企業で、初の試みとして新たな社員を迎えていた。壇上から、同社の代表取締役社長である横井正温氏が、「企業向け貸し出し農園の参画を通じて皆さんにご入社いただきました。新しい取り組みに大いに期待しており、農作物を育てるという仕事を通じて働く喜びを体感していただきたい」と挨拶した。金屏風の前で社長から直接手渡された辞令書を、障がい者6名とリーダー2名の8名が期待と緊張の入り混じった表情で受け取る。後部座席からは、数名の保護者が感慨深げに見守っていた。

 その様子を背後から見つめていた一人、人事総務部の岩見昌和さんは、同社の障がい者雇用の取り組みをけん引するキーマンだ。「障がいをお持ちの方も社会参画は絶対にできる」という信念のもと、障がい者雇用の新たな形を模索してきたという。「当社は建設業なので、(障がい者に)現場に出てもらい、一緒に手足を動かすのは少し難しいなというところがありました。でも、障がいをお持ちだからといって、無理やり作業を作り出すことは考えていなかったんです」


 今回採用された8名の配属先は、人事総務部所属の「摂津ファーム」。農園での野菜作りが彼らの任務だ。「これまで取り組んでいなかったことだったので、単に法令遵守とか障がい者雇用を達成するだけじゃなくて、その先に何を組み合わせて会社として価値を作り出していくのか、社内に向けて説明するのに苦労しました」

 工事現場で働く従業員を多く抱え、食が乱れがちな若手社員の健康管理に、以前から課題を感じていたという。「会社としてしっかり健康経営を推進したい、そのためには若手社員の健康保持が第一だ。なら、社員寮で野菜をしっかり食べてもらおう。そのためには野菜が必要だ。なら農園で障がいをお持ちの方に野菜を作ってもらおう、という形で落とし込んだんです」

 8名のための本格的な入社式は、岩見さんのこだわりでもあった。「私たちはワンチームですから、健常者の新入社員を迎えるのと全く同じにしよう、差異を全くなくしていくというところに注意しながら準備しました。農園を立ち上げるところから社内報などで告知し、他にも私が担当しているノーマライゼーションの研修といったところで、障がいをお持ちの方と同じ会社で一員として働いているということを(周りの社員に)浸透させていきたいと思っています」

■企業向け貸し農園の運営で、障がい者の雇用と就労をサポート

 栗原工業の新入社員の勤務先は、大阪府摂津市に開園する屋内型農園「わーくはぴねす農園」だ。この企業向け貸し農園は、農業を活用した障がい者雇用支援事業を行っている株式会社エスプールプラス(東京都千代田区)が運営している。同社の社長である和田一紀氏は、現サービスを始めたきっかけをこう振り返った。


 「今も、障がい者の人口は964万人いて、そのうち働き盛りの18歳から64歳の人口は361万人、そのうち就労できている人数は58万人(内閣府令和元年障害者白書より)。なんと16%しか就職できていないんです。しかも、就労者の70%が身体障がい者に集中していて。事業を始める当時も、特に知的障がい者の就労状況が良くないことが気になって、障がいのある方にとって経済的自立は非常に難しいことなんだ、この状況を当社が変えていくべきなんじゃないかと思いました」

 2010年の事業開始から2021年までに、同社で就労をサポートした障がい者は2,000人超を数えるという。なぜ、これだけの就労を実現できたのか。「いろんな仕事を探していた時に、息子が幼稚園児のころ、芋ほりに行くととても喜んでいたのを思い出したんです。これなら楽しみながらやれるんじゃないかと思いました」

 障がい者用にカスタマイズした企業向けの貸し農園を、障がい者を雇用したいという企業に貸す。加えて、障がい者の採用活動や、農業をスタートしてからの定着支援をワンストップでサポートする。こうしたサービスを関東や東海で展開し、今ではおよそ350社の企業が参画しているという。2021年6月1日には関西初となる摂津農園がオープンし、21年秋には枚方農園も開園を控えている。


 「摂津農園は屋内型で、夏の暑さが苦手だったり、体温調整ができない方に向いている環境です。都心部に建設できるので、都心部での就労を希望される障がい者に働いてもらえます。台風や水害などの自然災害にも強いです。枚方農園は屋外型。開放的で、ノンストレスな環境で働きたい方に非常に向いています」

 枚方農園の開設に向けて、枚方市とは、農福連携による障がい者就労の充実に関する協定を2020年に締結した。枚方市は耕作放棄地増加の問題も抱えており、障がい者が就労する農園事業に期待するところは大きい。伏見隆枚方市長は、「われわれも、障がいのある方もない方と同じように社会で自立して過ごし、生き生きとやりたいことができて社会に参加できることを目指している。果敢に取り組んでいきたい」と意気込んだ。


 障がい者の一般企業への就労は、まだまだ道半ばだ。が、ノーマライゼーションに向けた歩みは、一歩ずつ前進している。入社式の後、施工社員が現場で着ているものと同じユニフォームにそでを通した、栗原工業の新入社員である吉岡達司さんは、「人に喜んでもらえるようなものを作っていきたい」と働く喜びをにじませた。障がいを持つ者と持たない者の差異を感じないほど、誰もが平等に生活できる社会。それは、私たち一人一人の意識改革と行動によって実現されていくのだ。

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