ワクチン予約サイトのアクセス集中、特効薬は“仮想待合室”の設置にあり

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2021年06月21日 12:12  ITmedia NEWS

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写真これまでのワクチン予約サイトに使われているシステムは極端なアクセス集中を想定した設計になっていない
これまでのワクチン予約サイトに使われているシステムは極端なアクセス集中を想定した設計になっていない

 予約開始時間に新型コロナワクチン接種の予約サイトにアクセスを試みても、いつまで経っても繋がらずに予約枠が終了、さらにはシステムが過負荷でダウンして受付が一時中止に──こんなニュースが2021年4月ごろに相次いだ。ネットの利用率が高いとはいえない高齢者層の予約でさえ支障が起きるとなると、このまま何の策も取らずに予約対象者が拡大していけば、同じ状況が何度も起きる恐れもある。



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 こうした予約サイトのアクセス集中はどうすればさばき切ることができるのか? アクセス負荷の分散に詳しい、アカマイ・テクノロジーズの中西一博さんは、いくつか考えられる方法の中でも「エッジコンピューティングによる仮想待合室の実装」が有用とみている。



 この方法は、スポーツイベントのチケット販売や人気商品の先着予約システムなどでもすでに利用されているという。



 アカマイの中西さんが、ワクチン予約サイトの課題と今打てる解決策について解説する。



●ワクチン予約サイトの多くはSaaS 極端なアクセス集中は想定外



 正規の利用者によるアクセス集中を受ける予約システムでは何が起きているかをまず考えてみよう。こうしたサイトは、平時の100倍にも及ぶリクエストを処理する必要に迫られる。いったんサイトの混雑が発生すると、利用者がブラウザで頻繁にページの再読み込みを繰り返すため、サイトに押し寄せるアクセスの数はさらに増加する。



 多くの予約システムは、各自治体から委託されたベンダーがSaaSの形態で運用しているようだ。つまり複数の自治体で1つのシステムを共有している状態といえる。自治体の予約開始日を分散させるなどの工夫で多少集中を抑えられるとはいえ、ある自治体の予約開始時のアクセス過多でサイトが応答しなくなると、他の自治体で予約した内容の確認やキャンセル処理に必要なアクセスができなくなる恐れもある。



 ワクチン予約に利用されているシステムは、予約受け付け後のバックエンドシステムとの連携を考慮してからか、業務プロセス管理のためのシステムを応用したものも多いようだ。既存の仕組みを利用して素早くシステムを構築できるメリットもある一方、全国の自治体で起きているような、極端なアクセス集中を想定した設計にはなっていない。



●アクセスピークに合わせたサーバの追加は可能か?



 では、アクセス集中時のピークリクエスト数に合わせて、予約システムのサーバの台数を増やす策は有効だろうか?



 これはシステムがスケールアウトに適した設計になっているかに依存するが、それほど簡単ではないだろう。特にバックエンドで動くデータベースのパフォーマンス設計は難しく、コストも跳ね上がる。ましてや平時の100倍の同時処理を行うキャパシティーが要求されるのがワクチン予約のシステムだ。クラウド上で単純に仮想サーバを増やして並べるだけでは解決できないし、サーバのレンタルコストが無駄になるだけだろう。



●抽選予約制はどうか?



では、先着制ではなく、抽選制にするというのはどうだろう。実は抽選制は、一般的に運営側にとって次のような手間が生じる方式だ。



・複数の候補日時を挙げてもらった上で、候補ごとの当落をどうすればなるべく不満が出ないよう処理できるか(同様に一次抽選、二次抽選をどう実施するか)



・メールなどによる当落の連絡と、それを可能にするためのメールアドレスや個人情報の入力と、管理および保護対策



・メールアドレス入力間違いなどによる当落メール誤送信への対策



 ちなみにこれに加えて、一般的な人気商品の抽選販売では、以下のようなリスクの考慮も必要になる。



・当落連絡後の、確認、代金支払い処理の未完リスク(先着制なら受け付け直後に処理可能)



・ダミーアカウントを利用した大量応募への対策(不正を見抜くのは、専門スキルを持った人による監視が必要)



 実際、イベントチケットの予約や発券を手掛けるプレイガイドの“中の人”に話を聞くと、先着制に比べ抽選では独自の専門的なノウハウを駆使する必要があるという。そのように複雑でスキルを必要とするオペレーションを、コロナ過中の業務で疲弊しているいまの自治体に要求するのは、少し酷な気もする。



 予約サイトの利用者側でも、その場で予約が確定できずに、何日か待って届いたメールを見てから、うろ覚えのパスワードを使ってサイトにログインし、当落と予約内容を確認する……というプロセスを踏むことになる。



 普段高倍率のイベントチケットを抽選で争っている人には何でもないことかもしれないが、高齢者にとっては複雑になりすぎるように思える。実際、筆者自身は実家の母親の先着ワクチン接種のオンライン予約を手伝ったが、もしこれが抽選制だったら、メールアドレスの用意や当落メールが本人のスマホに届いた後の処理などを考えると、離れたところからサポートするのは難しいだろうと感じた。



 先着制、抽選制それぞれの方式には、外からはあまり見えていない長所と短所がある。運用側の人的リソースやユーザー側の利便性など、さまざまな現実的な条件を突き合わせて、運用側がベストな選択をするしかないだろう。



●エッジコンピューティングが先着予約のアクセス集中を解消



 では、多くの自治体で採用している先着予約方式のまま、予約開始時のサイトへの正規利用者のアクセス集中を緩和する仕組みは作れないだろうか?



 これを実現するのが「仮想待合室」(Virtual Waiting Room)だ。Webサイトへの集中するアクセスをいったんネット上に設けた“待合室”で受け止め、バックエンドの受け付けシステムが同時に処理可能なセッション数のみを、制御のうえ受け付けへ中継し、予約処理を確実にさばいていく。



 ただ、仮想待合室も1台で処理できる数には限界がある。これを解決するのが、CDN(コンテンツ・デリバリー・ネットワーク)のエッジサーバ上で独自のロジック(プログラム)を駆動できるエッジコンピューティング技術だ。



 世界中に分散して配置されたエッジサーバ上の仮想待合室で、利用者からのアクセスを受け止める。さらに、バックエンドのサーバに負担をかけることなく、受け付け待ちの画面をエッジサーバから利用者のブラウザに配信する。



 アクセスが集中すると、エッジサーバの負荷に応じて処理用のサーバも自動的に増える。混み合ってくると待合スペースが自動で増える、と考えれば分かりやすいだろう。



●仮想待合室の実装は「1行書き換えるだけ」



 仮想待合室で待機している利用者を受付に案内する具体的なサービスとしては、例えばアカマイの場合は「Vaccine Edge」というソリューションを提供している。このソリューションではFIFO(First In First Out:待ち合わせ行列に並んだ順番で案内)方式と、いま待合室で待っている人の中からランダムで抽選して案内していく方式を用意している。



 「あと何人待っています」とか「予想待ち合わせ時間は20分です」といったインタラクティブな待合室画面の表示は、世界的なスポーツイベントのチケット販売や、超人気商品の先着販売などで豊富な実績のあるデンマーク・Queue-itのロジックをエッジサーバ上で動かすことで実現している。一方、ランダム抽選方式は、シンプルに「しばらくこの画面のままお待ちください、順次予約システムへの接続を行っています」という画面から、空いた席数分を抽選して、当選者を受け付け画面に案内する。実際には、どちらの方式でも大差ない待ち時間で案内されることになるだろう。国内での稼働実績では、最繁時でも最大30分程度の待ち時間で案内できていたようだ。



 「エッジコンピューティング」と書くと最先端技術で思わず身構えてしまいそうだが、既存のワクチン予約サイトへのCDNベースの仮想待合室の追加は思いのほか簡単だ。予約システムのWebサーバを示すDNSレコード(CNAME)を1行書き替えるだけなので、サイト側では数分の切り替え作業で、いま起きている問題を解消できる。



 また、予約受け付けサーバに送り出すトラフィック量を調整する指標として、アクセス(接続/受付待ち)数の変化や、Webブラウザ上での体感速度の悪化などをリアルタイムで可視化する機能なども、要件にあわせて追加している。もちろん、WAF(Webアプリケーションファイアウォール)をエッジサーバで動作させることで、海外やTor(トーア)などからのリスクの高いアクセスをブロックできる。DDoSやWebアプリケーション攻撃から、システムと登録された個人情報を守ることも可能だ。



 こうした仮想待合室を備えたアクセス集中緩和の仕組みは、いくつかの主要なCDNベンダーがすでに提案している。接種予約サイトを構築したベンダーとも相談し、予約開始時に想定される申込者数と予約サイトの同時処理能力などから、最適な待合室の要件を詰めるのがいいだろう。



●日本は世界から遅れているか?



 ワクチン接種予約のアクセス負荷対策を取り上げて、IT技術は日本だけが世界から取り残されている、とニュースや記事で論説されることがあるが、本当にそうだろうか?



 筆者はそうは思わない。米国をはじめ世界中の自治体でも、ワクチン接種の開始に合わせてほぼ同じ問題が起きていた。アカマイでも、それらの課題を自治体やシステムベンダーと一緒に走りながら解決していく中で、ワクチン予約サイトの実情や構成に合わせたベストプラクティスを積み上げている。



 解決策は用意できた。ただその解決策が、必要としている人たちにまだ広く知られていなかっただけにすぎない。



 これからいよいよ、一般の接種予約が始まる。東京都など一部の都市は年内のワクチン接種完了を目指すとしている。2度のワクチン接種が終わっても、1年以内にブースター(追加免疫)のワクチン接種が必要になるという話もあり、医療従事者の皆さんだけでなく、ワクチン接種予約サイトを運営する人々の闘いも長いものになりそうだ。わが国での本当の勝負はむしろこれからではないだろうか。


このニュースに関するつぶやき

  • 問題は、PCやスマホを使えない連中の電話での集中だろ? いまどきの高齢者は固定電話と携帯電話を二台以上駆使して、リダイヤルしまくるから何時まで経っても回線がパンクする。
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  • 問題は、PCやスマホを使えない連中の電話での集中だろ? いまどきの高齢者は固定電話と携帯電話を二台以上駆使して、リダイヤルしまくるから何時まで経っても回線がパンクする。
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