男性に生まれ、女性として就活した慶大卒のトランスジェンダーが語る就職活動

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2021年06月24日 10:00  AERA dot.

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写真サリー楓さん(本人提供)
サリー楓さん(本人提供)
 政府が企業に要請している入社面接などの選考活動が6月1日に解禁され、2022年春卒業予定の大学生の就職活動は今がまさにピーク。自己PRや志望動機は自分自身をさらけ出す側面もあるが、トランスジェンダーの人たちは? 

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 厚生労働省は履歴書の性別欄に男女の選択がない書式案を作成したり、民間でもLGBT当事者が働きやすい環境を整える企業が今増えつつある。8歳から建築家を夢見て慶応義塾大学大学院で建築学を学び、トランスジェンダーとして就活を経験し、日建設計で社会人3年目を迎えたサリー楓さんに聞いた。

*  *  *
――単刀直入に就活の履歴書の性別欄は男女どちらにマルを?

 履歴書では戸籍情報を聞かれているんだと思って、男性にマルしました。

――カミングアウトした上で就活して良かったことは? 

 自分らしく表現できたことです。就活って自分のこれまでの経歴や長所・短所を振り返り、第三者の視点に立って、自分と社会との距離感を俯瞰的にとらえる機会。そういうタイミングでカミングアウトしたことによって、トランスジェンダーであることが社会にとってどのような意味を持つのか、社会と会社にどんな価値を提供できるのか、真剣に考えることができました。ジェンダーの説明は、履歴書の備考欄ではなく自己PRの記入欄に書きました。

――具体的にどう書いたんですか?

 現在働いている会社は国際的にも利用されるプロジェクトを手掛けることが多く、さまざまな立場の方々がその施設を利用します。11人に1人ぐらいの割合でLGBT当事者がいるとも言われているので、施設利用者が1万人いれば千人弱ぐらいの当事者の方がいるかもしれません。ですからプロジェクトに私が関わることで、多様性に配慮した視点が少しでも加わり、建築が提供できる豊かさの幅が広がるのではないかということを書きました。

――面接の場でトランスジェンダーについてたずねられましたか?

 自己PRの欄でジェンダーについて書いていましたし、履歴書に添付する写真も女子大生のリクルートスーツ姿だったので、書類審査の段階で気づかれていたと思いますが、最終面接で初めてジェンダーについてたずねられました。ジェンダーに限らず、誰もが色々なアイデンティティーやコンプレックスがあると思うんです。それを説明するための文脈を工夫することで、前向きな姿勢を示すことができると感じました。

――コンプレックスをポジティブ語るという発想はどこから?

 小学校2年生のときに『スイミー』という絵本を見て感動したんです。赤い魚たちの中に1匹だけ黒い魚がいて、“これ私じゃん!”って(笑)。当時から男の子の集団にも女の子の集団にもなじめなくて、先生からは「男の子と一緒に外で運動しなさい」と言われることもありました。そんなの嫌だったから教室でずっと絵を描いていました。

 絵本のスイミーは、物語の最後で、赤い魚の群れの中で黒い自分が「目」になることを思いついて、天敵の大きな魚を追いやった。じゃあ私の場合、どうしたらクラスという群れの中で「目」の役割ができるのか考えて、他の子がやりたがらなかった遠足のしおりや校内のポスターの絵を描いたんです。それまでは絵を描くのがそんなに好きじゃなかったんですが、建築の道を志すようになったのもその延長だったと思います。

――もし就活生のときにカミングアウトしなかったら、今どんな日常を送っていると思いますか?

 私が今もし男性として社会人になっていたら、ジェンダーのことに気が取られて、仕事に集中できていなかった気がします。自分がどういうジェンダーで生きたいのかは、健康で、よく眠ることができて、最低限の生活基盤があるのと同じで、基本的なコンディションの一部。それが欠けていたら寝不足で仕事するのと一緒だと思うんです。そういう意味で、今は自分の力を発揮しやすい環境で働けていると感じます。

――楓さんは社会人になった後も、LGBT就活生をサポートする活動に参加されていますね。

 私が就活していたとき、トランスジェンダーの立場で就活した体験談を聞ける仲間がいなくて困っていたんです。もっと若いLGBT当事者には就活でそういう大変な思いをしてほしくないし、ジェンダーを理由に夢や人生をあきらめてほしくなくて。

 大事なのは、自分がどういう人間であって、その上で社会に何を残したいかを考えること。でも就活の障害としてLGBTの課題があると、それが解決されるまでは自分がどういう将来を選択したいのか正しい判断がしにくい。

 だから就活をすでに終えたLGBT当事者たちで協力して、情報を共有したり発信したりしながら、就活生を応援できることがあれば関わっていきたいと思います。私が出演しているドキュメンタリー映画「息子のままで、女子になる」の中でも、JonRainbowの方々と一緒にLGBT就活生のための就職支援イベントを準備する場面が出てきます。

――入社してから、会社側が環境を整えてくれたということが何かありましたか?

 入社するときに人事部の担当者から「就活でカミングアウトされたのは初めてで、正直どうすればいいかわかりません。だから問題があれば一緒に変えていきましょう」と言われて、安心して働けそうだと感じました。

 会社が取り組んでくださった事例の一つが、戸籍名と異なる通名を社員証で使えるようになったことです。私のようにジェンダーが理由ではなく、夫婦別姓を選択された方や、日本での通称を使いたい外国人スタッフの方もこの制度を利用できるでしょう。

――ジェンダーに対して大きな取り組みをする予算のない企業でもできることはありますか?

「誰でもトイレ」を設けるようなハード面の取り組みは予算がかかるので、社内のモラルをアップデートするための研修を行うなど、ソフト面から始めるのが良いと思います。LGBT当事者が社内にいるかもしれないという機運が高まるだけでも環境は変わりますし、その上で当事者の方が入社してきたら本人と話し合えばいいと思うんです。話し合える雰囲気があるかどうかが、「誰でもトイレ」があるかより、もしかしたら重要かもしれません。

――職場にLGBT当事者の方がいる場合、本人に直接その話を聞いてもいいのでしょうか。

 これはあくまで私の場合ですが、間接的に噂されるより直接聞かれるほうがいいですね。当事者にLGBTについて尋ねる理由にも色々あると思うんです。恋愛対象が知りたいとか、男女どちらのトイレを使うか確認したいとか、あるプロジェクトにおいてLGBT当事者の意見がほしいとか。

――実際に仕事上でLGBT当事者として意見を求められたことは?

 ありました。会社で働いている中で、LGBTの課題に取り組みたいという関連企業さんから相談されたり、勉強会を開催しませんかと言われたり。そういった過程で新しい情報をいただくこともあるので、結果的に自分のプロジェクトにも役立つことになります。

――色々なことがつながっていっていますね。

 新しい情報を得る機会が増えると、それが世の中のニーズをとりこぼさないことにもつながっていくのかなと思います。かつて就活でアピールしたのはそういう可能性だったので、実際にその通りになっているのかもしれません。

 就活は自分のネガティブなことも売り込まないといけません。それはジェンダーの問題に限らなくて、大学を中退したとか、持病を抱えているとか、親の介護があるなど、さまざまな状況があると思います。ジェンダーの問題が取り上げられることによって、そういった多様な状況を生きている方々が自分らしく働ける社会になればいいなと思っています。

(大西夏奈子)

■ プロフィール/サリー楓(さりーかえで)
1993年京都生まれ、福岡育ち。慶応義塾大学大学院卒業後、国内外の建築事務所を経験し、現在は建築のデザインやコンサルティング、ブランディングからモデルまで多岐にわたって活動。その傍ら、トランスジェンダーの当事者としてLGBTQに関する講演会も行っている。パンテーンCM「#PrideHair」起用や「AbemaTV」コメンテーター出演も話題に。自身が出演するドキュメンタリー映画「息子のままで、女子になる」が6/19(土)より渋谷ユーロスペース他全国で順次公開。

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  • 慶応だけあって、就活は上手いよな。
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