「減酒外来」で処方された減酒薬 依存症との診断も「断酒は無理」の記者に効くのか?

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2021年06月25日 11:35  AERA dot.

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写真思い切って減酒外来に行ってみた感想は、いまの自分を客観視できた(写真/筆者撮影)
思い切って減酒外来に行ってみた感想は、いまの自分を客観視できた(写真/筆者撮影)
 ここ最近、酒の量がどんどん増え、仕事にも影響が出始めてしまった日々をなんとかしようと、「減酒外来」の受診を決意した44歳の筆者。自分はアルコール依存症なのか、減酒薬がもし処方されたとして、効果はあるのか。都内のクリニックが開設している「減酒外来」に取材後、診察が始まった(本記事は前編「深夜まで飲んで仕事にも影響…酒依存に悩む記者が『減酒外来』受診でわかった意外な事実」から続く)。

【あなたは大丈夫?アルコール依存「3つの危険なサイン」はこちら】

 東京・秋葉原にある「さくらの木クリニック 秋葉原」。アルコール外来の一つとして2015年から「減酒外来」を開始した。男女問わず、自分の飲み方に不安を抱き「酒量をコントロールしたい」と願う人が次々と来院するそうだ。現在、減酒外来の初診は2カ月待ちという“人気ぶり”だ。

 院長の倉持穣医師の診察が始まる。

 どうして飲む量が増えたのかなど、まずは私生活の状況などを聞かれた。雑談のようで、硬い雰囲気ではない。

 昨年、妻と死別して以降、酒量が一気に増えたこと。コロナ禍で友人たちとの交流が途絶える中、特に4月以降は家で飲む量がさらに増えたこと。夜中まで飲み続けてしまい、仕事にも影響が出始めていることなどを正直に伝える。

■「純アルコール量」の確認

 倉持医師によると、死別や離別がきっかけで酒量が増えて依存症になる人もおり、珍しくないことだそうだ。自分が特別ではないことに、少し安心もする。

 筆者がどんな酒をどのくらい飲み、何グラム「純アルコール」を摂取しているのかを確認に入る。

 純アルコール量は、お酒の量×アルコール度数×0.8ではじき出す。アルコールは水分より軽いため、アルコールの比重である0.8をかけて質量に直す。

 例えば、500ミリリットルでアルコール5パーセントの缶ビールなら、500×0.05×0.8=20で、その中に含まれている純アルコールは20グラムとなる。

 アルコールの分解能力には個人差があるものの、週2日の休肝日を設ける前提で、この純アルコール量が「男性で毎日20グラム以下 女性10グラム以下」が「害のない飲酒」に該当するという。先の例えでいえば、男性ならば害のない上限で、女性はすでにオーバーしている。

 これが「男性で毎日40グラム以上 女性20グラム以上」になると「危険な飲酒」となり、さらに「毎日60グラム以上」は多量飲酒とされ「有害」な領域に進む。さらに進むと「依存症」となる。

 筆者のこの一年ほどの純アルコール摂取量を計算すると、平日はだいたい160グラム。休日は240グラムだった。多すぎ……なのかな。実感は正直、湧かない。

 さらに、世界保健機関(WHO)が作成した「AUDIT」というスクリーニングテストを行なった。

 10の質問に答え、40点満点のうち15点以上だと減酒が必要な「プレ依存症」。20点以上が「依存症疑い」、24点が「依存症患者の平均点」だそうだ。

 こちらは26点だった。

 こうした結果を参考に、倉持医師は結論を伝えてきた。

「どこからが依存症と断定するのは難しい面もありますが、(筆者の)純アルコール摂取の多さやAUDITの点数、肝機能に少し問題が出ていることを考えると、依存症に入ると言っていいかもしれません。本来は断酒する必要がありますが、減酒が希望ですよね?」

 依存症だろうと言われても、あまりピンとこないし、ショックもない。これも「否認」の表れなのかもしれない。

■減酒薬と減酒にっき

 筆者「断酒ですか…おそらく無理です…ゼロというのはいきなりは考えられません」

 倉持医師「わかりました。減酒の薬を出しますので、まずは量が減るかやってみましょうか」

 2019年に保険適用された国内初の減酒薬「セリンクロ」を処方してもらった。脳の酒を欲する欲求を抑える作用があり、少量の酒で満足できる効果がある。

 同時に紹介されたのが、スマホの「減酒にっき」というアプリだ。

 服薬の有無、飲酒の有無と飲んだ量を入力すると、純アルコールの摂取量を自動的に計算してくれる。あとは、その日の状況を簡潔にメモできる。

「次回の診察の際に見せてください。もし飲んでしまっても怒ったりしませんから」と倉持医師は笑った。薬だけ処方したら、あとは患者任せという形ではなく、月に1回くらい通院して減酒アプリを見せ、できたことを医師がほめる。心理的ケアと合わせて改善を図るのが減酒外来のやり方だそうだ。

 セリンクロは飲酒を始める1〜2時間前に飲む薬である。副作用も人によっては様々に出るそうだ。とりあえず帰宅後、午後7時に飲んでみた。午後9時前に風呂を出た。いつもなら、冷蔵庫の酒に手が伸びる。

 あれ……。

 まったく酒を飲む気が起きない。副作用なのか、ちょっとだけ頭がくらくらし胸焼けがする。不思議な感覚だが、なんだか軽く酒に酔ったようでもあり、飲む気が湧いてこない。我ながら信じられないことだ。

 セリンクロのデビュー初日は一滴も飲まずに寝た。妻と死別後、初の休肝日である。翌朝、7時に起きた時には副作用らしき状態は収まっていた。翌日も夜に服薬すると、前日と同じように飲酒欲求はまったく湧かず、一滴も飲まずに寝た。ただ、胸焼けと頭がくらくらする感じが強くなり、寝つきはとても悪かった。3日目はなぜか薬無しでも断酒できる気がした。いざとなったら服薬すればいいと実践したら本当に成功した。続く4日目も薬を飲まずに断酒に成功。

 薬も確実に効くし、いつでも頼れるという心理的効果も感じる。「減酒って意外と簡単」。そんな自信が芽生えた。

 だが、5日目は油断したか、飲酒欲求に自然に従ってしまい少しだけ飲んだ。反省してその後は服薬を再開し抑えたが、10日目に「大リバウンド」が来た。薬を飲まずにビール一杯だけのつもりが、がぶ飲みして200グラムくらいの純アルコールを摂ってしまい、翌朝は二日酔いでダレてしまった。

■減酒はゴールではない

 治療開始から3週間。多量飲酒が8日、少しの飲酒が3日、断酒が10日。以前と比べたら大幅に改善しているが、やっぱりうまくいくようで、うまくいかない。

 しばらくは飲んだ日、飲まなかった日を勝敗分けしていたが、やめた。連勝すれば油断するし、負けが込むとやる気をなくしそうだから。死別の寂しさが消えるわけではないし、コロナ禍が収束し自由が訪れたら、会食を我慢していた友人たちとも集まって乾杯するだろう。待ちに待ったその時に、自分はどうするだろうか。

 倉持医師によると、減酒外来はまだ始まったばかりで、「減酒継続を治療のゴールとしていい」と捉える専門医もいれば「あくまで断酒に至るまでの暫定目標」と考える専門医もいて、どちらが正しいかは現時点では分かっていないのだという。筆者もその中で歩み始めたということだが、現実的に、一滴も飲まない自分は想像つかない、というか無理だと思う。

 ただ、あの酒量を続けていれば、いつかどん底まで落ちたかもしれない。

 思い切って減酒外来に行ってみた感想は、いまの自分を客観視できた気がすること。薬に頼れる安心感ができたということ。何かを変える、一つのきっかけができたということは実感している。

 それから、医療機関の敷居は思っていたよりはるかに低かったということ。倉持医師も「お酒の量が気になる人は、まずは気軽に外来に来てください」と言っていた。

 長い付き合いになるだろう。また、継続して記事を書いてみたい。

(AERA dot. 編集部・國府田英之)

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