シャープに聞く「AQUOS R6」開発の舞台裏 ライカとの協業から1型センサー搭載まで

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2021年06月25日 12:32  ITmedia Mobile

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写真1型センサーのカメラを搭載した「AQUOS R6」
1型センサーのカメラを搭載した「AQUOS R6」

 シャープの新型スマートフォン「AQUOS R6」がNTTドコモとソフトバンクから6月25日に発売された。その最大の特徴が「ライカと協業した1型センサーを搭載したカメラ」だろう。今回、刷新されたカメラ機能を中心にシャープ開発陣に話を聞いた。



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●AQUOS R6の「R」は「リボーン」



 AQUOS R6はカメラの注目度が高いが、全体的に前モデルである「AQUOS R5G」から大きく進化している。通信事業本部 パーソナル通信事業部 商品企画部 係長の小野直樹氏は「初代RからR5Gまであったが、カメラだけでなく、ディスプレイ、デザイン、さまざまなデバイスや機能を一新しようと考えた」と話す。



 そのコンセプトは「今までのRとは一線を画する新しいRを作る。次のRは“リボーン(Reborn)”」と社内で話し合っていたそうだ。その中でも、やはり注力されたのがカメラだ。



 これまでシャープは、8K動画やAIライブシャッター、AIライブストーリーなど、新たな使い方の提案をしていたが、「使ってみないと分からない機能で、購入のトリガーにはなかなかなりにくかった」と小野氏は言う。



 そこでリボーンとして「こだわりを感じる本格画質のカメラを目指した」のが、今回のAQUOS R6だ。スマートフォンのカメラは複数のカメラで画角を切り替えて撮影するのが一般的だが、メインカメラは高画質でも他のカメラは画質が落ちてしまう傾向にある。他社スマートフォンにあるような超高倍率カメラも、インパクトはあるが画質が落ちてあまり撮られていない、というのがシャープの認識だ。



 ユーザーとしては、一番画質のよいカメラで撮影したいとなるわけで、そのためにはさまざまなシーンをカバーできる高画質カメラが有効だ。複数のカメラを搭載するのではなく、1つのカメラを突き詰めることで、「カメラの数よりも(センサーの)大きさにこだわった」(小野氏)という。



 そこで、大型センサーにするなら高級コンパクトデジカメサイズのセンサーを搭載したい、というのが同社の企画側の希望だった。設計側にとっては、センサーサイズ、厚みなど、スマートフォンのサイズに収めるにはスペースが足りないということで議論を続けてきたが、最終的に「技術の頑張りで1型センサーを搭載することができた」(小野氏)。



●ライカ品質の画質を実現するのに苦労



 1型センサーに加えて、「ライカ監修」というのが今回のAQUOS R6の目玉の1つだ。ドイツの名門カメラメーカーとして著名なライカは、スマートフォンではHuawei、アクションカメラでInsta360とも協業しているが、スマートフォンメーカーとしては2社目となるシャープとの協業となる。



 ライカとの話し合いが始まったのが2019年夏頃。シャープではハイエンドスマートフォンが高額になり、ミッドゾーン以下の端末でも性能が向上している中で、ハイエンドのAQUOS Rシリーズを継続していくためには、「今までの延長線上の進化では生き残れない」という危機感があったことを通信事業本部 パーソナル通信事業部 商品企画部 課長の楠田晃嗣氏は振り返る。



 リボーンというコンセプトで企画を進めていく中でライカとのつながりができて、コラボレーションを決めたのだという。もともとライカとの話し合いは「AQUOS R6のため」ということでスタートしたわけではなかったが、結果として2020年3月にはR6をターゲットとして開発がスタートした。



 並行して1型センサー搭載の検討を進めており、1型とライカの組み合わせならユーザーも喜んでもらえると判断した。



 とはいえ、その後は苦労の連続だった。何しろ「ライカの求める到達点のレベルが高い」(楠田氏)。例えば一度いい写真が撮れても、同じように撮影したら同じようにキレイに撮れなければならず、何十回も撮影して、同じ状況で安定して撮影できることが求められた。



 このように画質評価が厳しく、「そんなところまで見るのか」(楠田氏)と驚いたそうだ。繰り返しチェックが行われたが、そもそも実際のハードウェア開発にこぎつけるまでが一苦労だったそうだ。



 ライカは、「シミュレーション技術が段違いだった」と通信事業本部 パーソナル通信事業部 システム開発部 部長の前田健次氏は言う。レンズやセンサーのシミュレーションをすることで、実際に出力される画質が把握できるが、そのレベルが高く、優れた分析によって設計パターンを繰り返すこと数十回にも及び、「普段やらないレベルでフィードバックがあり、ようやくGoがかかった」(前田氏)という。ライカ側の求める品質は、レンズの材料、コーティング、設計など多岐にわたり、その結果「いいものが仕上がったのではないか」と前田氏は話す。



●極限までレンズを薄くして1型センサーをスマホに搭載



 レンズは前モデルが6枚構成だったところを7枚構成になり、本体の厚さの中にぎゅっと詰め込んだ。レンズ性能を下げればスマートフォンの厚さに収まるが、できるだけライカ側の要求水準を満たしつつ、「ありとあらゆることをやった」(前田氏)ことで、どうにか収めたという。



 極限までレンズを薄くしたこともあるが、新たに今回採用したOLEDも有効だったそうだ。さまざまな工夫を組み合わせることで、ようやくカメラモジュールを一般的なスマートフォンの厚みに収めたが、これも「レンズ設計部門が社内にあるからこそできた」と前田氏は話す。社内なので密なコミュニケーションができたし、新しい技術を採用して設計ができたそうだ。カメラモジュールは自社製造だが、既存の設備が使えないため設備改修も必要だったそうだ。



 そもそも1型センサーのコスト自体が「5つの(スマートフォン用の小さい)センサーよりも高いセンサー」(小野氏)と高額。しかも過去の1型センサー搭載スマートフォン「LUMIX DMC-CM1(パナソニック)」とは異なり、防水性能などを実現するために沈胴式のレンズを採用できないなどの制約もあった中、これを実現できたのはシミュレーション技術やレンズの素材など、これまでの技術の進化があったからだという。



●8Kよりも原点に戻って画質を伝える



 1型センサーを搭載したことによるデメリットの1つは、画素数が2020万画素しかないという点。静止画としては大きなデメリットにはならない画素数だが、8K動画を撮影するには7680×4320ピクセル、約3318万画素が必要になる。そのため、今回は8Kよりも「原点に戻って画質をしっかり伝えたい」(小野氏)ということから、最大サイズのセンサーを搭載することを選択した。



 8Kに関しては「現時点では普及段階」(小野氏)であり、最大でも4Kの環境がほとんどという状況。4K環境でしか映像が見られないため、データ容量が大きくなる8Kは普段使われず、一般的なスマートフォンに求められるのは、幅広く楽しめる4K動画で、将来的にはアップコンバートで8K対応できるという方向で企画したそうだ。



 8Kだけでなく、高画素のセンサーを搭載すると、複数の画素を1つの画素として扱うピクセルビニングなどと呼ばれる技術も使える。昨今の、特にハイエンドスマートフォンでは一般的になった技術で、複数のセンサーを1つのセンサーと見なすことで、1ピクセルあたりのサイズが大きくなる。



●ナイトモードは他社に負けないレベルに



 センサーサイズを単純に大きくすれば、1ピクセルあたりのサイズも大きくできるので、AQUOS R6では使われていない技術だが、単にピクセルサイズを大きくするだけならばこの方法もあった。



 しかし、「光が正面から入ってきた場合はいいが、少しでもズレるとカラーフィルターにカットされてしまう」と前田氏。レンズから入った光をセンサーに取り込む際の課題があるため、最初から大きなピクセルの大型センサーの方が有利という認識だ。その結果、特に暗所撮影時にしっかりと色が再現できるようになったという。



 AQUOS R5Gでは「ナイトモードでは他社に対して完敗に近かった」という状況から、「他社と撮り比べても負けないレベルになった」と小野氏は胸を張る。大型センサーに加えて、連写合成によるノイズ低減技術などによって夜景撮影を高画質化。コンピュテーショナルフォトグラフィーを活用した画像処理は、「デジカメにはない部分で、カメラとITを組み合わせたスマートフォンならではの技術」と小野氏はアピールする。



●超解像ズームで幅広いシーンをカバー



 こうしたメリットの反面、像面位相差などの位相差AFセンサーを搭載していない点は弱点といえる。その課題を解決するために、AQUOS R6ではToFセンサーによるレーザーAFを採用。「正直に言うと、位相差AFより速度が速いとはいえない」と前田氏も認める。ただ、暗いシーンでのAF性能では有利になるため、「選択肢としてはベスト」(前田氏)と判断した。



 小さなセンサーを複数搭載するより、1型センサーを1つ搭載することを選択したシャープだが、それによって複数の画角をカバーすることができなくなった。AQUOS R6に搭載されたレンズは35mm判19mmという超広角レンズで、幅広いシーンは撮影できるが、被写体にズームして近寄る、といった撮影はできない。



 それに対する回答としてシャープは超解像ズームによって解決しようとしている。AQUOS R6は一般的なスマートフォンカメラがメインとして使う24mm付近の画角も実際はデジタルズームを使っている。それよりも「1型に一点集中」(前田氏)することで、画質重視を貫いたのがAQUOS R6だという。



●OLEDにもIGZO技術、次期製品にも「こうご期待」



 AQUOS R6の特徴の1つが、新たにOLED(有機EL)を採用したこと。しかもIGZO技術を搭載した「Pro IGZO OLED」を初搭載。10億色表示やHDR、コントラスト比2000万:1、ピーク輝度2000nitなどのOLEDならではの特徴を備えながら低消費電力を実現した。IGZO技術によって1〜240Hz(は120Hzに黒画面を挿入)のリフレッシュレートを変化させることで、消費電力が抑えられる。



 液晶ディスプレイで培ったIGZO技術だが、液晶とOLEDの違いから、OLEDに搭載する際の難しさもあったという。OLEDの場合、液晶よりも1画素あたりのトランジスタ数が「オーダーが違う」(前田氏)ほど多く、AQUOS R6では「数千万個のトランジスタが入る集積度が必要」(同)だという。これが1つの難題だった。



 さらに液晶とOLEDはバックライトと自発光という発光方式の違いがあり、これを液晶のIGZOと同じように制御するのが困難だったという。



 この2つの課題も、自社内にディスプレイ部門があり、密接に協議して開発できたことでクリア。リボーンであるAQUOS R6に搭載できた。



 「Pro IGZO OLED、カメラなど、新しいものをふんだんに入れている一方、ストレージは(AQUOS R5Gの)256GBから128GBにするなど、届けていくべき価格に対して機能を調整した」と小野氏。1型センサーを始めコストは上昇しつつ、抑えられる部分を抑えることで11万5632円(ドコモオンライショップの税込み価格)と、比較的抑えめの価格も実現した。



 「高級コンパクトデジタルカメラとハイエンドスマートフォンを2台買うよりはるかに安くてお得。そう思ってもらいたい」と通信事業本部 パーソナル通信事業部 商品企画部 主任の田中陽平氏は話し、単にコスト度外視の機能追求ではなく、バランスを取った製品であることをアピールする。



 1型センサーやPro IGZO OLEDなど、今後他のシリーズにも広げ、Rシリーズで継続するかについては「決まっていない」というのが同社のスタンスだが、ライカとは長期間のパートナーシップを結んでいるため、今後どういった開発を進めていくかを協議しているところだという。「こうご期待」と楠田氏は話している。その宣言通り、今後のAQUOSシリーズに期待したい。


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