【F1第7戦無線レビュー(2)】「タイヤを全部使うの? それとももう1周?」ハミルトンが“ハンマータイム”で躊躇

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2021年06月25日 14:41  AUTOSPORT web

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2021年F1第7戦フランスGP ルイス・ハミルトン(メルセデス)
2021年F1第7戦フランスGPの決勝レース。上位を走るバルテリ・ボッタスがアンダーカットを仕掛けたが、マックス・フェルスタッペンがそれを阻止。一方フェルスタッペンより1周後にタイヤ交換を行ったルイス・ハミルトンは、ピットストップ直後にフェルスタッペンの逆転を許した。さらにボッタスはセルジオ・ペレスにも追い抜かれ不満をぶちまけることに。フランスGP後半の様子を無線とともに振り返る。

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 6週間前のスペインGPとは攻守が逆転した状態で、まず3番手のバルテリ・ボッタス(メルセデス)がマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)へのアンダーカットを狙って17周目にピットイン。しかし次周にピットに向かったフェルスタッペンは、ボッタスの前でのコース復帰に成功した。その動きに、ルイス・ハミルトン(メルセデス)陣営が反応する。

ピーター・ボニントン:ハンマータイムだ! フェルスタッペンがピットに入ったぞ

“Hammer Time”はボノが好んで使う用語で、「ハンマーを振り下ろす時だ」→「プッシュしてやっつけろ」というほどの意味だ。この時のボノは、ここでハミルトンがプッシュしてピットインすれば、首位をキープできると考えていたはずだ。ところが全開でプッシュすべきハミルトンから、こんな無線が返ってきた。

ハミルトン:タイヤを全部使うのか? それとももう1周?
ボノ:全部使え! ボックスだ

 ボノはすかさずこう答えたが、インラップのペースはこの躊躇で明らかに落ちた。さらにハードに履き替えてからのフェルスタッペンのペースはハミルトンをはるかに凌ぎ、フェルスタッペンは首位に返り咲いた。

 しかしその後は、背後のハミルトンをなかなか振り切ることができない。フェルスタッペンは、明らかに苛立っていた。

フェルスタッペン:ちゃんと話してくれ!
ジャンピエロ・ランビアーゼ:ポイント9、モード7だ。少し落ち着くんだ
フェルスタッペン:ギャップを知りたいだけだよ。そうしたらいつ守るか、把握できるから

しかし追う立場のハミルトンも、ペースの維持に苦しんでいた。

ハミルトン:う〜ん、キツイな
ボノ:プレッシャーをかけ続けるんだ。きみならできる!

一方、3番手のボッタスは、先行するふたりに引けを取らないペースでぴたりと追走していた。

ムスコーニ:いいぞ、バルテリ、僕らは楽しんでる

 この時点で角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)は16番手まで順位を上げていたが、そろそろタイヤが厳しい。

マッティア・スピニ:ラッセルは2秒後ろ、アロンソは5秒先だ

 だがアロンソは角田に追いつく余裕を与えず、27周目にはライコネンを抜き去って行った。

 フェルスタッペンとハミルトンの優勝争いは、さらに緊迫の度を増していた。必死に首位を守るフェルスタッペンだが、29周目前後にはランビアーゼにタイヤの厳しさを訴える。

フェルスタッペン:レースの最後まで、このままプッシュし続けるのは無理だ

それを傍受したボノは、すかさずハミルトンに伝えた。

ボノ:ルイス、フェルスタッペンはこのタイヤで最後まで行けないと言ってる。プッシュし続けるんだ

 28周目、ターン11で背後から仕掛けたノリスを、ガスリーが必死に防御する。押し出された形のノリスは、怒り心頭だ。

ノリス:僕を押し出した。あのバカ、何をしてるんだ? そのあと自分で飛び出てるし

 31周目、ボッタスがこんな無線を投げた。

ボッタス:プランBがいいんじゃないか

 プランBはこの場合、2回ストップ作戦のことだろう。ハードタイヤはそろそろ限界に来ている。フェルスタッペンの前にピットインして、フレッシュタイヤで追い上げようと提案したのだ。しかしムスコーニからは、目立ったリアクションはなかった。

 32周目にさしかかるところで、ボニントンがハミルトンにこう訊いた

ボノ:ルイス、残り21周だ。タイヤはどうだ?
ハミルトン:左フロントがほとんどダメだ。

 その直後、フェルスタッペンに「ボックス!」の指示が飛んだ。ミディアムに履き替え、4番手でコース復帰したフェルスタッペンは、猛然と追い上げを開始した。

 35周目、フェルスタッペンはまずペレスに追いついた。担当エンジニアのヒュー・バードから、ペレスに指示が飛んだ。

バード:マックスのラップタイムは(1分)36秒7だ。邪魔しないで行こう

 ペレスはすんなりと3番手を譲った。フェルスタッペンも、すぐに感謝を伝えた。

バード:いいぞ、チェコ
フェルスタッペン:本当にありがとう
ペレス:あいつらをやっつけよう
バード:そうだ。レースは続いてる

 しかしこの前後から、フェルスタッペンは無線トラブルに見舞われる。

フェルスタッペン:xxxxxx
ランビアーゼ:申し訳ない、マックス。無線の調子が悪い
フェルスタッペン:xxxxx
ランビアーゼ:ダメだ。もし可能なら、マイクの位置を変えてみてくれ

それでも数周後には、なんとか復旧した。

ランビアーゼ(41周目):ハミルトンのラップタイムは(1分)38秒2、ギャップは7秒2だ

ランビアーゼ(42周目):ボッタスはセクター1のペースがコンマ7秒も遅い。フロンタイヤがかなり苦しい

 フェルスタッペンは一気にボッタスに追いつき、44周目に一発で抜き去って行った。その直後、ボッタスは不満をぶちまけた。

ボッタス:僕が2ストップだと言ったのを、どうして誰も聴いてくれなかったんだ!

 レース終盤、フェルスタッペンのペースはさすがに鈍り始めたものの、ハミルトンとの差は着実に縮まっていた。

ボノ:差は3秒6だ
ハミルトン:わかったから、僕に任せてくれ

 しかしチェッカーの1周半前、ミストラルシケインのブレーキングでなすすべもなく抜かれていった。

ボノ:P2だ。よくやった。しっかり(タイヤを)持たせてくれてありがとう
ハミルトン:朝、言ったよね。でもベストを尽くしたよ。ポイントを獲れたし。

「朝、言ったよね」はおそらく、ハミルトンも2回ストップ作戦の可能性を言及していたのだろう。
そしてレッドブルの歓喜の無線。

ランビアーゼ:なんて甘美な勝利なんだ
フェルスタッペン:ははは、やったぜ。無線、ちゃんと聞こえてる?
ホーナー代表:ペイバックだ!借りを返した

 これでフェルスタッペンはハミルトンに12ポイント、レッドブル・ホンダはメルセデスに37ポイント差で、両選手権の首位キープに成功した。

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