池袋暴走事故、禁錮7年の求刑は「軽い」のか?

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2021年07月18日 09:31  弁護士ドットコム

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東京・池袋で2019年4月、乗用車が暴走し、松永真菜さんと長女・莉子ちゃんが死亡した事故をめぐり、自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死傷)の罪で起訴された男性(90)に対して、検察側は「ブレーキとアクセルを踏み間違えた過失は基本的な操作の誤りだ」として、禁錮7年を求刑した。


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しかし、ネット上では、この求刑について「軽い」という声があがっている。どう考えるべきか、刑事事件にくわしい神尾尊礼弁護士に聞いた。



●感情論と法律論を分けて考える

――求刑について「軽い」という声があがっている。



まず、感情論と法律論を分けて考える必要があります。



痛ましい事故・事件が起きた際、厳罰を求める気持ちがあるのはわかります。私も、人として思うところがあります。



ただ、刑事裁判は、その審理対象は基本的に検察官が定めたものになります。また、刑罰は改正したとしても、さかのぼって適用できないのが原則です。



したがって、検察官が審理対象としたものについて、事件当時の法律に従って判断したとき、検察官の求刑をどう評価するかを中心に法律家として述べたいと思います。



なお、より重い刑罰が科される可能性のある危険運転致死傷罪を適用すべきとの意見もありますが、一義的には検察官が決めることであり、そもそも審理対象という土俵にあがっていない以上、検察官の求めた過失運転致死傷罪に絞って検討したいと思います。



●法定刑としては二番目に重い「禁錮7年」

――過失運転致死傷罪の刑罰はどのように定められているのか?



自動車運転処罰法5条には、過失運転致死傷の罪が定められています。



<自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる>



懲役とは、刑務所に入れたうえで、刑務作業をおこなわせることです(刑法12条2項)。



禁錮とは、作業をおこなわせず、ただ刑務所に入れることです(刑法13条2項)。



作業の強制がない分、懲役のほうが禁錮より重い刑罰とされています(刑法10条1項、9条)。なお、禁錮の場合でも、刑務作業を望むことができますが、複雑になるので、今回は割愛します。



以上をまとめると、過失運転致死傷罪の法定刑で一番重いのは、「懲役7年」で、その次に「禁錮7年」ということになります。



なお、懲役と禁錮は、主に動機によって使い分けがされていると言われています。



政治犯と過失犯が禁錮、それ以外が懲役というのが、ざっくりとした分け方です。今回の事件も、過失犯ですので、禁錮を求刑したのだろうと思います。



●法定刑や統計からみると「重い」といえる

――求刑は「重い」ということか?



刑法には、併合罪や累犯といった、法定刑を超えることが許されるケースが定められています(刑法47条、57条)。



今回事件について、詳しい事情を知りませんが、こうした加重事由がないのであれば、「7年」というのは法律で定められた最長ということになります。



刑の種類からみると懲役7年よりは軽いとみられますが、前記のとおり、過失犯には禁錮を求刑するのが通例であるとすると、今回の「禁錮7年」は、ほぼ最大限に重い求刑であるといえます。



令和2年版犯罪白書(http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/67/nfm/images/full/h4-1-3-4.jpg)によると、過失運転致死罪1252件のうち、5年以上7年以下が2件、3年以上5年以下が4件です。



一番多いのが、1年以上2年以下で執行猶予が付く708件、次に2年以上3年以下で執行猶予が付く314件となります。全体では実刑が約60件、執行猶予が約1200件となります。



このように、5年以上でみても2件しかないことから、求刑としては、かなり重いものであったと予想できます。もちろん、証拠から重くする事情があったのかもしれません。



証拠を見てはいませんが、少なくとも、上記の法定刑や統計を手掛かりに求刑だけみると「重い」と評価することができます。



●検察庁は実刑を獲得しにきている

――執行猶予が付くのか?



そもそも有罪かどうか決まっていないのに、有罪を前提にしたうえで、執行猶予が付くかどうかなど、現時点では判断しようがありません。



統計的には、仮に有罪になっても執行猶予が付く場合があるとは思いますが、証拠もみていないので、軽々しく答えることはできません。少なくともいえるのは、「検察庁は実刑を獲得しにきている」ということです。



冒頭に触れた通り、痛ましい事件であることには変わりありません。



厳罰に処すことで、1つの事件のゴールとはなるでしょうが、どれだけ重く処罰しても次の事故を防ぐことはできません。ハンドルを握る以上いつ誰が過失犯となるかわからないからです。



また、自動車事故における過失犯(そして危険運転致死傷罪)が、法体系全体からみて、かなり歪みのある制度であるという指摘もあります。高齢者の自動車免許のあり方など、刑罰以外のアプローチも検討できるのではないかと考えます。




【取材協力弁護士】
神尾 尊礼(かみお・たかひろ)弁護士
東京大学法学部・法科大学院卒。2007年弁護士登録。埼玉弁護士会。刑事事件から家事事件、一般民事事件や企業法務まで幅広く担当し、「何かあったら何でもとりあえず相談できる」弁護士を目指している。
事務所名:弁護士法人ルミナス法律事務所
事務所URL:https://www.sainomachi-lo.com


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  • 以前も再三運転過失致死傷罪の最大量刑自体軽すぎるというのが世論だった 刑法改正を怠っているのは立法の怠慢 運用面でも措置義務違反や飲酒、被害者への不誠実な対応などで故意を擬製するようにすべきだ
    • イイネ!2
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