コロナ禍を機に、病院との付き合い方を変えた人は多いはず。
具体的には、これまでは不調が何かあったらとりあえず病院にかかっていたものを、深刻でないなら行かずに済ますようになったり、できるだけ病院に頼らないように生活スタイルを見直したり、といったことだ。
これは「病院でコロナにかかるのが怖い」というのもあるだろうが、医療というリソースは有限である。コロナ禍を通じて思うように医療を利用できなくなることを体感した人も多いのではないだろうか。もともと医療資源が不足している地域もある。自分の身体を守りつつ、医療という資源、医療機関を守ることはこれからの社会に必要なことであり、それは自分のためにもなることなのだ。
患者側が医療機関を支える心構えを持って行動することは、患者側のメリットが大きい、とするのは、『これからの医療 5つの「患者力」が、あなたと医療を守る!: 「患者力」を付けなければ自分を守れない』(ごま書房新社刊)の著者である医師・永井弥生さんだ。永井さんは多くの医療事故対応を経験した中で、医療者と患者のすれ違いを多々経験した。患者にとって安全安心な医療となるためには、高い患者力が助けになると述べる。
■これからの患者に必要な5つの力とは
医療機関の負担を減らすとは、「なにはなくとも病院へ」という生活スタイルを改めることだけではない。
自分の暮らす地域の医療の状況を把握し、自分自身の管理をすること(備える力)情報や事実、自分自身について客観的に把握すること(客観視する力)医師とのコミュニケーション力を高めること(対話力)受ける治療を自分で納得して決める覚悟を持つこと(自己責任力)自分軸を持った生き方を考え、自分なりの死生観を持つこと(生きる力・死ぬ力)一人ひとりの考え方、生き方が重要なのである。
永井さんによると、医師から見た好ましい患者とは「自分でできる自分の管理をきちんとして、状況をしっかり伝えてくれる方」。そういった方は、自分の生き方の軸があるのだ。それは自分が楽になる、満足した生き方でもある。こうした患者に共通するのがこれら5つの力である。
■自分のためになる「患者力」
患者自身がこれらの力を身につけることは、医療機関の負担軽減になるだけでなく、最終的に患者自身を守ることになる。
たとえば対話力。医師にとって良い印象を与える、好かれる患者になる方が良いのは間違いない。それだけではなく医師とのコミュニケーション能力がある患者の方が、診察も治療もスムーズに進みやすいということでもある。
体のどこかの痛みで医療機関にかかり、診察を受ける時、思うことを延々と話しても時間ばかりかかって医師が知りたい事実になかなか到達しない。いきなり過去にかかった病気の話を延々としても、それは全く関係のないことかもしれない。
もちろん、今の症状について、自分として考えられる原因を話すのは大切なことだが、その時は「事実」と「推測、自分の考え」を分けて話すことが大切。これだけでも医師への伝わり方は大きく変わるのである。
また、
・アレルギーがある薬、自分に合わない薬の名前を憶えておく
・診察や治療についてわからないことや心配なことはメモしておく
・先の見通しを尋ねる
などの具体的に心がけたい点もあげている。
医師の話も一つの情報として客観的に捉え、傾聴の姿勢を持つことも大事であり、スムーズな診療となり、医療者を助けることにつながる。
高い対話力の根底には、事実と感情や自分の考えを分け全体を見渡す客観視できる力や、自分の人生に責任もって生き方を考えている、といった自己責任力や生きる力もつながるのである。
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本書で永井さんは、これから進化する医療との関わり方として必要な、自分を助ける「5つの患者力」について、そしてそれを身につける意味について語りかける。
いずれの力も、患者である以前に一人の人間として主体的に生きていくために欠かせない人間力である。どんなことでも他人任せにせず、健康や人生についての決断を自分の手に握って生きるための力なのだ。
5つの力を身につけて「賢い患者」を目指すことは、自分軸で生きる人生を目指すこと。医療との関わりは避けて通れない。医療を上手に利用する。本書はそのための手引きとなってくれるはずだ。
(新刊JP編集部)