「安倍マリオ」から始まった「あまりにも軽すぎる」五輪

13

2021年07月23日 11:00  AERA dot.

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

AERA dot.

写真横浜の赤レンガパークに設置された五輪マーク(c)朝日新聞社
横浜の赤レンガパークに設置された五輪マーク(c)朝日新聞社
 東京五輪が開幕する直前に、開会式担当者の過去の人権蹂躙が相次いで露呈した。コロナ禍での強行開催の上に不祥事続き。平和の祭典のイメージはますます傷ついた。

【写真】「軽すぎる五輪」が始まったのはこの瞬間から

*  *  *
「私は東京大会招致に反対していました。五輪開催を担うには、日本の民主主義に対する意識や人権感覚が国際水準に追いついていないと感じていたからです。しかしここまでとは……」

 こう嘆くのは東京五輪・パラリンピック大会組織委員会理事を務める中京大学の來田享子教授(五輪史)だ。

 組織委が東京五輪の開閉会式のショーディレクターを務める小林賢太郎氏(48)を解任した7月22日、橋本聖子会長は苦渋の表情で頭を下げた。小林氏はお笑いコンビ「ラーメンズ」時代のコントで「ユダヤ人大量惨殺ごっこ」と発言した動画がネット上で拡散。米国のユダヤ人人権団体から抗議を受けた。來田さんは言う。

「日本のエンターテインメント業界には人権侵害的なネタで笑いをとる風潮が以前からあり、その都度炎上してきたにもかかわらず、私たちは当事者の芸人をバッシングすることはあっても、問題の本質を深く追及せず消費し続けてきました。日本人が人権侵害にしっかり向き合ってこなかったことが、今回の状況を招いたと思います」

 ただ、今回の動きには日本社会に漂う「底知れぬ悪意」も感じられる、と來田さんは言う。

「高い人権意識や倫理観から問題視する人がいる一方で、五輪をめぐる今のドタバタを炎上ネタとして面白がり、他人に降りかかる災厄を冷笑する人がいる。その分断が問題の本質的な解決の障壁になっているように思います」

 小林氏解任の3日前の19日。開会式で楽曲制作を担当していたミュージシャンの小山田圭吾氏(52)が、同級生や障害者に対するいじめを過去の雑誌で発言していた問題で辞任した。

 この人選を組織委はなぜ内部でチェックできなかったのか。來田さんは「佐々木氏辞任」の影響を要因の一つに挙げる。

 クリエーティブディレクターの佐々木宏氏は、開会式でタレントの渡辺直美さんの容姿を侮辱するような演出を提案していたことが発覚し今年3月に辞任した。

「日程が切迫する中、クリエーティブチーム内で意思疎通が図りやすい人を選ぶのは『必然』だと判断されてしまった」(來田さん)

 人選は実務担当者任せでも、注目が集まる開閉会式に携わるメンバーをチェックする役割が組織委幹部には求められたはずだ。

 会見で武藤事務総長は「最終的な任命責任は我々にあることは間違いないが、一人ひとりを我々が選んだわけじゃない。誘い合ってできたグループを選んだ。全体の名簿を受け取ったときに全部チェックすべきだったと言われたらそうだと思う」と説明。小山田さんが過去に雑誌などで語ったいじめ告白について「その段階では知らなかった。一人ひとりを調査するということは行われなかった」と明かしている。

 來田さんがクリエーティブチームの人選を知ったのは7月14日の報道と同時だったという。開閉会式の企画、演出の内容は聖火の最終走者や点火方法を含め、当日まで「トップシークレット」。クリエーティブチームの人選も事前に理事会などに諮られることはなかった。森喜朗前会長の女性蔑視発言を受け、3月に理事に就任した來田さんはこう悔やむ。

「せめて新しくメンバーに加わった人たちに五輪開催の意味を伝える場を設けるべきでした。佐々木さんの辞任の際にも感じましたが、オリンピックをオリンピッグと言ってしまうような感覚は、五輪ムーブメントを理解していないとしか思えない」

 五輪は単なるスポーツイベントではない。開閉会式などについても近代五輪の124年の歴史の中でどのような意味を持つのかといった深い理解を、少なくとも大会関係者は共有していなければならない。來田さんは五輪の理念よりも、「とにかく大会を無事に終わらせる」という実務が優先されてきた現実を、「勝利至上主義」に傾くスポーツ文化と重ねて見る。

「私たちは勝ち負けや結果ばかりを追いかけてしまいますが、五輪で大事なのはそこじゃない。そのことを常に肝に銘じていれば、今回の一連の事態も避けられたはずです」

 一方、近年の五輪について「哲学がなくあまりにも軽すぎる」と嘆くのは、東京都立大学の舛本直文客員教授(五輪論)だ。その象徴というのが2016年リオデジャネイロ五輪閉会式で登場した「安倍マリオ」。安倍晋三首相(当時)がスーパーマリオ役に扮する企画の演出を務めたのは先の佐々木氏だ。

 舛本さんはこう語る。

「あれは国内向けの政治メッセージ、つまり政治利用です。日本文化を代表するものとしてアニメやゲームを発信したかったんでしょうけれど『日本文化を発信する』という発想がそもそもずれています。国際協調の視点をせめてもう少し打ち出してほしかった」

 舛本さんは五輪本来の目的に立ち返るべきだ、と訴える。

「世界がコロナ禍に見舞われている今、五輪憲章の『平和な社会の推進』のために打ち出すべきは、発展途上国の感染対策への支援です。新型コロナウイルスのワクチン提供もアスリートだけでなく、衛生環境が劣悪な国の人々への提供を優先すべきでした。ところがIOC(国際オリンピック委員会)も組織委も自分たちの利益ばかりを追求しているのが見え見え。五輪の精神をないがしろにしたツケが今回の大混乱をもたらしたと見ています」

 東京大会の第32回オリンピアード(五輪暦)の期間は20年1月1日から23年12月31日まで。今回、自治体などが準備しながら実施できなかった異文化交流などの文化プログラムも、コロナ禍の収束が見込めるこの期間内にあらためて検討し直すことも可能だ。しかしそうした声は国内で上がらず、メディアや世論の関心はメダルの獲得数に集まりつつあるようにも映る。

「今回の東京大会でオリンピズムという言葉も浸透せず、広く共有することもできなかったのは残念としかいいようがありません」(舛本さん)

 五輪精神がないがしろにされる一方、商業主義や政治利用がはびこる現状を変えるにはどうすればいいのか。舛本さんは「アテネ恒久開催」を唱える。五輪発祥地のギリシアの首都アテネを「五輪の聖地」とし、4年に1度、恒久的に開催するという案だ。実現できれば、誘致にかかる巨額かつ不透明な資金の流れを止めることもできる。

「かつてのように発展途上国が経済成長のステップとして五輪を活用する時代は終わりました。IOCには商業主義を断ち切り、オリンピズムの普及に専念してもらうべきだと思います」

(編集部・渡辺豪)

※AERA 2021年8月2日号に加筆

このニュースに関するつぶやき

  • この枡本こそ、現状認識が古くコメントが軽すぎる。もはやゲームは世界文化で、ローカルなものではないんだよ。
    • イイネ!0
    • コメント 0件
  • 遂に阻止する事ができなかった。悔しさが滲み出てるぜ?今更何を言っても馬鹿アエラの言う事じゃ、左巻きだって「またか」としか思わんぜ? https://mixi.at/abFgSZV
    • イイネ!19
    • コメント 2件

つぶやき一覧へ(12件)

前日のランキングへ

ニュース設定