大学入試センターは「初めての大学入学共通テスト」をどう自己評価? 作問担当者が出題意図など明かす

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2021年07月24日 08:00  AERA dot.

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写真31年続いたセンター試験の後継となる「共通テスト」。思考のプロセスをたどらせる問題が目を引いた(撮影/写真部・張溢文)
31年続いたセンター試験の後継となる「共通テスト」。思考のプロセスをたどらせる問題が目を引いた(撮影/写真部・張溢文)
 今年1月、初めて行われた大学入学共通テストは、多くの関心と話題を呼んだ。大学入試センターは、外部の声をどう受け止め、試験内容を自己評価しているのか。AERA 2021年7月26日号で、作問業務を担当する小野賢志さんに聞いた。

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 大学入試センターは今年1月に初めて実施された大学入学共通テストの外部評価を6月に公表した。高校教員などでつくる「外部評価分科会」や教育研究団体が、問題が適当だったか、改革の目的に沿っていたかなどを分析・評価。これに対する問題作成部会の見解も加えまとめたのが「大学入学共通テスト問題評価・分析委員会報告書」だ。

──外部評価も受け、第1回共通テストを大学入試センターではどう自己評価していますか。

小野:今年のテストは、総じて共通テストの趣旨にふさわしい問題になっていたという評価が得られたと受け止めています。

──「報告書」では、試験を肯定する評価が多い一方、厳しい声もいくつかありました。例えば「知識の活用や読み取りといった、『技能』を問うものが多く、『思考』を評価する出題とは言い難かった」(世界史A)、「場面設定の説明が詳しすぎるため、読解力があれば生物学の知識を必要としないものも見られた」(生物)などです。

小野:一つ一つの出題については、センター試験と同様、様々なご指摘を受け止め、今後の改善のため参考にしていきたいと思います。例えば、受験者が「知識がなくても問題文を読めば解けた」という指摘については、その教科の見方や思考力が身についているから解けたとも考えられます。正答率や誤答分析などにより、丁寧に検証する必要があると考えます。

──共通テストの狙いは「知識・技能」に加え「思考力・判断力・表現力」のさらなる重視です。それらの力が測れたか、検証が大事だといわれています。一方で、世界史の外部評価分科会では「思考・判断」を評価する問題の割合を算出しようとしたものの、何をもって「思考・判断」とするのか議論が紛糾した、と報告しています。大学入試センターでは、思考力や判断力が測れたかを具体的にどのように検証するのでしょうか。

小野:「知識・技能」と「思考力・判断力・表現力等」は異なる観点ではありますが、完全に切り離せるものではありません。共通テストでもどちらかだけを問う問題はあまりありません。

「思考力・判断力・表現力等」が測れているかを確かめることは数字だけでは難しいため、複数の観点から見る必要があると思います。例えば、解答データの統計的な分析に加え、外部評価も含め評価や意見を伺うということも一つです。今後は、大学入試センター内の研究として受験生の解答プロセスの分析を行うことも必要と考えています。また、各大学では入学後の学生の教育状況を追跡し、入試や教育のあり方を分析するIRの取り組みが進みつつあります。将来的に、その中で共通テストで測った力との関係を確かめることも有効ではないかと考えます。

■英語の問題量は妥当

 共通テストは2017年、18年の2度の試行調査(プレテスト)を経て実施された。プレテストでは、国語で生徒会部活動規約などの実用文が出題されたり、複数の教科で会話形式の問題が出たりなど話題を呼んだ。だが、本番のテストは、全般的にプレテストよりもセンター試験に近く「初年度は安全運転に徹した」との声があがった。そうしたなか、変化が大きく議論を呼んだのが「英語」だ。

──英語のリーディングはセンター試験に比べ分量が千語以上増え、スピードが要求されました。全国英語教育研究団体連合会は「速読と精読のバランスや効果測定の観点、特に 思考力を測定する観点からするとこれ以上語数を増やすことは有効ではない」と指摘しています。

小野:英語で測りたい思考力等は、一語一語を日本語に置き換えるのではなく、目的・場面・状況等に応じて、様々なテクストや内容から概要や要点を把握する力や、必要とする情報を取得する力です。こうした力を測るには、問題文にある程度のボリュームが必要になります。問題量と試験時間、受験者の負担のバランスについては今後とも考慮する必要がありますが、本年度については、問題作成部会の見解にあるように実践的なコミュニケーション力を測るために妥当な分量だったと考えています。

■知識の活用力を問う

──リーディングでは、スマホでのメッセージのやりとりやファンクラブの入会案内など実用的な場面が多く設定されていました。一方で、実用に偏りすぎたのではないか。大学入試なのだからもう少しアカデミックな内容の文章が必要だったのではないかとの声も聞かれます。

小野:学習指導要領では、コミュニケーションを行う力を育てることとしており、生徒の身近な日常的な話題や社会的な話題を扱うことになっています。

 今回の共通テストでは、物語、社会科学的な話題、自然科学的な話題等を扱っています。センター試験からバランスが大きく変わったとは考えていません。

 なお、大学入学者選抜の試験であることを踏まえ、多様な題材を取り上げていく工夫は重要と考えています。その際、公平性の観点からは、題材等が受験生の日常から離れすぎないような配慮も必要と考えています。

──センター試験で出題された「発音、アクセント、語句整序などを単独で問う問題」はなくなりましたが、発音や文法は大事なのではとの声もあります。

小野:発音や文法は当然重要です。共通テストでは、実際に英語を読んだり聞いたりする中で使えるかを問うています。例えば“as…as”という文法知識について、センター試験では語句整序の問題として単独で出題されていました。共通テストではウェブ上の旅行情報のやりとりを読む中で活用できるかを問うています。発音についてもリスニングの中で“won’t”と“want”という語を正しく聞き分けないと正しく理解できない問題などを出題しています。

■授業改善と作成方針

 共通テストには当初、「英語民間試験」「国語・数学の記述式問題」も導入される予定だったが、実施上の問題が浮上し、土壇場で見送られた。20年1月から文部科学省の有識者会議「大学入試のあり方に関する検討会議」が25年以降の導入を改めて議論したが、「実現は困難」との提言を7月上旬に提出した。

──共通テストへの「英語民間試験」「国語・数学の記述式問題」の導入が正式になくなる見通しですが、これを受けてマーク式問題も見直される可能性はあるのでしょうか。

小野:共通テストは、受験者の能力を多面的・総合的に測ることを大きな目標にしてきました。この基本的な方向性は変わりません。その上で、今回の外部評価や、「検討会議」の提言なども参考にしながら、マーク式の中でできる限りの工夫を重ねていくことが大事だと考えます。

──今回の入試改革の頓挫について「入試で教育を変える」という発想が間違っていたと、検討会議の委員をはじめ識者たちが指摘しています。一方、共通テストの問題作成方針には「高等学校における『主体的・対話的で深い学び』の実現に向けた授業改善のメッセージ性も考慮し」、場面設定を重視した作問をする、と書かれています。矛盾しないでしょうか。

小野:入試改革は、高校教育が変わらないから入試を変えるのではなく、むしろ逆に、高校教育が変わろうとしているからこそ入試も変わらなければならないという考えに立っています。先生方が、目指したい授業と入試対策の間で板挟みにならないようにしなければなりません。

 検討会議の提言でも、「入試改革に過度に期待することは適切ではないが、高等学校以下の教育に望ましい影響やメッセージを与え得る大学入学者選抜に改善することは重要である」と述べられています。過去に遡れば、共通1次試験が設けられた背景には、大学が受験生を選別するために、いわゆる難問・奇問が出題され、高校の授業に悪影響を与えていたという現実がありました。

 共通テストの「授業改善のメッセージ」とは「出題した問題のような授業をしてください」と押しつけるものではありません。多くの高校の先生方は学習指導要領に基づいて、授業改善に取り組もうとされていると思います。共通テストでは、そうした授業を通して培われた力を適切に評価できるよう、学習の過程を意識した出題を工夫することで、先生方をエンカレッジしたいと考えています。

──来年の共通テストに向けて受験生はどのような勉強をしたらいいでしょうか。

小野:共通テストでは、各教科の本質的な力を測ることを大事にしています。一日一日の授業を大切にする中で、特別な試験対策ではなく、教科の本質を追究する学習をしていれば、しっかり対応できると思います。

(構成/編集部・石田かおる)

※AERA 2021年7月26日号

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