茨城からハーバード、徳島からスタンフォードに合格した18歳が語り合う 東京との「格差」

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2021年07月24日 11:00  AERA dot.

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写真松本杏奈さん(左)と松野知紀さん(右)(撮影/写真部・戸嶋日菜乃)
松本杏奈さん(左)と松野知紀さん(右)(撮影/写真部・戸嶋日菜乃)
 今夏、地方出身の高校生が、アメリカの名門大に飛び立つ。徳島県出身でスタンフォード大に入学予定の松本杏奈さんと、茨城県出身でハーバード大に入学予定の松野知紀さんだ。

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 松本さんはこれまで、海洋プラスチック問題解決のための研究プロジェクトを設立したり、目や耳が不自由な人にも情報を伝えられる触覚を用いた機器を研究したりした。松野さんは中学から自分の意思でオンライン英会話を始め、高校時代にG20サミット公式付属会議で各国政府への政策提言などを行ってきた。高い英語力と学業の成績だけでなく、こうした課外活動への積極的な取り組みもアピールする必要がある海外大受験。渡米を控えた同い年の2人が、地方ならではの海外大受験の大変さを語りあった。
<<後編『地方からハーバード、スタンフォードに合格した2人が語る 海外大への道を阻む「奨学金」の壁』に続く>>

*  *  *
――お二人は知り合いだそうですね。

松本杏奈さん(以下、松本):学部生から海外大に留学する人は少ないので、お互いのことはSNSなどで認知していました。私はatelier basi(アトリエバシ)という、全国各地の熱意のある学生の海外大進学を無償でサポートする団体の一期生なんです。

松野知紀さん(以下、松野):ハーバード大の合格後、atelier basiでメンターを募集していると聞いて参加したところ、そこに松本さんがいました。それからは団体のミーティングや一対一で、オンラインで話すようになりました。お互い境遇がちょっと似ているので。でもインパーソン(対面)で会ったのは今日が初めてです。

松本:松野くんの合格したハーバードは理論的な人が多く、私の合格したスタンフォードは問題児的な人が多いといわれることが多いんです(笑)。私は思ったことをそのまま行動に移してしまうのですが、松野くんは問題点に対して解決策を理論的にじっくり考える人という印象です。

松野:ありがたいですね(笑)。松本さんは発信力があって、人を惹きつける力が非常にあるなと思います。海外大進学のプロセスや「壁」についてツイッターで積極的に発信していて、それに対するいいねやリツイートも多く、それで松本さんのことを知った人もいると思うんです。発信力は私にはない部分なので、尊敬しています。

■「アメリカの大学受験って簡単なんやろ?」と言われて

――海外大受験について、周りの人の反応は。

松本:私の周りは猛反発でした。私が勉強していたら、同級生が「アメリカの大学受験って簡単なんやろ?」「数学は誰でも解けるレベルなんやろ」と謎の嫌がらせをしにくる。学校の先生にも、廊下ですれ違いざまに「アメリカの大学は帰国子女とかじゃないと無理だと思うから、考え直した方がいいと思うぞ」と言われていました。海外大出願のためのエッセイ(小論文)を書くために教室でパソコンをいじっていると、「でもエッセイ書くだけでしょ?」「日本より楽じゃん、逃げじゃん」とも言われましたね。

松野:私の学校には人のやりたいことを尊重するという自由な空気があったので、そこまで荒波という環境ではなかったです。周りの皆も海外大受験がどういうものなのか理解はしていなかったと思うのですが、私が頑張っているということは伝わっていて、同級生から「頑張ってね」と声をかけてもらったのはありがたかったですね。

松本:私も頑張っている姿を見せるとその状況も変わってきました。秋ごろになると切羽詰まってきて、頭はぼさぼさの状態で眼鏡をかけて登校して、机にエナジードリンクを置いて誰とも話さずに勉強していたんです。先生も「寝てるか? 大丈夫か?」と心配してくるんですよ(笑)。最後のほうは、皆「こいつは本気なんだな」とわかって応援してくれました。

 私の学校では「女子は絶対に続かないから理工系には行くな」と言われていました。物理の先生から「今ここにいる女子は物理は向いてないから生物選択に変えてこい」と言われて女子が泣き出したことがあったんです。そこで私が「何を言ってるんだ」と立ち上がったら、ほかの皆に「考えすぎなんじゃない」と言われて。

松野:ええ……実際に理工系に進学した人もいないの? 

松本: 本当は工学部に行きたかったのに、「潰しが効かない」から仕方なく医学部に行った先輩がいて、彼女が高校に合格体験記を話しに来た時に、号泣しながら「医学部なんて行きたくなかった」と言ったんですよ。そのあとトイレに行ったら、私と同じ理工系志望の同期の女子たちが泣いていて。その子たちに「お前ら絶対行きたい道曲げんなよ、行きたいところに絶対行くべきだ」って言ったら、今年はたくさん理工系進学者が出た(笑)。

■東京の高校生と会って気づいた地方との格差

――地方ならではの困難を感じたことは。

松本:アジアサイエンスキャンプという学者と学生の交流プログラムがあるのですが、私は何カ月もかけて応募書類について調べて学校の先生を説得し、ようやく応募することができたんです。そこで東京の高校生と会ったのですが、「学校の壁にポスターが貼ってあって、先生に勧められた」「このキャンプ、何をするのかわかってないんだよね」と言うんです。頬をひっぱたかれたような衝撃でした。海外大受験の推薦状にしても、先生に普通に書いてもらえたり、出身校について英語で説明する書類も、もともと学校が準備してあったり。東京の子がエッセイを書いている間に、私は出身校の説明文を書いている。その差は大きかったですね。

松野:自分から能動的に動かなくても情報が入ってくるので、課外活動は首都圏の学生のほうが参加しやすいんですよね。さらに出願するときには、学校の先生の理解や、学校がもつリソースの差も大きい。私の場合も、先生にアメリカの大学に出願するプロセスを一から説明しました。またスクールプロファイルはほとんど私が書いて、推薦状も「こういうことを書いてほしい」とかなり細かく先生にお願いしました。あの労力をほかの部分に割くことができていれば、エッセイ執筆や他の部分にもう少し時間をかけられたかもしれないし、夜はもっと早く寝られたかもしれない(笑)。

松本:うんうん、本当にそう(笑)。私たちは合格したからそれもいい経験だったと言えるけど、もし全落ちしていたら、先生や学校のことを恨んでいたと思う。自分は地方と都会のギャップを埋めてここにいるけれど、海外大進学の現実を周知することで、この埋める作業の労力を縮めていきたい。

松野:その努力の一つがatelier basiでの活動ということですね。そうした地方と都会の格差を感じた一方で、高3になると、客観的に見られるようになった部分もあります。格差がある中で、自分がどのように課外活動などを頑張ってきたのかをアプリケーション(願書)で強調できたからです。

■スタンフォードから届いた「あなたを合格にした理由」

松本:地方だからこその努力は無駄にならなかった。日本の大学受験では一定の点数を越えないとだめだけれど、アメリカの大学では、スタートラインが低いところから努力してある程度のところまで昇ったことを評価してくれる。私は課外活動にしても自分で全部調べて、やりたい研究プログラムがないから企業に直接メールを送ってお金を出してもらうなどの経験を通じて、自分も行けるんじゃないかと海外大受験の自信がついてきました。

松野:海外大は総合評価なので、例えば学力が好ましくない人でも、原動力があって何かを成し遂げたとか、壮絶な環境のなかで努力したとか、そういったコンテクスト(文脈、背景)を考慮して合格者を選定しているんですよね。現状としては、日本からは都市部出身者が合格することが多いですが、地方からチャレンジする人が少ないというだけだと思います。リソースが限られた環境で頑張ってきた人と、周りにいろいろなリソースがあって自分からはとくに何もせずに実績をつくった人がいれば、前者が評価されると大学の審査官から聞いたことがあります。

松本:大学合格後、スタンフォードから届いた手紙に「あなたを合格にした理由」というものが書いてあったんです。「あなたの、周りから定められた可能性すべてを突破し、つかめるチャンスをすべてつかみ、前例がないなら自分が前例になるという貪欲な姿勢に、私たちは感銘を受けました」というような内容でした。やっぱりそういうところをちゃんと見てくれているのだと思います。

松野:私もハーバードの面接で、担当者の方と話が盛り上がりました。大学に行くのは全生徒の10%もいないという高校からハーバードに行った人で、地域の格差や困難など思うところがあったようです。自分のそういったバックグラウンドが、海外大受験ではむしろ強みになったのかなと思います。

<<後編『地方からハーバード、スタンフォードに合格した2人が語る 海外大への道を阻む「奨学金」の壁』に続く>>

(構成/白石圭)

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