「LaLa」編集長が語る、45年の歴史と作家との関係性 「“これはLaLaらしい”と誰もが感じる作品を送り出していきたい」

3

2021年07月25日 12:01  リアルサウンド

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

リアルサウンド

「LaLa」創刊号

 今年45周年を迎えた少女マンガ誌「LaLa」。創刊号から現在に至るまで、独自の世界観で斬新な「恋愛マンガ」、そして「恋愛マンガ」以外も読みたいという読者の受け皿となってきた。今回、6月に編集長に就任した佐藤一哉氏に45年間の歴史、作家との関係性、電子やWEBでの展開、そして「LaLa」が持ち続ける矜持について聞いた。(編集部)


関連:【画像】インタビューに登場した作品の書影一覧


■作家が自由に自己表現できる環境を整える


――佐藤さんは、入社後すぐ「LaLa」編集部に配属されたんですよね。


佐藤一哉(以下、佐藤):2002年から丸15年、「LaLa」に所属して、その後「花とゆめ」編集部に異動しました。4年のうち、3年は編集長を務めたあと、今年の6月にふたたび「LaLa」に戻り、編集長をやらせていただいています。


――もともと少女マンガがお好きだったんですか?


佐藤:いや、実をいうと入社時に志望していたのは、青年誌の「ヤングアニマル」なんですよ。妹が読んでいた『ママレード・ボーイ』(吉住渉/集英社)などの人気作には触れていたんですけど、少女マンガというジャンル自体にはほとんど造詣がなくて。「LaLa」に配属されて、先輩方の仕事ぶりを見ながら、一から覚えていった感じです。なじみやすかったのは、「LaLa」が少女マンガだからといって、恋愛にこだわる作品づくりをしていなかったことですね。


――確かに。私も10代のころは「LaLa」や「花とゆめ」にお世話になりましたが、夢中になった理由が、恋愛一辺倒じゃない、というところでした。もちろん恋愛も描かれるんだけど、それより物語の枠組みを重視しているというか……。


佐藤:よく「雑誌のコンセプトはなんですか」と聞かれるんですけど、実をいうと「LaLa」にも「花とゆめ」にも代々引き継がれている何かみたいなものが特になくて。編集部で働きながら肌で感じろ、という感じなんです(笑)。ただ、言語化できることがあるとするなら、おっしゃるように、学園が舞台の恋愛マンガ以外を読みたいと思っている読者の受け皿になりたい。作家さんも、それ以外を描きたいと思っている方々の可能性を伸ばしていこう、という気風は昔も今も貫かれていますね。


 ――佐藤さんの入社当時、人気があったのはどんな作品ですか?


佐藤:いちばんヒットしていたのはやっぱり『彼氏彼女の事情』(津田雅美)ですね。


――学園ラブコメではありますけれど、主人公・雪野の見栄っ張りで愉快な性格をはじめ、型破りな描写が多かったですよね。


 佐藤:そうですね。あと、入社してすぐに『桜蘭高校ホスト部』(葉鳥ビスコ)の連載を先輩がたちあげていて。あの作品もイケメンばかりのホスト部に、一人だけ女の子が紛れ込むといういわゆる逆ハーレムモノですが、なかなか恋愛には発展しないし、どちらかというとコメディの要素が強かった。


 ――その二作にも代表されるように、「Lala」や「花とゆめ」など白泉社の少女マンガ作品は、王道の設定を著者の好みで自在にアレンジしていくものが多い気がします。こんな言い方していいのかわからないんですけど、フェチ性の強い作品が多いな、と。


 佐藤 確かに弊社のマンガは、そこはかとなくフェチ性を感じるものが多いかもしれません(笑)。でも、それは編集者側が意図して仕掛けられるものではないんですよ。むしろ計算すればするほど読み手は醒めてしまう。読者の心に刺さるためには、まず作家さんが自由に自己表現できる環境を整えることが大事で、作家性を活かしながらいかに商業としてのクオリティをあげていくかを考えるのが、私たちの仕事なんだろうと思います。


 ――それって、創刊当時から貫かれている姿勢でもあるんでしょうか。


 佐藤:おそらくは……。私の生まれる前のことなので正確なことは言えないですけど、「LaLa」を創刊した小長井(信昌)さんは、集英社で「別冊マーガレット」の編集長を務めていた方で、白泉社の立ち上げメンバーのひとりなんですけれど、おそらくは「別冊マーガレット」はまた違うドラマ性をもった作品をつくろうというお気持ちはもちろん、懐の深い雑誌であろうという意志はあったと思います。


 ――言われてみれば「LaLa」は、『日出処の天子』(山岸凉子)を連載開始させた雑誌ですものね……。今読んでも衝撃的なあの作品を1980年に掲載したというところに、相当な懐の深さを感じます。


 佐藤:そうなんですよ(笑)。はたから見たらチャレンジングだなと思われる作品も、おもしろければ載せる。その姿勢を貫き続けることで、作家さんも「この雑誌なら受け止めてくれるかもしれない」と作品を持ち込んでくれる。その積み重ねが今の「LaLa」らしさをつくったんじゃないかと思います。


 ――編集長によって、多少、雑誌としての色に違いが出たりはするんですか?


 佐藤:それはもちろん、あると思いますよ。雑多性の強い雑誌なので、基本的には何を載せてもOKではありますが、やっぱりラブコメ好きの編集長とファンタジー好きの編集長では、強化されるものは異なってくると思います。私の場合は、ジャンルの好みというのはそれほどなくて。作家さんが才能を輝かせている瞬間に立ち会うことが好きなんですよ。だから、編集者と組むことによって、作家さんひとりで描くよりも二倍、三倍おもしろくなっていくような企画を期待しています。


 ――佐藤さんご自身は、いち編集者だった時代に、緑川ゆきさんと『夏目友人帳』の連載をたちあげたんですよね。


 佐藤:はい。先ほども申し上げたとおり、当時の私は、少女マンガじたいの勉強を始めたばかりで。萌えの強い作品づくりが得意な先輩、ギャグの感度が高い先輩、骨太な物語を描く作家さんに寄り添うタイプの先輩と、いろんな強みをもった編集者と同じ土俵で戦うにはどうしたらいいか?をずっと考えていた。そんなとき、緑川さんに出会ったんです。もともと、緑川さんの描かれる読み切り短編も含めて、作家性に惹かれるところが強かったところに『夏目友人帳』の企画を持ち込んでくださって。これなら、並み居る連載陣にも太刀打ちできる作品になるんじゃないかと思いました。


 ――どんなところに、特別なものを感じたんですか?


 佐藤:線の細さのなかにも芯のあるファンタジー、というジャンル自体が当時の「LaLa」にはなかったものでしたし、読み心地も恋愛ではなくて感動重視、だからといって湿っぽくなりすぎず、ちゃんと笑える部分もある。というのが、とてもいいなあ、と。まあ、あとはやっぱり、少年と猫という組み合わせがよかったですよね。主人公が夏目だけでは、これほどのメガヒット作にはならなかったんじゃないのかな。


 ――じゃあ、ニャンコ先生を見て「これはヒットするぞ!」と?


 佐藤:そう言えたらカッコイイんですけど、そこまでの自信は正直、なかったです(笑)。ただ、これはきっといい作品に育っていく。緑川さんの繊細な絵にもマッチして、きっと多くの人に読まれるんじゃないか、とは思いました。


■作家性を伸ばす作品づくりをめざす


 ――「作家性を大事にする」というのは、実はいちばん難しいことじゃないかと思うんです。先ほどもおっしゃっていた商業の視点を備えながら、自由さを失わせてもいけない。そのバランスはどのようにとっていらっしゃるのでしょう。


佐藤:確かに、作家さんにただ自由に描いてもらうだけでも、こちらがガチガチに固めすぎても、売れる作品はつくれないんですよね。ただ、これが正解だというものが見つけられないから、私たちは常に試行錯誤をしているわけで……。最初から自由にのびのびやってもらったほうが物語が跳ねる作家さんもいれば、ある程度の型にはめたほうが作家性が生きる作家さんもいる。たとえば『学園ベビーシッターズ』(時計野はり)の企画を通したのは、「花とゆめ」誌面で『赤ちゃんと僕』(羅川真里茂)の連載をたちあげた編集者だったんですよ。『赤僕』がわりと重めのテーマも扱いながらドラマで読ませていく作品だったのに対し、『学園ベビーシッターズ』はもう少しライトに、「このかわいい子たちをもっと見てみたい」という欲求を叶えてくれる作品。時計野さんのあたたかみある絵柄だからこそこのネタが生きる、と編集者がした提案が、うまくハマった好例ですね。


――最近の作品で、ちょっとチャレンジングだったけどヒットしたな、という成功例はありますか?
 
佐藤:2019年に連載開始した『転生悪女の黒歴史』(冬夏アキハル)は、私が「LaLa」を離れているあいだに一番ヒットしたんですけれど、なかなか新しい作品だなと思いましたね。自分の黒歴史ともいえる、中学時代に書いたファンタジー小説の登場人物として転生してしまうという、異世界転生モノのなかでもあまり読んだことのないタイプの物語で。時代の流行をとりいれながら作家性を引き出していく、という作品の作り方じたい、これまでの「LaLa」では見られなかったものなので、すごいなあとシンプルに感心しています。あとは『機械じかけのマリー』(あきもと明希)は、男性読者が多くて「アニメイト」での売れ行きも好調な作品です。元天才格闘家のマリーが、機械人形のふりをして、大企業の御曹司のメイドとして働くというギャグ要素の強い作品なんですが、キャラクターの描き方が絶妙にうまい。


――どちらもコメディ要素の強い作品ですが、ガチガチの恋愛はあまりウケなくなっている……みたいな時代の変化を感じることはありますか? テレビドラマでも、最近はどっしりした恋愛が少なくなっているような気もするのですが。


 佐藤:ライトな読み心地の作品が好まれがち、というのはあるような気がしますね。男性キャラの描き方も、ヘタレ系男子が増えてきていて。まあ、もともとフェチ性の強さで年下男子は多く描かれがちでしたけど、性格的にはオレ様なキャラクターが多かったように思うんです。私が入社してから十年くらいは、ラブコメで人気のあった『会長はメイド様!』(藤原ヒロ)をはじめ、壁ドン・顎クイを多発させるドS男子が好まれていたんですが……おそらく働く女性が増えてきて、癒しを求めるようになってきたのかもしれません。


 ――ドS男子からヘタレ系男子に人気が切り替わった、きっかけの作品はありますか?


 佐藤:(LaLa)前編集長が(「花とゆめ」編集部時代に)たちあげた『高嶺と花』(師走ゆき)はひとつのターニングポイントだったかもしれません。「花とゆめ」に異動する前だったんですけれど、これは新しいキャラクターの型が生まれたな、と思ったのを覚えています。高嶺は物言いも態度も横柄なんだけど、イケメンでセレブ、仕事もできるエリートだからこそ、許される。これまで描かれてきたSキャラの流れを継ぐ完璧なヒーローなのに、JKの花に軽くいなされて、ダメなところがどんどん露呈していってしまう。残念なんだけど、そこがかわいいという。


 ――『機械じかけのマリー』や、いま連載中の『末永くよろしくお願いします』(池ジュン子)もそうですが、主人公にだけダメなところを見せてくれる、というのがポイントですよね。働く大人の女性読者はたぶん、仕事のできない男子には厳しいから(笑)。


 佐藤:そのへんの理想を詰めていくと、望まれるのはオレ様系のドS男子ではないのかもしれませんね。……とはいえそれは、そういう傾向がある、というだけの話で。ライトな読み心地が好まれる今だからこそ、カウンターとしてどっしりとした恋愛を描く作品がほしいなとも思いますし、以前より減ってはいたとしても、ドS男子の需要にも応えていきたい。実際、『天堂家物語』(斎藤けん)はかなりシリアスで、偏執的なフェチズムも強い作品ですけど、従来の「LaLa」らしさを存分に発揮しながら、人気がある。時代を読みとった先鋭的な作品であろうと、昔ながらの王道作品であろうと、読者をエンタメとしてとことん楽しませてくれるものであってほしいというのが、私のいちばんに望むところです。感情の流れを丁寧に汲みとって描くことで、読者になんらかの強い感情を喚起させてくれるのが少女マンガのおもしろさだと思うので。


 ――白泉社には「Love Jossie」といった、エロティックな描写が多めの電子限定雑誌がありますが、WEBの読者が増えつつあるなかで、挑戦していきたいことはありますか?


 佐藤:三月に、電子限定の増刊誌として「××LaLa いちゃLaLa Vol.1」というのを配信したんです。そちらでは、本誌にはちょっと載せづらい官能的な描写が多い作品を掲載しています。七月には「××LaLa BLaLa Vol.1」というBL雑誌も電子で創刊しまして。懐の深い雑誌でありたい、とは言いつつも、やっぱり官能やBLを本誌に混ぜていくのはハードルが高い。それよりは、そのジャンルを好む読者に向けた一冊を、そのつど配信していけたらと思っています。一分野・一編集長でチャレンジしやすい土壌をつくれば、それは編集者たちのモチベーションにもなるでしょうし。作家性を伸ばす作品づくりをめざすには、編集者たちもまた、のびのび個性を育てていってほしい。その結果、「これは『LaLa』らしいね」と誰もが感じてくれるような作品を、世に送り出していければと思います。


このニュースに関するつぶやき

  • 恋愛重視な少女漫画のイメージとは一味違い、何かしらのテーマに恋愛がくっついてくる作品が多くて男性読者でも読み易い雑誌ですよね。
    • イイネ!8
    • コメント 2件

つぶやき一覧へ(2件)

ランキングゲーム・アニメ

前日のランキングへ

オススメゲーム

ニュース設定