「竜とそばかすの姫」レビュー 危険すぎるメッセージと脚本の致命的な欠陥

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2021年07月25日 12:17  ねとらぼ

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写真すずの親友・ヒロと合唱団の3人/「竜とそばかすの姫」予告編より
すずの親友・ヒロと合唱団の3人/「竜とそばかすの姫」予告編より

 「竜とそばかすの姫」を見た後、はらわたが煮えくりかえっていた。



【動画】「竜とそばかすの姫」予告編



 仮想テクノロジーによる没入型SNSという「サマーウォーズ」のアップデート、家庭内、社会内で孤立する若者を描いた「おおかみこどもの雨と雪」の延長線、何より「時をかける少女」との演出的な相似性。これまで氏の作品を見続けてきた者として、本作を総決算として見るのは非常に容易だ。むしろ細田守監督もそのつもりで本作に向き合っているのだろう。



 結果、本作は市場が求めていた細田映画の再来として好調なスタート。細田史上最大のヒット作になるとの予想も出ている状態だ。だがそれと同時に逆の集大成――すなわち、過去作でも度々言及されてきた細田作品の負の側面、すなわち「社会システムへの根本的な不信」、それを原因とする「脚本の致命的な欠陥」。加えて結果として出力されたものが受け手側に示す「歪んだメッセージ性」があらためて浮き彫りになった。このような作品を「全世代向け夏休みアニメ」としてひろく上映することの危険について、強い懸念を覚えている。



【※以下、「竜とそばかすの姫」のネタバレを含みます】



●社会システムへの根本的な不信



 既に多くのレビューで触れられているが、本作には成人による子どもへの虐待描写が含まれる。物語後半、それをネット上のストリーミング配信で目撃した主人公・すずたちは、彼らの住所を少ない手掛かりから特定し、児童相談所と思しき場所に通報を行う。そこで出てくるのが「48時間ルール」だ。



 これは2007年、児童相談所運営指針の改定として全国的に取り入れられたもので、通告を受けた児童相談所が原則48時間以内に子どもの安全確認を直接行わなければならないというものだ。このルールについては、現実に徹底できていない問題が長年指摘されており、2019年の札幌市・2歳児童虐待死の際にも大きく報道された。



 しかし作中、主人公の友人・ヒロは虐待が行われる瞬間をしっかりと録画している。それをもとにしかるべき機関に任せる、というのが本来行うべき対応だろう。ところが通報口の相手が48時間以内の対応を原則としており、即座に動いてくれるとは限らないと知るや、すずは遠く離れた東京に向かって走り出す。



 もちろん、子どもたちだけの行動であれば「今すぐ行って助けなければ」となるのは分かる。ただこのシーンでは、それなりに年齢を重ねた地域の大人たち、合唱隊の面々がしっかりとすずに付き添っており、助言を行うこともできた。しかし彼女たちは、「行かなきゃ……」と飛び出していくすずをあろうことか駅まで送り、深夜バスに乗せ、ひとり虐待親の待つ武蔵小杉まで放り出すのである。すずもまた子どもであるにもかかわらず。



※追記(7月26日):出発時点で目印となるのは武蔵小杉にある建物だが、恵の居住地は多摩川を挟んだ反対側で見つかる



●脚本の致命的な欠陥



 すずの行動は、彼女の母が行った、自己犠牲に伴う少女の救出と対比される。反復を分かりやすくするため、劇中でわざわざ雨まで降らせているわけだが、であればすずの周りにいた大人たちは何に当たるのか。あの時川辺で危険にさらされていた子どもを眺め、何もせずにいた「傍観者」である。



 合唱隊のメンバーはすずを物理的に誘導しているだけ、よりタチが悪い。あれでは濁流の川を前に、ただライフジャケットを手渡したようなものだ。時折インサートされる集合写真、及び小説版での“(すずは)私たちの子供みたいなもの”との描写があるが、あれで親代わりとするにはあまりにも無責任である。



 彼女たちはそもそもの立ち位置・行動が矛盾しており、またそれを正当化するほどの性格の描き込みが行われているわけでもない。残念ながら、物語上「すずを駅まで運ぶ」以外の要素が与えられていないのである。



 そして、実のところ彼女たちがいなくても、舞台を田舎にせず、すずが自転車等で武蔵小杉に向かう、というようなシナリオにすれば、成り立ってしまう展開だ。本作においての田舎は、「デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!」のように田舎と都会で主人公が分断されていることの面白さ、「サマーウォーズ」の大家族+インターネットアバターのギャップといった利点を持っているわけではない。



 そもそも急いで向かわなければならない、という状況で悠長にバスに乗る、という演出上奇妙な点も解決する。地域住民たちもすずのための道具にすぎず、それにより脚本が不整合を起こすのであれば、そもそも舞台が田舎である必要はない。



●歪んだメッセージ



 これらを総合すると、どうひいき目に見ても、ストーリーラインとして「虐待の解決に社会福祉は期待できない」「周りの人間は身近な者も含め、力になってくれない傍観者」という残酷な結論が導き出されてしまう。ここまでは「助ける助ける助ける! うんざりなんだよ!!」と恵がいう通りだ。ではそれに対して、この物語はどのような決着を与えるのか?



 絵空事である。



 虐待を受けていた子どもたちは誰かに保護を求めるでなく、雨の中傘もなく勝手に家を抜け出している。そこにたまたますずが駆け付け、2人を抱きしめる(子どもたちはこの段階ですずに住所を伝えられておらず、配信画面から特定を行ったことを彼らは知らないにもかかわらず)。そこに駆け付けた子どもたちの父親はすずと対峙し拳を振り上げるも、その心の強さに打ちひしがれ、腰を抜かして退散してしまう。



 これらのストーリー展開にはどこにも論理がない。偶然と超自然的な力により、非力なお姫様は手も下さずに魔物を倒してしまうのである。そこにあるのはご都合主義ですらない、ただの夢物語である。



 そしてあろうことか、日常的に虐待を受けている14歳の少年に“僕も立ち向かわなきゃいけないって思った。だから、闘うよ”と言わせて、彼らの物語の幕は閉じ、以後彼らがどのような道を歩んだのか、一切明示されない。



 “僕も闘う”とは、少年少女のひと夏の異世界アドベンチャーには似合うセリフだが、ここに登場しているのは現実世界で明確に親から危害を受けている少年だ。彼と近しい状況にある人間は、確実にこの社会に存在する。保護されるべき存在である少年に、このようなセリフを「肯定的なこと」として言わせ、夢物語でしかない解決を与え、その責任を取らないというのは、一線を超えている。被虐待児童に必要なのは、闘う意志ではない。



 余談だが、先日絵本作家・のぶみが五輪関連イベントへの参加を辞退した。辞退理由は公表されておらず、一部報道などでは自伝における表現が問題視されたとも伝えられたが、実際のところ彼が批判されている理由は他にある。



 彼は「子どもは虐待する親を自分から選んで産まれてくる」「障害は子どもが産まれる前に意志で選びとる」「中絶も、堕胎されるのもわかったうえで子どもは着床する」といった極端な思想をSNS上で拡散し続けている。これは責任を一方的に子ども側に転嫁するものであり、かつそれを絵本等、子どもが触れることを前提としたコンテンツとして販売していることを強く非難されているのだ。



 細田作品にのぶみほどの即時的な加害性があるとまでは言わない。深夜アニメや、犯罪をテーマにした作品がいくらテロリズムや殺人を賛美しようと何も思わない。守るべきもののために世界を危険にさらし、警官に銃口を向けるアニメ映画があっても、もちろん何の問題もない。ただ、被虐待児童に対し世の中に対する不信を与え、明らかに誤った解決策を提示する作品については、擁護できない。



 細田は現実世界の問題意識をはっきり持った上で作品作りに生かしているというが、単独脚本である「未来のミライ」そして本作をみるに、その危険度は明らかに上がっている。アニメーション演出自体の独自性、絵の魅せ方についての技量は否定しようもない。ただ、以下のような考えを持った上で作品を作るのであれば、脚本周りについては絶対に再考の必要がある。以前のように共同執筆、ないし脚本協力を入れる、またはいっそのこと細田の作業とは切り離すべきだ。



“細田:要は「エンタテインメントの作品に、そういう現代社会の問題意識は不要だ」っていう人もいるかもしれないけれど、そんな訳ないじゃん、甘い夢ばかり見せるのがアニメなんですか? と言いたくなっちゃうんです。アニメに求められているのが、単なる現実を忘れる道具だとしたら、それはつまらなすぎますよ。”/「【細田守インタビュー・後編】ネットの世界があるという前提で強く育ってほしい - 「アニメージュプラス」より



 もしここまで述べてきたような意見が、無責任な外部、インターネットの敵意、それこそ取るに足らないアンチの戯言として片付けられてしまうのであれば、非常に残念だ。



 この作品は間違っている。



(将来の終わり)


このニュースに関するつぶやき

  • 細田守のアニメって何か腑に落ちないモヤモヤ感が残るので苦手。児童虐待とか若者の貧困とか、無理に生々しい社会問題をねじ込まなくてもいいのにと思う。
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  • 確かに突っ込みどころはそのとおりだなあ。なんとなく違和感を感じていたけどそれが言語化された。まあでもこれはエンタメなので・・
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