無冠のベストセラー作家・小川糸が「あした死んでもいい」理由

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2021年07月25日 16:00  AERA dot.

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写真小川糸さん(左)と林真理子さん (撮影/写真部・高野楓菜)
小川糸さん(左)と林真理子さん (撮影/写真部・高野楓菜)
 現在、著書『ライオンのおやつ』がドラマ化され、NHKのBSプレミアムで放映中の作家・小川糸さん。その丁寧なライフスタイルも人気です。静かでミニマルな暮らしの小川さんと、華やかでエネルギッシュな作家・林真理子さん。対照的な二人のやりとりが楽しい対談でした。

【前編/作家・小川糸が語る死「もしかしたら気持ちいいかもしれない」】より続く

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*  *  *
林:小川さんは最初の作品からパソコンで書いてますか。

小川:はい。林さんは今も手書きですか。

林:全部手書きです。

小川:すごいですね。書く前に、構成が全部できてるんですか。

林:書き出すと出てくるんです。みんな「間違ったときどうするの?」って聞くんだけど、線を引いて終わりです。だからメチャクチャ汚いですよ、原稿は。もし今からパソコンにしたら、文体が変わってくると思う。恋愛小説を書く人は、手書きが多いっていう話も聞いたことありますよ。

小川:でもパソコンに慣れると、「この漢字、どう書くんだっけ」なんてことがよくあります。

林:手書きでも、加齢とともにどんどん忘れてきて、サイン会のとき、ため書きの方の漢字が書けないと「ごめんなさい、最近はパソコンなので」とか言ってごまかします(笑)。ところで、最新刊の『とわの庭』は、生命力の糧が、自分を捨てた母親に対する思い出だけという胸がえぐられるような小説でしたけど、山本周五郎賞の……。

小川:候補になっただけなんですよ。

林:小川さんって、こんなに本が売れて評価が高いのに、不思議と賞には恵まれていないんですね。

小川:はい、賞にはご縁がなくて。

林:『ライオンのおやつ』なんか、賞の候補に絶対なるべきだと思うんですけどね。本屋大賞はどうだったんですか。

小川:2位だったみたいです。

林:なんでいつもスレスレなんですか(笑)。

小川:いつもそうなんです。1位になる人生ではないんです(笑)。

林:でも、小川さんの本って、英語、韓国語、中国語、フランス語、スペイン語、イタリア語に翻訳されているんでしょう? すごいですね。おいしいものを愛する人の心というのは、世界各国普遍的なことなんですね。

小川:ありがたいです。でも、文化によって評価がわかれるところもあって、フランス、イタリアではとても共感していただいたんですけど、まだドイツでは翻訳されていません。食べることに対する向き合い方が違うのかもしれないな、と思いました。

林:なるほどね。小川さんって、もちろん本も人気あるけど、生き方がまるごと人気ありますよね。丁寧で静かな生活をしている作家で、女性のライフスタイル系の雑誌に引っ張りだこで、向田邦子さんを思い出します。女性のある種の理想の生き方を体現していて、皆さん憧れるんでしょうね。

小川:今は皆さん家で過ごす時間が増えていますけど、私はもともとそういう生活だったので、たまたま時代と重なったのかなと……。

林:ご自分で料理をつくり始めたのはいくつぐらいのときですか。

小川:大学で上京して、自炊を始めました。アルバイトも飲食店が多くて、料理を少しずつ習って、「おいしいってこういうことなんだ」ってだんだんわかってきました。つくるのが楽しいんです。

林:たとえば、原稿がすごく乗ってきたときに夕飯つくらなきゃならなくなって、「もう!」と思ったりすることないですか。

小川:私はおなかがすくまでを執筆時間としてるので、おなかがすいたらやめちゃいます(笑)。

林:夕飯は何時ごろですか。

小川:夕方6時前後ですね。その前に銭湯に行くんですけど。

林:えっ、自分のうちのお風呂じゃなくて?

小川:はい、平日は。

林:へぇ〜。そして帰ってきて本を読んだりテレビを見たり?

小川:そうですね。ごはん食べたら寝るモードです。

林:たとえば都心でお酒飲んだり買い物に行ったりとかは?

小川:若いころはしてましたが、最近はあんまり。ベルリンにいたことが大きいかもしれないです。

林:お酒は召し上がるんですか。

小川:毎晩飲みます。たくさんは飲まないですけれど。

林:お芝居とかコンサートは?

小川:そういうのは行きますよ。私の中では金曜日の午後からが週末扱いなので、週末は外に行ったり友達に会ったりしています。

林:こんな静かな生活をしていたら、どうやってお友達をつくるんですか。

小川:ベルリンにいたときの友人なんかと、LINEで誘ってごはん食べたりとか。「何時からごはん食べながら飲もうね」って。

林:あ、リモートってこと?

小川:はい。たまにですけど。

林:なんか、私とあまりにもライフスタイルが違うのでびっくりというか……。

小川:アハハハハ。

林:今の若い作家の人のエッセーを読むと、朝ちょっとランして、原稿書いて、お昼はパスタつくって、午後には仕事が終わって、なじみの居酒屋に行くみたいな、ミニマリズム(最小限の生活)で暮らしてますよね。その代表が小川さんですけど、私たちの世代だと、作家はガンガン仕事してガンガン遊んでましたよ。男性なんか銀座のクラブに行ったりして。

小川:そういう豪傑な感じにも憧れます。

林:でも、そういうミニマリズムでいい小説が書けて本が売れるんだったら、すごくいいなと思いますよ。小川さんってほんとに新しい作家なんだなと思う。

小川:林さんは、原稿を書かれるだけじゃなくて、こういう対談のお仕事も週に1回のペースでされてるって、ほんとにすごいですよね。エネルギーがありますね。

林:私たちの世代は、今の若い作家と熱量が違うんだと思う。流行作家と言われるにはたくさん連載をやって、たくさん稼がなきゃと思っていたんでしょうね。でも、これからは出版の形がどんどん変わっていくから、私たち、ついていくのも大変だと思う。

小川:でも、カッコいいですね。おいしいものを食べに京都に行ったりとか。憧れます。

林:いや、いまはそういうの、バブルを引きずってる時代遅れな人とみなされますから(笑)。

小川:でも、支える人がいなくなると、文化もすたれてしまいますし。

林:そうなんですけど、いまの社会の軸は小川さんたちの生き方だろうなってつくづく思いますよ。

小川:そうですか……。

林:ところで、次の小説はもう書き始めてるんですか。

小川:はい。

林:それも書きおろしですか?

小川:基本はそうですね。

林:いつごろ出そうなんですか。

小川:いつなんでしょうね。予定を決めるのが苦手で、約束するのも苦手で、なるべく約束しないようにしてるんです。

林:小川さん、少女のころから憧れていた作家になって、本も売れて、生き方に憧れるファンの方もいっぱいいて、人生満足ですか。

小川:はい、満足ですね。あした死んでもいいかなという。

林:おいおい、まだ若いんですから(笑)。あの賞がほしいとか、そういうことは考えないんですか。

小川:それはあんまりないです。でも、まだやったことがないことをしたいなという欲はあります。

林:たとえば?

小川:山で暮らしたことがないなと思って、八ケ岳(山梨県)に土地を見に行きました。小屋を建てて仕事場にしようと思って。そのためには車が必要なので、去年、教習所に通いました。無事免許もとって、いまその計画を進めています。

林:書いてる本とご本人が、こんなにぴったり一致してる作家もめずらしいですよ。きょう初めてお会いしましたけど、私がイメージしていたとおりの方でした。

小川:ハハハハ、そうですか。

(構成/本誌・直木詩帆 編集協力/一木俊雄)

小川糸(おがわ・いと)/1973年、山形県生まれ。2008年、『食堂かたつむり』でデビュー。同作は映画化され、英語をはじめ、フランス語、スペイン語、イタリア語など多言語に翻訳される。11年にイタリアのバンカレッラ賞、13年にフランスのウジェニー・ブラジエ賞を受賞。『つるかめ助産院』『ツバキ文具店』など著書多数、エッセーや絵本なども手がける。その丁寧なライフスタイルも、多くの支持を得ている。現在、『ライオンのおやつ』(ポプラ社)がドラマ化され、NHKのBSプレミアムで放映中。

※週刊朝日  2021年7月30日号より抜粋

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