コロナ禍の「SNSリレー」から1年 一之輔「残骸を発掘が楽しい」

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2021年07月25日 16:00  AERA dot.

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写真春風亭一之輔・落語家
春風亭一之輔・落語家
 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「リレー」。

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 去年の春から夏にかけてリレーが流行った。SNSでバトンを回す、アレである。友達の少ない私でもバトンが3本も回ってきた。

 1本目は「コロナ禍で寄席の真打ち披露興行が出来なくなってしまった後輩を落語家みんなで励まそう!」みたいなバトン。私は仲の良いロケット団の三浦昌朗さんに回そうと思ったのだが、当人の許可も得ずにいきなりSNS上で指名してよいものか……初めてで勝手がわからない。そのためにわざわざ電話でその趣旨を説明して許可を得たり、動画を撮るのも慣れてないしで、かなり手間取った。しばらくするとこのリレーがネットニュースに取り上げられ、新真打ちや落語界の宣伝にもなったみたい。ナイスバトン。

 2本目は「ラジオパーソナリティバトン」だったか。番組で共演している松本秀夫アナウンサーから電話がかかってきた。「嫌なら断ってもらっていいんです」と年長者からの非常に丁重な申し出に「全然問題ないっす」と恐縮。この頃、世の中はバトンリレーブームの真っ最中。なんならちょっとバトンの飽和状態だった。人に回すのも気を使いながらのリレー。受け取ったはいいが、このバトンを誰に回そう? 外山惠理アナウンサーにTBSラジオ「たまむすび」の放送中という断れない状況でお願いしてみた。外山さんは快く引き受けてくれたが、動画の笑顔の下の心のうちはどうだったのだろう。外山さん、あの時はすいませんでした。

 3本目は、普段そんなに会う機会のない噺家の先輩からの留守電だった。「あのさー、おむすびを握ってその画像を上げるだけなんだけど、お願い出来ないかなー? 折り返しくださーい」と入っている。なんだ、それは? 調べてみると「#祈るおむすびバトン」というハッシュタグがヒット。「手作りのおむすびの温もりで人の輪を繋げよう」というバトンが、著名人のあいだで回っているらしい。神田うのが海苔の代わりにトリュフをご飯に巻いたゴキゲンなおむすびをアップしていた。ただ、私に回ってくるということは、すでにあまり著名でない人も交じっている様子。しばらく考える。祈り。おむすび。先輩からの依頼。温もり。がらにもないし、かなり面倒くさい。受け取ったとして誰に回す? 早く返事せねば。果たしてオレの握ったおむすびを見て誰が喜ぶのか? そして、とても面倒くさい……面倒くさい……面倒くさい……面倒くさい。

「兄さん、すいません。うち、お米が切れてました」。先輩が出ないのをいいことに、子どものような言い訳を留守電に吹き込む。すぐにメールで「了解です」と先輩。優しい方なので察してくれたのだろう。その後、「私はそんなものやらない」と公言したり、「受け取ってもらえない」と嘆いたりする有名人も多数出現。ブームは去っていった。

 その頃のバトンの「化石」がいまだにSNS上に「雨ざらし」になっている。受け取りたくもないのに受け取って、回したくないのに回す。そんなバトンは一目ですぐにわかるものだ。ブームから1年経った今、その残骸を発掘するのはなかなかに楽しい。

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめた最新エッセイ集『まくらが来りて笛を吹く』が、絶賛発売中

※週刊朝日  2021年7月30日号

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