菅政権肝いりの「キャリアメール持ち運び」、どこまでニーズがあるのか?

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2021年07月26日 06:11  ITmedia Mobile

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写真携帯電話からメールのやりとりができる「キャリアメール」は、特にフィーチャーフォン時代は日常のコミュニケーションに欠かせない存在として広く利用されていた
携帯電話からメールのやりとりができる「キャリアメール」は、特にフィーチャーフォン時代は日常のコミュニケーションに欠かせない存在として広く利用されていた

 かつて生活に欠かせない存在だった、携帯電話事業者(キャリア)が提供するいわゆる「キャリアメール」だが、スマートフォンとSNSなどの普及で利用は大幅に減少している。にもかかわらず、総務省は現在のタイミングでキャリアメールの持ち運びができるよう各キャリアに求めているのだが、一体なぜなのか。その経緯を改めて振り返ってみよう。



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●役目を終えつつあったキャリアメール



 スマートフォンが普及するより以前から携帯電話を使っている世代なら、ほぼ誰しもが知っているであろうキャリアメール。これは携帯各社が提供するメールサービスで、「docomo.ne.jp」「au.com」「softbank.ne.jp」などといったキャリアのブランドのドメインを冠したメールアドレスを通じ、携帯電話からメールのやりとりができるものだ。



 キャリアメールはかつて、日本において生活に欠かせないインフラというべき存在でもあったのが、諸外国ではキャリアメールではなく、携帯電話番号を通じてメッセージを送信できる「SMS」の利用が一般的だった。なぜ日本でSMSではなくキャリアメールが普及したのかというと、大きく2つの要因があったと考えられる。



 1つはSMSが世界的に普及した2Gの時代、日本では独自の「PDC」という通信方式が主流で、SMSに類するショートメールサービスが独自仕様であったためキャリア間の互換性が重視されず、利用が大きく広がらなかったこと。そしてもう1つは、1999年にNTTドコモが開始した「iモード」のメールサービスが、ショートメールサービスと同様自動的にメールが届くプッシュ型のサービスながら、250文字という当時としては非常に長い文章のやりとりができたことから爆発的人気を獲得し、他社がそれに追随したためだ。



 だがスマートフォンの普及によって、モバイルでのインターネット常時接続が当たり前となり、「LINE」などのメッセンジャーアプリや、さまざまなSNSの利用が拡大した。その影響でキャリアメールは価値を落とし、利用が減少していくこととなる。スマートフォンの普及以降にモバイルを利用使い始めた若い世代はキャリアメールをほとんど利用しないとも言われており、そうした世代をターゲットとした「ahamo」などのオンライン専用サービスではキャリアメールが提供されていない。



●総務省がキャリアメールの持ち運びにこだわる訳



 だがそうした中、総務省は2020年10月に公表した「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」で「キャリアメールの持ち運び実現の検討」を打ち出した。そして2021年5月28日に公表された「スイッチング円滑化タスクフォース」の報告書では、そのキャリアメールの持ち運びを「2021 年中をまどに、できる限り早期の実現を目指す」と結論付け、キャリアに早期実現を要求しているのだ。



 役割を終えつつあるキャリアメールを、なぜ総務省は現在のタイミングでの持ち運びに躍起になっているのかといえば、ひとえに競争促進による通信料金引き下げのためだ。総務省は携帯電話市場がNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの携帯大手3社による寡占状態にあることが料金高止まりの主因として長年問題視しており、楽天モバイルやMVNOなどのより安価なサービスにユーザーが移りやすくするべく、乗り換えのハードルを限りなく0にすることに力を注いでいるのだ。



 とりわけ携帯電話料金引き下げを公約に掲げる菅政権の誕生以降、その後押しもあって乗り換え障壁の撤廃に向けた総務省の勢いは急加速している。それがキャリアメールの持ち運びを含む先のアクション・プラン、そしてスイッチング円滑化タスクフォースの実施へとつながっているわけだ。



 総務省がキャリアメール持ち運びを実現すべきとしている根拠は、5000人に実施したWebアンケートである。そのアンケートによると、キャリアメールを週1回受信利用している人が67.7%、送信している人が37.1%いるとされており、持ち運びサービスを利用したいと答えた人の割合が74.1%であることから「一定程度のニーズがある」としている。



●持ち運び開始時期が「2022年夏頃」から「2021年中」に前倒しに



 菅政権もキャリアメールの持ち運びに対して強い期待感を抱いているようで、それを示しているのがキャリアメール持ち運びの提供開始を巡る動きだ。実は2021年3月30日に実施されたスイッチング円滑化タスクフォースで公開された最初の報告書案では、携帯大手3社のシステム開発期間が平均で約1年となっていることから、2022年夏頃の実現が適当とされていたのだ。



 だが2021年5月24日の第7回会合で公表された報告書案では、「2021年中をめどに、できる限り速やかに実現することを目指す」と変更され、最終的な報告書でも同じ内容となっている。その根拠について、別の資料では「スイッチングコスト低廉化の早期実現の観点から、事業者の準備状況も踏まえ」と記されているのだが、有識者による議論で時期を早めるべきとの議論は見当たらないことから、菅政権の意向が変更に大きく影響した可能性が考えられるわけだ。



 実際、菅義偉内閣総理大臣は2021年6月23日に、キャリアメールの持ち運びの年内実現に言及したとされている。また武田良太総務大臣も2021年6月25日の記者会見で、菅総理の発言に言及する形で先のタスクフォースの報告書に触れ、「年内の持ち運び実現を目指して調整が進められていると承知をしております」と発言。キャリアメールの持ち運びに強い期待感を抱いている様子がうかがえる。



●「変更元管理方式」が採用、気になる料金は?



 では、キャリアメールをどのような形で、他社サービスでも利用できるようにしているのだろうか。スイッチング円滑化タスクフォースでの議論を振り返ると、2つの方法が候補に挙げられている。



 1つは移転元のキャリアがメールサーバを管理し、ユーザーが移転先のサービスからインターネットを通じてそれを利用する「変更元管理方式」。そしてもう1つは、移転先キャリアがメールサーバを管理し、移転元キャリアがそこにユーザーの受信メールを転送する「転送方式」である。



 それら2つの方式を事業者間協議で検討した結果、どちらの方式を取ってもシステムの変更に一定の時間とコストが発生するとの結果に至った。ただ受信だけでなく送信にも移転元キャリアのメールサーバが利用できるメリットや、転送方式で発生するなりすましのリスクなどを考慮し、最終的には変更元管理方式による持ち運びが「望ましい」との結論に至っている。



 ただ、システムの変更や維持には一定のコストがかかることから、それを誰が負担するのか? という点は気になるところだ。同タスクフォースの報告書では、コストの回収方法について「利用者に転嫁するかどうかを含め、基本的に事業者において自主的に判断すべき」とまとめられているが、同時に「仮に有料サービスとする場合も、その利用を妨げる水準とならないようにすることが適当」とも記されている。



 ゆえに現時点で誰が、どのような形で負担するのかは見えていないのだが、利用するユーザーが限定されることから、毎月の通信料にコストを上乗せして徴収することはユーザーから納得を得られない可能性が高いだろう。一方で、高額でなければ有料でのサービス提供を認めていることを考えると、持ち運びを求めるユーザーに対して毎月料金を負担してもらう形が現実的なのではないかと考えられる。



 なお、持ち運びの提供範囲に関しては、MVNOを含む他事業者にオープンかつ公平な仕組みで提供されるべきとされている。加えて同じキャリア間で「キャリアメールの提供がない自社内サービス」もその対象とすべきとされており、オンライン専用プランへの持ち運びも可能とようだ。



●果たしてどこまでニーズがあるのか?



 総務省、そして菅政権が強い期待を抱いているキャリアメールの持ち運びだが、実際どの程度ニーズがあるのかは判断しにくい。総務省のアンケートでは一定の利用があるとされているが、それはあくまで5000人の意見にすぎず、一方で持ち運びが「必要ない」という声も少なからず聞かれ、キャリアメールの持ち運びを競争政策の目玉の1つに据えることには疑問を抱く向きも多いようだ。



 ただ一方で、3キャリアのオンライン専用プランのサービス開始直前に、多くのWebサービスが、オンライン専用プランへの移行でキャリアメールが使えなくなり、トラブル発生の可能性があるとして注意喚起していたことも記憶に新しい。このことは、利用頻度が減っていてもキャリアメールが実際は何らかの形で使用されており、存在感が大きいことを示したともいえる。



 また最近ではドコモがahamoに有料での店頭サポートを追加するなど、オンライン専用プランを若い世代以外にも拡大しようとしているのではないか? という動きも見られ、そうなれば今後、キャリアメールの持ち運びニーズが高まる可能性も考えられる。それだけに、キャリアメールの持ち運びがどこまで利用されるのか? というのはふたを開けてみないと分からないというのが筆者の見方である。



 ただ先の事業者間協議によると、変更元管理方式では「IMAP対応メーラーを具備している」ことが必須条件とされているが、特に古いフィーチャーフォンの利用者がそうした条件を理解し、端末を買い替えて設定までこなせるのか? という点には疑問が残る。また移転元のキャリアメールは、移転先からしてみれば他社サービスなので、それを移転先のキャリアショップがどこまで面倒を見るべきなのかという点も、報告書を見る限りは明確になっていない。周辺環境の整備にまで議論が及んでいない状態で、開始を急ぐ必要があるのか? という点には疑問がある――というのが正直なところだ。


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