きっかけはコロナ禍のSOS 住民の暮らし変えたラジオ体操と花壇

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2021年07月26日 11:30  AERA dot.

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写真「ひだまりガーデン」の様子
「ひだまりガーデン」の様子
 4月のある晴れた日の午前10時。東京都渋谷区の住宅街にある小さな公園に数人のシニアが集まっていた。それぞれ1〜2メートルほど距離をとって、円になっている。真ん中にはCDラジカセ。一人がスイッチを入れると、ラジオ体操の曲が流れ始めた。

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 青空の下、参加者は気持ちよさそうに手足を動かす。ラジオ体操第一の次は、第二。20分ほど体を動かしていると、じんわりと汗が出てくる。

「ここに来るだけで、気持ちが明るくなるんです」

 と、タオルで汗を拭きながら、満面の笑みを見せる参加者の女性。聞くと、ラジオ体操は雨の日以外は毎日欠かさず開催されているという。

 体操がひととおり終わったら解散……と思いきや、参加者が向かった先は、100メートルほど先にある15坪ほどの「ひだまりガーデン」。バラを中心にボタンやパンジーなど、四季を通じて100種類もの花が植えられている。真ん中には小径やベンチがあり、一息つけるスペースにもなっている。今はバラやボタンの季節。大ぶりの花が咲き誇り、よい香りを放っている。

 参加者は枯れた花を摘むなど簡単な手入れをし、マスク越しのおしゃべりをはずませる。話題の中心は花壇に咲いている花。

「クレマチスも咲いたし、オルレアも咲いたね」
「あら、つぼみは赤いのに、咲いたらピンク色になるのね」
「可愛い葉っぱ、ブーゲンビリアみたい」

 かれこれ30分ほどいただろうか。昼前になったので、それぞれ帰途につく。涼しくなる夕方にもう一度集まって、水やりなどをする予定だ。

 ラジオ体操やひだまりガーデンを通じたシニアの居場所づくりに取り組むのは、この地域で暮らす中島珠子さん(68)。約20年間、看護師として医療機関で働き、一昨年に定年を迎えた。現在は若年性認知症の支援や、高齢者福祉のボランティア活動などを行っている。

 ひだまりガーデンができたのは、今から5年ほど前だ。

「空き家を撤去して更地になっていたところで、手入れもされていなかった。草ぼうぼうになっていたんです。その空き地の活用法としてバラ園はどうかと、町内会の会長に相談しました。最終的に区から許可が出て、土地を借りることができました」(中島さん)

 花を育てるのが大好き。花壇作りは苦ではない。一緒に手入れをするメンバーは、区の掲示板に掲載して募った。

 遠出がしにくいコロナ禍の今、自分が暮らす街にこうした「行き場」があってよかったと、中島さんはつくづく思う。実際、保育園の散歩道にもなっているこのガーデンが今、大活躍している。

 サラリーマン風の男性がベンチに腰掛けて弁当を食べていたり、パソコン作業をしていたり、学生風の人が絵を描いたり、写真を撮ったり……。

「昨年、最初の緊急事態宣言が出されたとき、皆さん近所しか行くところがなくて。近所を散歩していてガーデンを知ったという人が意外と多いんです。植物の手入れをしているといろいろな人から『こんなところに、こんな場所があったんですね』『家と駅との往復ばっかりだったので、気付かなかった』って声をかけられました」(同)

 ラジオ体操は2度目の緊急事態宣言が出た今年1月から開催している。きっかけは、区のボランティア活動を機に知り合いになった独り暮らしの80代の女性からのSOSだった。

「ずっと家から出なかったら、歩けなくなってしまったの……」

 何とかしてほしい。女性は何度も訴えた。

「それならということで、公園でラジオ体操を始めることにしたんです。家から出るきっかけもできるし、体操はできなくても公園でおしゃべりするだけでいい。ただ、(ラジオ体操の放送時間の)6時半にみんなが集まるのは難しい。そこでCDを買って、午前10時に流すことにしました」(同)

 気がつくと知り合いが友人を誘って……というふうに、輪が広がった。参加者は60〜80代で独り暮らしの女性が圧倒的に多いが、週末は若い父親が子どもを連れてきて、一緒に体操をすることも。常連には、101歳のお元気な女性もいる。ラジオ体操やガーデンの散歩を心から楽しみにしているそうだ。

「今日はお見えになっていなかったけれど、杖をつきながら公園に来て、一緒に体操するんです。その後、一緒にガーデンに行ってベンチに座って少し休んでから帰られるのが日課」(同)

 ラジオ体操を終えて、ガーデンの手入れを一緒に行いながら、昔の恋愛映画の話を楽しそうに語っていた80代半ばの女性。独り暮らしで、これまでは友人といろいろと出かけていたが、今は気軽に誘いにくいという。記者に向かってこう話した。「ここに来るのが楽しい。今はね」

(本誌・山内リカ)

※週刊朝日  2021年7月30日号より抜粋

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