スズキとダイハツの今後は? はたらく軽自動車の電化が必須な理由

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2021年07月27日 11:31  マイナビニュース

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スズキとダイハツが、トヨタらが進める商用事業プロジェクト(CJP)に参画した。これを機に期待したいのが、物流などのビジネスに使う軽自動車の電動化だ。電気自動車(EV)のさまざまな特性を考えると、軽商用車の電化がもたらすメリットが多いことは明らか。問題は値段だが、開発コスト低減の見通しも立ちつつある。

○電動化だけがカーボンニュートラルではない?

スズキとダイハツ工業は、トヨタ自動車らが進める商用事業プロジェクト「Commercial Japan Partnership」(CJP)に参画した。軽自動車におけるCASE技術の普及を通じ、カーボンニュートラルへの取り組みを加速させたい意向だ。

CJPとは、いすゞと日野自動車が商業車事業で培った基盤とトヨタのCASE(コネクテッド=情報通信/オートノマス=自動運転/シェアード=共同利用/エレクトリック=電動化)技術を組み合わせ、輸送業が抱える課題の解決や、カーボンニュートラル社会の実現に貢献することを目指した取り組みのこと。2021年4月に3社でスタートさせた。CJPの枠組みに軽自動車メーカーを組み入れることで、荷主から顧客まで、物流業界が抱える課題を一気通貫で解決しようというのが今回の動きだ。

スズキとダイハツがCJPに加わったことで、軽自動車の商用車でもCASEの流れが加速しそうだ。特に軽商用車の電動化、具体的には物流などに使う軽自動車規格のEV開発が進むのではないかと思えるのだが、実際はどうなのだろうか。

この点について、CJPTの中嶋祐樹社長(トヨタ商用車部門のプレジデントでもある)は、顧客との接点となる「ラストワンマイル」を担う軽商用車について、「電動化だけがカーボンニュートラルではない」と語った。

しかし、軽商用車こそEV化すべきだと私は考える。
○軽商用車のEV化が必要だと思う理由

世の中にある軽商用EVは現在、三菱自動車工業の「ミニキャブ・ミーブ」のみだ。車両価格はハイルーフのバンで243.1万円から。これに対し、ガソリンエンジンの「ミニキャブ」は、同じくハイルーフのバンで98.67万円(5速MT仕様。ATは106.92万円)からとなる。EV化により、ミニキャブは2.5倍も高価になっているのだ。これでは、軽自動車メーカーが軽商用EVの実現に二の足を踏むのは当然だといえる。

それでも、日本郵政は東京を中心に1,200台のミニキャブ・ミーブを導入し、脱炭素化へ動き出した。この台数は、都内で使っている配送用軽商用バンの約3割に相当するとのこと。事実、東京を歩いていると、赤いミニキャブ・ミーブが街を走っているのをよく見かけるようになった。

さらに、宅配便大手の佐川急便は、中国製の軽商用EVバン7,200台を導入すると発表している。中国製とはいうが、企画・開発と製品保証を行うのは日本の企業だ。ASFというその会社は、日本の総合商社である双日と提携関係にある。

そんな中、台湾の企業家である蕭偉城(ショウ ウェイチェン)率いるHWエレクトロは先ごろ、小型商用EVの日本導入を発表し、年内に軽自動車規格に合致する車両を導入するとの計画を明らかにした。さらには数年のうちに、新型の軽商用EVも導入する方針だという。その車両価格について蕭社長は、「(航続可能距離)1km=1万円」が目標だと述べた。

宅配業などのラストワンマイルを担う商用車の走行距離が、(人口密度や拠点数によって地域差があるものの)1日あたり100〜150kmであるとすれば、車両価格は100万円〜150万円に収まり、ガソリンエンジン車のミニキャブにも、かなり近づくことになる。そのうえで、電気代はガソリン代の半分ほどになる期待もあるので、車両価格の差額は経費の削減により補っていくこともできそうだ。

さらに、EVならではの回生を利用した運転操作が加われば、保守管理の経費も削減できる。まず、オイル交換がいらないのは当然として、ブレーキパッドの減りも大きく減らすことができるので、パッド交換をほとんど行わなくても済む可能性がでてくる。

なおかつ、運転支援機能で期待される自動ブレーキに関しても、回生を利用すればアクセルペダルを戻しただけで初速を落とせるので、より安全な商用バンになるだろう。

しかも、軽商用バンで使われる自然吸気のガソリンエンジンに比べ、低速トルクの大きなモーターであれば、発進と停止が繰り返される市街地を中心とした利用で力不足は感じないはず。室内は静粛で、就業中の労働条件もよくなるに違いない。

生産財としてもっとも重要な「原価低減」の壁さえ乗り越えることができれば、軽商用EVこそ最良の「はたらくクルマ」になる。仕事を終えた後はガソリン給油に立ち寄る必要もない。事務所に持ち帰って充電すれば、翌朝には満充電で仕事に出られる。帰宅の時間だって、多少なりとも早まるはずだ。

軽商用EVで最大の課題であり、障壁とさえ思われてきた原価低減を、ASFやHWエレクトロは中国生産で乗り越えた。それでも、リチウムイオンバッテリーの事故(加熱や膨張、最悪の場合は火災)などに対する不安が残るかもしれない。

もちろん、リチウムイオンバッテリーの品質や耐久性は大切だが、製品化のカギを握るのは制御だ。米国のテスラは市販のラップトップPCで使われるパナソニック製の汎用リチウムイオンバッテリーを使い、それに制御を加えることで、高電圧なクルマでも安全に利用できるようにした。

ガソリンエンジンのように各部品を精密に作り、品質を管理し、そのうえでガソリンの混合気を制御し、完全燃焼をも制御するような複雑さはEVにない。バッテリーを安全に、より長持ちするように電流の充放電を監視し、過充電や過放電とならないように制御すれば、大トルクをいかした滑らかで力強いモーターの加速が得られる。減速では回生によりブレーキに多くを依存せず速度を落とせるうえ、減速エネルギーを回収してバッテリーに充電することもできる。
○軽商用EVの低価格化は可能か

制御こそがEVを制するといっていい。ただしそれは一朝一夕にはいかず、リチウムイオンバッテリーの特性に精通した人材が不可欠だ。また、クルマは急加速や急減速が必要な走行場面もあるので、そこでのバッテリーの温度管理も考えなければならない。30年近く前から、カリフォルニア州にはそうした知見に長けた人材がいた。これが、テスラが成功した理由のひとつだ。

バッテリーの専門家がいて初めて、EVの原価を視野に入れた製品化が叶う。そこにガソリンエンジン車の知見は通用しない。リチウムイオンバッテリーは機械ではなく、化学製品であるからだ。

そしてここにきて、最新情報が入った。最新のリチウムイオンバッテリーは耐久性が極めて高いため、廃車後のEVから取り外したものを性能別に区分けし、まだ十分な能力が残っているものについては、軽自動車用に二次利用できる可能性があるようなのだ。EVから取り外したバッテリーが二次利用できれば、軽EVの製造過程におけるバッテリー分のCO2排出量をゼロにできる。しかも、新品のバッテリーに比べれば、仕入れ原価は大幅に安くなる。軽商用EV実現への道は、さらに見通しがよくなったわけだ。

私は5年以上前から「100km100万円の軽商用EV」を考え、国内自動車メーカー各社へ提案して回った。それはまさしく、HWエレクトロの蕭社長が目指す「1km1万円」の軽商用EVと同じ発想だ。

その実現に際しては、軽商用EVの最良あるいは究極の姿として、省けるものは思い切って省き、はたらくクルマとして必要な装備は標準にするという商品づくりを構築すべきだ。ガソリンエンジンを積む従来型軽商用車の常識を一度捨て去り、ゼロから考え直す必要がある。

例えば車室内全体の空気を冷暖房するエアコンディショナーは、果たして必要なのか? ことに暖房においては、体を直接温めるシートヒーターやハンドルヒーターが適しているのではないだろうか。それらの消費電力は空調の1/10以下であり、一充電走行距離に対する影響も少ない。宅配業の人たちはひんぱんに乗降するので、体を直接快適にする装備で十分と考えられる。

軽商用EVトラックには4輪駆動が不可欠になる。田んぼのあぜ道などから通りへと荷物を満載して登り出るときに、4輪駆動が効果を発揮するのである。その4輪駆動も、乗用車で一般的なフルタイムである必要はなく、使う時だけ4輪駆動となる機械式のパートタイムでもよいのではないか。ミニキャブ・ミーブでパートタイム式4輪駆動への改造を考えた人があるが、装置を取り付けるゆとりが床下になく断念したとのことである。

ガソリンエンジンの軽商用車で常識化した性能や装備をそのままにEV化しようとすれば、積み上げ式に原価はかさむばかりだ。だが、EV専用の軽商用車を考えれば、ASFやHWエレクトロのようなビジネスも可能になると思う。

「電動化だけがカーボンニュートラルではない」などとはなから考えていると、いざ商品を出そうとしたとき、市場を失っているということになりかねないのではないか。CJPにはより積極的な軽EV戦略を期待したい。

御堀直嗣 みほりなおつぐ 1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。 この著者の記事一覧はこちら(御堀直嗣)
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