同級生と「保毛尾田保毛男」を笑っていた時には気づけなかったこと

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2021年07月27日 20:51  ウートピ

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作家のアルテイシアさんが発表した、新刊『モヤる言葉、ヤバイ人 自尊心を削る人から心を守る「言葉の護身術」』(大和書房)。ハラスメントの嵐が吹き荒れる、何とも生きづらい“ヘルジャパン”を生き抜く実用書をつくりたい──。そんな願いを込めて、(中森)明菜返し・エジソン返しなどあらゆるシチュエーションに対処しうる「言葉の護身術」がユニークに綴られています。

そのアルテイシアさんが対談相手に指名したのは、YouTubeをはじめSNSで政治や社会問題に鋭く斬り込んでいく「せやろがいおじさん」こと、芸人の榎森耕助さん。「話題にしづらい問題をどうして取り上げるの?」をテーマにお話しいただく連載の第2回は、議論の際にふさわしい“態度”についてお聞きしました。

与えられた特権を享受するだけでなく、自覚的であれ

──せやろがいおじさんは、発信を続けて出会った方から「男性優位の日本社会で男性は気づかないうちに特権を享受し、無意識のうちに女性を抑圧している」と教わったとおっしゃっていました。そう自覚することは、話しづらい問題を語る“態度”として重要ですね。

せやろがいおじさん(以下、せやろがい):はい。男女の賃金格差の実情や2018年に大きく取り上げられた医学部の不正入試問題などから、日本社会に生きる現代の男性は、権力勾配が自分に傾いていることに気づき始めています。ただ、そう自覚していてもやっぱり知らないうちに特権を享受していることはあって。以前、何かで「男性優位社会における特権は、魚にとっての水みたいなものだ」という例え話を聞きました。水の中にいることが自然な魚は水の存在に気づかないのと一緒で、男性優位社会にいる男性は自分に与えられた特権に気づかない、という意味なんですが……たしかにそうだな、と。

アルテイシア(以下、アル):オギャーと生まれた瞬間から男尊女卑に浸かっていると、そこに差別があることに気づけない。アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)ですよね。

アメリカで「ジョンとジェニファーの実験」というものがあって、まったく同じ履歴書を名前だけ変えて送ったら、ジェニファー(女性)よりジョン(男性)の方が高い評価と年収を提示されたという結果が出ました。これがわかりやすい「下駄」ですよね。世の中には「俺は下駄を脱ぎたくない!」という男性もいるでしょう。でも、せやろがいさんのように女性差別にノーを言う男性もいっぱいいる。そういう人たちとは連帯できると思います。

せやろがい:だといいんですけどね。ジェンダー問題を発信していると、まれに「あなたのしていることは、女性の言うことにただ頷いて金をもらうビジネスに見える」「フェミニズムを語る男性が評価されるのはおかしい」と言われることもあって。

アル:ひでえな!

せやろがい:とても傷ついたけど100%否定できないし、するつもりもありません。ただ、この言葉をブレーキにしようとは思いました。

アル:たとえばジェニファーがジョンに「性別なんて関係ないよ」と言われたら「それはあなたが性別で差別されずにすむからだよね」と思いますよね。そうやって差別されずにすむことが特権なんだと。それをジョン側がちゃんと考えて発言することが大切ですよね。

──ブレーキは大切ですよね。「よく言ってくれた!」「弱者の味方」と褒められて気持ちよくなってしまった結果、自分の言葉に恐れを持たなくなってしまう人も中には現れそう。

せやろがい:そうなんですよね。ジェンダー問題をよく発信している文筆家の清田隆之さん(桃山商事)と二人でお話しすると、必ず最後に「ジェンダー優等生である男性として優越感に浸って、独りよがりな満足をしないようにしましょう」って話になって終わります。

アル:それは実際に気持ちよくなってる男性や、ドヤってイキってる男性に対して怒ればいいんですよ。そうじゃないのに「どうせ自己満足でしょ」と切り捨てるのは、男性に対する決めつけですよ。

私はフェミニズムを火中の栗にしたくないんですね。「火傷しそうやから近寄らんとこ」と男性が沈黙したら、世の中は変わらないから。だから男性にもどんどん声をあげてほしい。

せやろがい:たしかに、そうですよね。

アル:女性差別に声を上げる男性を叩いて口を塞ごうとするのは、不毛ですよね。それで誰が得をするの?と考えてほしい。友人の兄が「男尊女卑丸」というあだ名だったんですけど……。

せやろがい:どないな振る舞いしたらそんなあだ名つくんですか?(笑)

アル:呼吸するように「女のくせに」とか言う人だったんです(笑)。でも娘が二人産まれて子育てする中で、医学部の不正入試にもバチボコに怒っていたらしい。「こんな性差別は許せない、日本を変えなきゃ!」って。超手のひら返しだけど、そんな手のひらはどんどん返してほしいです。そういう男性が多数派になれば、オセロみたいに世界をひっくり返せるから。

自分も含め「偏見がない人はいない」

──アンコンシャスバイアスを自覚しながら発信するには、どうしたらよいと思いますか?

アル:「偏見がまったくない人はいない」と自覚することですよね。たとえば私も新入社員の時に「○○ちゃんは女子だけど、同期で一番優秀なんだよ」とか、うっかり言ってたんです。

せやろがい:「男子なのに一番優秀なんだよ」は聞かないですね。

アル:そうなの。この男尊女卑アレルギーの私の中にも「女は男より劣っている」というアンコンシャスバイアスがあった。ヘルジャパンで男尊女卑をインストールしてない人って、男女ともにいないと思うんですよ。

せやろがい:アルテイシアさんの新刊にも、女王蜂の「クインビー症候群」が登場しますよね。男性優位社会で地位を獲得した女性が「あなたも苦労しなさいよ」と言って後輩や部下に厳しくあたり、ハラスメントを温存し加担する側にまわってしまう。これも前提や背景にまつわる問題ですよね。

アル:謝罪のテンプレで「差別する意図はなかった」と言うけど、そちらに踏むつもりがなくても、踏まれた側は痛いんだよ!って話ですよね。じゃあなんで意図していないのに踏んでしまったのか・うっかり言ってしまったのか…それを自分と向き合って考えて、差別の構造を学べばいいですよね。

──せやろがいさんにも同じ質問です。自分の持っている特権を自覚しながら声を上げるコツは何だと思いますか?

せやろがい:人は強者であり弱者でもある、という視点を持って発言することでしょうか。ジェンダー問題なら男性は特権を享受し女性は抑圧されるって構造があるけれど、世の中にはもっといろんな課題がありますよね。たとえば人種差別だと、在日外国人はマイノリティーで日本人の方が強い。となれば、社会問題によって「特権を享受する側」「抑圧される側」という構造はどんどん変わっていきますよね?

アル:そうですね。性別でいうと、私は女性だから男性より弱者の立場だけど、シスヘテロって観点でいうとセクシャリティ的にはマジョリティ側にいる。人は自分のもつ特権には気づきにくいからこそ、ちゃんと意識することが大事ですよね。

せやろがい:この件に関しては特権を享受しているけど、別の問題ではマイノリティーってことは普通に起こりうる。だとしたら、社会問題を語る時は「自分は○○側の人間」と立場をハッキリさせてから臨んだ方が摩擦は起こりづらくなる気がします。日本人は曖昧をよしとする国民性だけれど、そういったことに慣れていかないと何でも腹を割って話しづらくなってしまうんじゃないかと思いますね。

アル:新刊『モヤる言葉、ヤバイ人』にも、自分が過去にいかにやらかしてきたか書きました。たとえば中学生の私は「保毛尾田保毛男」のモノマネをして同級生と笑っていた。当時はこの教室の中にもセクシャリティに悩む人がいるかも知れない、と想像できなかった。でも今は絶対笑えないし、それがいかに差別的かよくわかる。それは差別の現実を知ったから、当事者が声を上げてくれたからですよね。だから当事者の声を封じることは絶対にしちゃいけない!と法螺貝を吹いてます。

(聞き手・編集:安次富陽子、構成:岡山朋代)

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  • 男性優位?ふんどし姿でふざける男に言われてもな。ただ、そういう質の「笑い」って何だろうなとは思う。子供の頃から、ずっと疑問だったよ。
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