ライバルのスズキとダイハツがトヨタ商用車連合に参加した理由

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2021年07月29日 11:32  マイナビニュース

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スズキとダイハツ工業は、トヨタ自動車を核とする商用車の次世代技術共同開発会社「コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジー」(CJPT)に出資し、軽商用車におけるCASE技術の協業を進めることになった。軽自動車と小型車でライバル関係にある2社は、なぜ協業に舵を切ったのだろうか。

スズキとダイハツは、2021年4月にトヨタ、日野自動車、いすゞ自動車の3社が設立したCJPTに出資・参画することで、軽商用車におけるCASE技術(電動化、自動運転、コネクティッド、シェアリング)の協業を推進する。

軽自動車市場のトップ争いでしのぎを削るスズキとダイハツが、CASE時代を生き残るため手を組むことは注目すべき動きだ。軽自動車という日本固有のエントリーカー市場において、スズキとダイハツは販売シェアの首位を競い、この市場を引っ張ってきた経緯がある。

このうちダイハツは、2016年にトヨタの100%子会社となり、今ではトヨタグループの軽自動車を担う位置づけとなっている。一方のスズキは、カリスマ経営者の鈴木修前会長が長きにわたりトップを務め、独自の経営戦略のもとビジネスを進めてきた。つまり、スズキとダイハツは“軽自動車における永遠のライバル”と見られてきたのだ。その両社が軽商用車のCASE技術で手を組む。

○スズキの生き残り策はトヨタとの連携だった?

「100年に一度の大変革時代」の到来は、自動車メーカー各社の経営方針に大きな影響を与えた。CASE技術に対応するための開発投資は重く、各社が単独で生き残ることは難しいのが実態だ。

“ポスト鈴木修”に向け、スズキの鈴木修前会長が下した判断は、トヨタとの連携によるCASE時代の生き残り策だった。いうまでもなく、鈴木修前会長はスズキ中興の祖であり、国内ではダイハツとトップを争いながらスズキを軽自動車のリーダーに育て上げ、海外ではインドで断トツのシェアを確立させた。

6月末にスズキの代表取締役会長を辞し、経営の第一線から退いた鈴木修相談役は、トヨタとの連携を“置き土産”としたのだ。

2016年に業務提携の検討を開始して以来、スズキとトヨタはゆっくりだが着実にその距離を縮めてきた。2017年には、スズキがインドで投入する電気自動車(EV)に対してトヨタが技術支援し、同じクルマをトヨタブランドでも販売する協業を決定。2018年には小型エンジンやハイブリッドシステムでの協業に加え、トヨタのインド工場でのスズキ車両の相互供給を発表している。このほかに、トヨタハイブリッドシステムのスズキへの供給やOEM(相手先ブランド)供給の対象車種・地域拡大なども決めている。

業務提携の具体化が進む中、スズキは2019年8月にトヨタとの資本提携に踏み込んだ。両社5%の相互出資となり、CASE分野での相互補完の体制が確立されたのだ。

トヨタを核とするCJPTへの参画を決め、豊田章男トヨタ社長および奥平総一郎ダイハツ社長とともに会見に臨んだ鈴木俊宏スズキ社長は、「軽自動車を守るのが我々の使命。鈴木修相談役の軽自動車への思いのバトンを未来につなげていくためにも、同じ目的でダイハツとも協業し、日本のライフラインを一緒に守っていきたい」と決断の理由を語った。
○トヨタも軽を重視、廉価のCASE対応軽が誕生?

同じ会見で豊田社長は、軽自動車を重視しているとしたうえで、スズキとダイハツがJCPTに参画する意義を強調。「日本の保有台数7,800万台のうち軽自動車は3,100万台を占め、地方では全体の80%に達する地域もある。軽自動車は『日本の道が作った国民車』として進化してきた。軽商用車も日本になくてはならないクルマとなっている。カーボンニュートラルも、軽自動車なくしては実現できない。トヨタのCASE技術を活用し、スズキ・ダイハツと協業して軽ユーザーへの対応を進めていく」とし、個社の枠を超えて軽自動車のCASE対応を図っていく姿勢を鮮明にした。

奥平社長は軽商用車のカーボンニュートラル・CASE対応について、「廉価な軽」の特性を継続していくのが軽自動車メーカーの責任であるとした。CJPTでの協業内容については、コネクティッド技術でラストワンマイル配送の軽商用車とトラック輸送をつなげることによりユーザー対応が進むこと、軽商用車領域における価格を抑えた電動化の促進、先進安全技術での協力を挙げた。

軽自動車でカーボンニュートラル・CASEに対応するのは、単独では難しいというのがスズキとダイハツの共通認識だ。市場では競合関係にあるが、CASE時代の生き残りには協業が不可欠だと互いに身にしみているのだろう。

これにより、トヨタの社内カンパニーであるCV(商用車)カンパニーが核となり、いすゞと日野を加えて4月に設立したCJPTは、新たにスズキとダイハツの軽自動車2社を巻き込み、「CASE対応商用車連合」として規模を拡大した。

軽自動車にとって、EV開発などの電動化や自動運転技術の導入はコスト面での課題が大きい。それだけに、トヨタを中心とするグループの役割りは大きいし、その成果が期待される。
○軽EV競争が激化! 新興国では生き残りのカギに?

欧州連合(EU)が2035年にガソリン車の販売を事実上禁止する方針を打ち出すなど、世界の趨勢は各国政府によるEVへの傾斜が鮮明になり、その動きは加速の一途をたどっている。欧米メーカーだけでなく、中国勢もEVを競争力強化の柱に据え始めた。ASEANやインドなどの新興国市場では、中国や韓国のメーカーがEVで先手を取ろうと積極的な動きを示している。

一方の日本では、日産自動車/三菱自動車工業連合が共同で新型軽EVを開発し、2022年に発売するとの計画を明らかにしている。ホンダでは、軽EVを2024年に発売すると三部新社長が表明した。また、宅配大手の佐川急便は、ベンチャー企業と手を組んで軽EVを開発し、2022年秋にも宅配用として使用を始めるとしている。

今回、トヨタの商用車連合にスズキとダイハツが加わり、軽商用EVの開発で協業が進むことになったが、この動きは商用車に限らず、乗用EVにも広がることになりそうだ。

軽自動車EVの開発では、いかに価格を押さえ込めるかがカギになるが、この技術をいかせば、海外でも軽ベースEVを展開していけるかもしれない。スズキは2025年までに、インドで軽ベースかつ100万円台の小型EVを投入する方針。スズキが軽EVで得意とするインド市場を攻略する一方で、ダイハツは得意市場のマレーシア、インドネシアに共同開発の軽ベース小型EVを投入する。両社の協業からは、こんな展開も期待できるのではないだろうか。

佃義夫 1970年に日刊自動車新聞社入社、編集局に配属となる。編集局長、取締役、常務、専務、主筆(編集・出版総括)を歴任し、同社代表取締役社長に就任。2014年6月の退任後は佃モビリティ総研代表として執筆や講演活動などを行う。『NEXT MOBILITY』主筆、東京オートサロン実行委員なども務める。主な著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)、「この激動期、トヨタだけがなぜ大増益なのか」(すばる舎)など。 この著者の記事一覧はこちら(佃義夫)
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