老若男女問わず「災害情報」を届けたい! 川崎市が取り組む危機管理のあり方

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2021年07月30日 10:01  マイナビニュース

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地震のみならず、台風、水害など、毎年のように見舞われる大災害。"備えあれば憂いなし"という言葉のとおり、事前の準備や心構え次第で被害やリスクは抑えることができることもある。

大規模な災害に備え、神奈川県川崎市では、2009年から「川崎市総合防災情報システム」を運用するなど、ICTを活用した防災活動に力を入れている。

その手段は、メールマガジン「メールニュースかわさき『防災気象情報』」をはじめ、川崎市インターネット地図情報システム「ガイドマップかわさき」など多岐にわたり、2012年からは「川崎市の公式アカウントとは別に危機管理室の公式アカウントも取得して、Twitterで防災により特化した情報提供も行っています」とのことだ。

○川崎市によるICTでの災害情報提供

ICTを活用したマルチな情報配信に川崎市がこれほどまでに力を入れているのには、さまざまな理由や事情がある。川崎市総務企画局 危機管理室 災害システム担当係長の岡島豊氏は次のように説明した。

「東京都と横浜市の間に位置する川崎市は、人の往来が激しく、昼間と夜間人口が入れ替わる都市です。そんな中、いつ発生するとも分からない災害の情報を、あらゆる層にくまなく届けなければなりません」

昨今では、特に若い世代や子育て世代に市からの情報が届きにくいという課題もあるという。

「災害に関する情報は市が発行する広報紙でも提供していますが、新聞折り込みや町会経由での配布が中心です。以前に比べると、新聞を契約する世帯や町会の加入率も減少しており、ICTによる情報提供はいまや不可欠です。ただ、 情報はウェブで検索すれば得られますが、自発的な行動が必要になります。そこで、2017年からは若い世代向けのタブロイド判の防災啓発媒体を年1回発行するなど、プル型のICT媒体、プッシュ型の紙媒体をうまく組み合わせた情報発信に努めています」
○川崎市総合防災情報システムの再構築

今年2021年4月には「川崎市総合防災情報システム」の再構築が行われた。防災用Webサイト「川崎防災ポータルサイト」の開設や、「かわさき防災アプリ」の提供が新たに開始されるなどシステムを刷新し、防災情報の発信体制がさらに強化されている。

アプリの提供は、以前から「かわさき防災アプリ」という市全体のものが存在していたが、「ICT系の部署で運用しているため、危機管理部門の立場から見ると少し情報が不足していると感じる部分もあり、今回の防災システムの再構築に合わせてその一体として開発しました。ポータルサイトやアプリは、クリック、タップの3操作以内に欲しい情報にたどり着けるよう構成を見直すなどインターフェースも向上させています」と岡島氏。

アプリのメリットは、システムとの連携がしやすく便利な機能を提供できることだ。

「反面、事前にインストールする必要があり、利用のハードルが高くなります。一方、Twitterは拡散力があるのが利点。メディアや情報発信の形態によってそれぞれ特性があり、市としてはさまざまな形態でフォローをしていきたい」と話す。

○被災者生活再建支援システムが導入

4月からはNTT東日本が提供している「被災者生活再建支援システム」も新たに導入された。

災害発生に伴う、建物被害認定調査から調査結果のデータ化、罹災証明書の発行、生活再建支援といった自治体が行う一連の業務を、タブレットやGPS・クラウドなどのICTによりデジタル化を行い、被災者の速やかな生活再建や自治体職員の業務軽減を図るためのサービスだ。

「2016年の熊本地震では、川崎市として避難所運営支援に加えて、建物被害認定調査と罹災証明発行支援についても職員派遣を行いました。その際に建物被害認定を担当した税務職員が、NTT東日本の被災者生活再建支援システムに触れ、調査票の迅速なデータ化など優れた機能を有していると感じたことから本市でも導入に向けて検討を行いました。しかし、当時はオンプレミス方式でのサービス提供で、金額面などから導入は見送られました」

ところが、その後の2019年、東日本台風で川崎市は浸水被害に見舞われた。これに伴い、約3,000件の罹災証明書を発行したという。

「ローラー作戦などにより、建物被害認定調査については、被災自治体の中では比較的早期に罹災証明書発行にこぎ着けることができました。1週間で処理したのは2,000件ぐらい。Excelで1件ずつ入力しましたが、初期の被害申請のデータベース化に特に苦労しました」と振り返る。

一方、将来発生する可能性がある、川崎市を震源とする直下型地震では、約7万棟が全壊・半壊という想定がなされている。

「最終的にはトータルで3,000件となり、現場力でなんとかできたものの、これまでのやり方では対応できないと実感しました。そこで改めて被災者生活再建支援システムの導入を検討したところ、前回の検討時とは異なり、クラウド型のLGWAN-ASP方式によるサービス提供が開始され、初期費用を1/10程度に抑えて導入できる見込みが立ち、導入する運びとなりました」

システムの導入以降、現在は運用段階にある。「運用設計についてはまだまだこれからという認識です。職員研修を継続的に行って職員のレベルアップを図り、ブラッシュアップしていきたいと考えています」と岡島氏。
○NTT東日本によるサポート

既に240近い自治体の導入実績がある同システムだが、導入のみならず、強みは「被災自治体に実際に立ち会って運用面での支援を行ったNTT東日本のスタッフが培った数々のノウハウを有している点」と話す。

「被害認定のところでも、専門家の派遣をNTT東日本さんにお願いしています。システムはそれ自体が目的ではなく、手段にすぎません」と岡島氏。

導入を担当する、NTT東日本 神奈川事業部 ビジネスイノベーション部第二テクニカルソリューション担当主査の長島潤嗣氏は、「罹災証明書発⾏に関する運営ノウハウだけでなく、受付の体制や現場の対応についても、これまでに被災⾃治体と⼀体となって⽀援した経験で得たノウハウをもとに、提案から運⽤まで⽀援を⾏っています。災害対応と⾔うと、以前は地震を想定するものが多かったのですが、近年頻発する⾵⽔害を想定した対応も強化し、より充実したサポートをしていきたいと思っています」と付け加えた。

導入自治体の情報共有や意見交換の場の提供もNTTが主体となってサポートを行っているという。

同じく導入を担当した、NTT東日本 ビジネスイノベーション本部テクニカルソリューション部 安部翔吾氏によると、「同じような研修を全国で実施しています。年に1回ユーザー会を開催して、自治体さんどうしの情報共有やNTT東日本の持っているノウハウの提供なども行っています」とのことだ。

岡島氏は、システムの導入によって思わぬ面で利点がもたらされたと言う。

「導入にあたって、住民情報を持っている部署と課税の部署とで接点を持てたことです。縦割りの組織である行政というのはどうしても他の部署との連携が難しいのですが、危機管理というのは水平に横断して取り組まなければならないものです。今回、システムを入れようということが契機となり、同じ問題意識を持ちながら課題を整理したりすることができ、横断的に取り組めたことがよかったです」
○防災の考えは三助が基本

一方、システムの導入による効果は、災害対策という性質上、すぐに分かるものではない。岡島氏は、「罹災証明書は災害が発生してから発行するものです。したがって、使われるかどうかわからないシステムですが、リスクに備えて導入しているものです。できれば使われないほうがいいですね」と、笑みを浮かべながら本音を語った。

防災に対する昨今の考え方は、「自助」「互助」「共助」の三助が基本となる。

「最近は、例えば最初の3日間は自身でなるべくなんとかしてくださいとか、行政側もできないことはできないと言っていこうという流れがあります」と岡島氏。

そのうえで、「そんな風潮の中でも市民の方には正しく恐れていただきたい。平時のタイミングで行政側からしっかりと情報を提供し、ふだんから防災意識を高めて備えていただく。正しく恐れていただくための施策を市ではこれからも努力して行っていきたいと考えています。リアルタイムで混雑状況を情報提供して空いている避難所に誘導するなど、そうした方法もその一つです。今後もICTを積極的に採り入れて、対策の向上を図っていきたいと思います」と今後の抱負を語った。(神野恵美)

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  • 大規模な停電と、インフラの破壊までは考えてません!……ですな
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