熱海市の土石流災害から見えた、テクノロジーと災害対策 VR空間で視察して分かったこと

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2021年07月30日 15:22  ITmedia NEWS

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写真物差しも設置
物差しも設置

 静岡県熱海市で起きた土石流災害は現在も検証が進められているが、3Dデータなどを使った可視化の取り組みがいち早く有志により行われていることもニュースになった。いったいどのようなことがそこから分かるのか、または分からないのか、VRコミュニケーションサービス「VRChat」内で識者に話を聞いてきた。



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 近年、日本では甚大な自然災害が続いている。川の氾濫、堤防の決壊だけではない。地震や集中豪雨により地盤が緩むことで起きる地すべり、急傾斜地の崩壊、土石流も、注視しなければならない災害だ。



 2021年7月3日に起きた熱海市の土石流災害は、大雨が降り続いたことにより伊豆山の斜面が流れ落ちたと推定されていた。その後、土砂が流れ出した起点には盛り土がされていたことが判明。静岡県が専門家らによる委員会を設置して原因究明に当たるとされている。



 静岡県は災害直後にドローンで起点地域を撮影した。当時はまだ本州地域に雨が降り注いでおり、現地に足を踏み入れての視察が難しかったはず。ドローンはダムやトンネル、鉄塔に橋といった大型インフラの老朽化点検システムの目として注目が高まっているが、災害調査・被害確認においても有効だ。



 静岡県は翌日の4日、録画した1分ほどの動画データを公開した。報道各社がYouTubeなどで現地の動画を配信し、一般市民にも現地の様子が見られるようになった。5日には静岡県が公開した動画データを元にした3Dモデル「Atami Izusan Landslide 20210703」をYusuke Suzukiさん(@Y_Suzuki)が作成し、3Dモデルデータ共有サイト「Sketchfab」に投稿した。



 Yusuke Suzukiさんは「ここが再び大きく崩れて二次災害が起こったりしてほしくありませんので、何かしら専門家のみなさんの参考になれば」とコメントし、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスに基づいてのシェア・二次利用を許可。さらに同日、turuboxさん(@turubox)が、Yusuke Suzukiさんが作成したデータを元に作り上げたVRChatワールド「Atami Izusan Landslide 20210703(伊豆山土石流災害 崩壊地)」を公開した。



 静岡県はもともとドローンや地上レーザースキャナーによる3次元測量、点群データのオンラインプレビュー、マシンコントロール技術などを導入したICT建設機械による施工など、ICTを活用する工事を推進してきた自治体だ。また、自治体で計測したデータをG空間情報センターで公開することで、無償での二次利用にも対応してきた。



 そういった背景があってか、災害後すぐに有志による静岡点群サポートチームが発足。日本経済新聞の記事によれば、地質学やデータ分析の専門知識を持つ産官学のメンバーが集い、技術・知見を持ち寄って高精度な情報を発信してきた。私見だが、災害発生後の推測はともかくデマが少ないと感じたのは、彼らの活動が寄与していることが背景にあるのではないか。



 気象学・気候学が専門の研究者でITmediaでも執筆する作家兼ブロガーも堀正岳さんも、3Dソフト「Blender」を用いてYusuke SuzukiさんのデータをVR空間内に設置した1人だ。えぐれた地形の大きさ、流れた土石の量が把握しやすいように、20mの高さの物差しも設置したという。



 土石流の起点になったとみられる場所から見上げる。地肌の色から、土砂や石、岩が大きくえぐれて流れてことがうかがえる。



 VRヘッドセットをかぶり、VRChatで堀さんと合流し、堀さんが作成した伊豆山のワールドを案内してもらいながらVR視察をしてみると、眼前にあるのは険しい崖だった。



 飛行可能なアバターを用いて、鳥瞰(ちょうかん)視点で現場を見る。分かりづらいかもしれないが、右側にある住居もしくは倉庫などの建造物を比べると、崩落の規模が理解しやすい。



 「私は防災や地形学が専門ではありませんが、こうしてVR空間で現場をみるだけで、すでに多くの専門家が空撮やメッシュデータを活用して指摘している災害の実像がリアリティーをもって迫ってきます。例えば崩壊の起点部が大きくラッパ状に広がってえぐれているのは、盛り土の影響があったのではないかと指摘されていますが、谷底から見上げることでその規模が分かります。この場所から市街地まで土砂は11度(約19%)の勾配を勢いを衰えさせることなく一気に流れ落ちたのですが、その傾斜の大きさもVRで歩いてみることで分かりますね」と堀さん。



 上部の道路が残った辺りから現場を見る。VRならば二次災害の危険性がなく、現場をつぶさに見ることができる。



 集落のあるあたりと地表の色が違う、谷となった部分にあった土や岩、木々が流れ落ちたのか。圧倒的な物量の土砂が滑り落ちたことに絶望する。



 「起点部に立ってみると分かりやすいのですが、高さ20mの物差しを立てても、災害前に地表だった位置までは届きません。もともと長い時間をかけて生まれた谷の地形の上に、さらに盛土がされたことで不安定な状態になっていた可能性が、VRでみた崩壊の爪痕をみることでも推測できます。具体的な原因究明は静岡県主導の調査を待たねばなりませんが、実際に歩くことができない現場を空撮だけでなく、こうしてVRで調査することも今後は1つの手法になるかもしれないと、今回の作業をしてみて感じました」(堀さん)



 気になる場所に移動して、360度、どの方向を見ることもできる。VRヘッドセットを用いて、VR空間内にある災害地を見る・歩くことは、災害に対する大きな学びとなると感じる。



 「VRは二次災害の危険性があるために現地入りできない状態でも、直感的に視察できます。地形学の専門家や土木事業者がワールドの中に集まってVR視察をしながら知見を持ち寄ることで、少しずついろんなピースが集まっていくものでもあると考えます。写真、動画とともに、専門家にとっての新しい調査システムとなりうるものといえます」(堀さん)



●ハザードマップで知る住居地の危険性



 日本古来の災害地は、地名でその危険性を示していた。水害が多い地域は「川」「池」「浜」「洲」という文字が、土砂災害の多い地域は「蛇」「竜」「龍」を使った地名がつけられていたことが多かった。現在は地名が変えられた地域も多いが、ハザードマップを見ればどのような危険性がある土地なのかを把握できる。



 全国各地のハザードマップを地図と重ねて見ることができる「重ねるハザードマップ」で調べると、日本の山地の多くが土砂流危険渓流地域となっていることが分かる。別の渓流であっても土砂災害警戒区の土石流・急傾斜地の崩壊地域として指定されている場所が多い。もとより山は崩れるもの、川は流れるものといわんばかりだ。



 今回の熱海市の土石流災害が起きた起点から海にかけての地域も、土砂流危険渓流地域・地すべり危険箇所・土石流警戒区域として記されていた。



 ただし危険度の高さは分かっていても、いつどこが崩れるのかという予測は現時点で極めて難しい。



 「雨は予測できているけども、土砂は難しい。せめて30分前とかに確度の高い土砂警報が出せれば何百人という人が助かるのに、現時点ではそれができないんですよね」(堀さん)



 日本には、気象庁が持つ全国約690カ所の地震計・震度計と、国立研究開発法人防災科学技術研究所が持つ全国約1000カ所の地震観測網によって、いち早く地震の発生を察知して市民に情報を伝える緊急地震速報がある。同様の技術を山の災害対策に使うことは考えられないだろうか。



 「土石流の発生する兆候をさまざまな形でモニターして警報に活用するという研究はすでに行われています。渓流の砂をモニターするといった直接的な方法から、SNSをモニターして地鳴りや地響きに関連した投稿を瞬時に集めて早期警戒に応用するといった方法まで、多くの専門家がさまざまな方向性で取り組んでいます。かつて海底地震計を使った緊急地震速報が夢だったように、ある程度のリードタイムをもった土石流の警報だって、未来には可能かもしれませんね」と堀さん。



 さまざまなツールを使って情報を集めて、現象を正確に理解することを通して次の災害を防ぐ。専門家は誰しも、その知見をためることをこれからも進めていくという。そして技術の進歩によって、いつしかこういった防災対策が現実のものとなるのかもしれない。



 それまでは、山地近くに住んでいるなら、大雨警報が出たら念のためにでも避難しておくという考えが普及することを願うばかりだ



(武者良太)


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