運命を信じるきみと、運命を信じない僕が恋をする確率は――涙腺が決壊すること必至の宇宙と恋の物語

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2021年07月30日 17:41  ダ・ヴィンチニュース

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ダ・ヴィンチニュース

写真『僕がきみと出会って恋をする確率』(吉月生/メディアワークス文庫/KADOKAWA)
『僕がきみと出会って恋をする確率』(吉月生/メディアワークス文庫/KADOKAWA)

「一目惚れしました。君は私の運命の人です」

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 と、下駄箱に入っていたラブレター。戸惑う高1男子、久遠の前に現れたのは、見知らぬ同学年の女の子、いのりだった。いのりの積極的なアプローチで、なし崩し的に付き合う状態となり、平穏だった久遠の日々はかき乱される。明るい笑顔の下に時折孤独を感じさせるいのりに、じょじょに惹かれていく久遠。しかし彼女は殺人事件に巻き込まれ、忽然と姿を消してしまう――。

“運命”という言葉に、反発を感じる人は多いかもしれない。自分の身に起こる幸いや不幸、苦楽などの巡り合わせを「運命だから」と受けとめることは実際、難しいだろう。特にそれが苦しいものである場合は。

『僕がきみと出会って恋をする確率』(吉月生/メディアワークス文庫/KADOKAWA)の主人公・久遠はそんな“運命否定主義者”だ。10歳の頃に両親を交通事故で亡くし、自分だけ生き残った背景を持つ彼は、ずっと孤独に生きてきた。祖母の遺した小さな家にひとりで暮らし、心を許せる人は誰もいない。淋しさを紛らわせるものといえば星を見ることと、宇宙に思いを馳せることだけ。久遠のそうした日常を、いのりは一転させる。

 溌剌として人気者で、一目惚れも運命も強く信じているいのりは、久遠とはまるで正反対の人間だ。偶然にもいのりもまた宇宙に興味を持っていて、自分の属する「宇宙部」に彼を勧誘する。

 アニキ肌のやさしい辰巳先輩。居眠りしてばかりの猫好きヤンキー、雨宮。そしていのり。3人の個性的な部員たちと天体観測をはじめ、ロマンチックな蛍観賞、そして部活動テッパンのイベントであるお泊り会など、久遠はさまざまな体験をしていく。この細やかな部活動描写がなんとも楽しく微笑ましい。

 印象的な場面のひとつに、久遠といのりが運命について問答するシーンがある。「運命の人の定義って?」と問う彼に、いのりは答える。

「……死ぬ時、最後に思い出す人じゃないかな」

 やがて、天真らんまんないのりが実は、自分と同じくらいの孤独を抱えていることに気づく久遠。気づいたことで彼の中の恋心が発動し、だがその矢先に不可解な殺人事件が起きてしまう。いのりの家で若い男性の遺体が発見され、彼女は行方不明となる。いのりが殺したのだろうか? それとも……。

 中盤以降は、消えたいのりを懸命に捜す久遠の姿が描かれる。いのりとかつて交わしたやり取りを思い出しながら、少しずつ事件の真相に近づいてゆく久遠。その過程で、自分の知らなかったいのりの秘密を知っていき、ますます彼女を好きになる。

 作者の吉月生さんの前作『今夜F時、二人の君がいる駅へ。』(メディアワークス文庫)は、物理学的考証に基づいたSFラブスト―リー。そして本作では、「トンネル効果」や「シュレーディンガーの猫」「多元宇宙」といった量子力学の理論が随所に登場。物語にSF&ミステリー的な深みを与えている。

 すべての謎が解けた後で、久遠は運命に対する自分の考え方を変える。この広大な宇宙でいのりと出会えたこと、彼女と恋ができたこと。それ自体にきっと何か、とても大きな意味があったのかもしれない……と。

 そんな境地に彼が到ったことが記される最終ページの最後の2行で、あなたの涙腺は決壊するに違いない。

文=皆川ちか

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