『機械じかけのマリー』に惹きつけられる理由 与えられた役割に真摯に向き合う2人の姿

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2021年07月31日 07:01  リアルサウンド

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『機械じかけのマリー(2)』

 「俺様キャラ」が私だけに見せる弱い姿があって欲しい……。


 そんな乙女の願いを叶えてくれるのが、あきもと明希さんの『機械じかけのマリー』(白泉社)だ。本作の導入は、以下のように始まる。


 偉い家の次期当主アーサーは「超」が付くほどの人間嫌い。幼い頃から 毒殺・暗殺・誘拐・監禁を幾度となく経験をし、極度の人間不信に陥り人格が破綻……(ついでに世間からも身を引いていった)。


 アーサーは人間が大嫌いで使用人も近くに近づけさせない。そんなアーサーは使用人のロイに言った。機械じかけのメイドが欲しい、と。しかしマンガ世界ではそこまで科学技術が発達していない。ロイは苦肉の策に出た。


 もうメイドは機械じかけってことで、生身の人間にやらせちゃおう!!!


関連:「LaLa」編集長が語る、45年の歴史と作家との関係性 「“これはLaLaらしい”と誰もが感じる作品を送り出していきたい」


■物語の鍵となるのは……


 さて、アーサーは典型的な「俺様キャラ」だが、彼の持つ背景は複雑だ。嘘をつく人間は許さない――。マリーはそんな彼の元、「ロボット」として働く。マリー、本当にそれでいいの? アーサーはマリーの嘘を許せるのか、それが物語の鍵になるだろう。


 主人公の少女より、少年の方がナイーブな側面を持っているマンガがある。


 高屋奈月『フルーツバスケット』、中条比紗也『花ざかりの君たちへ』、葉鳥ビスコ『桜蘭高校ホスト部』、藤原ヒロ『会長はメイド様』……。それは白泉社の少女マンガ作品に受け継がれているものだ。


 『機械じかけのマリー』もまた少年(青年)の方が触れがたい背景を持っていて、その流れを汲む。そこで惹かれるのは、マリーの「メイド・ロボット」しての気高さと、そのいたいけさだ。


 マリーは元格闘家で、生まれつき表情が乏しい。そんな彼女が読者に愛しいと感じさせるのは与えられた役割を、キチンと演じ切ることを第一にしていることだろう。またその努力は小さなものであればあるほど、いじらしさを覚えさせる。また、アーサーも与えられた役割――次期名家の当主として、十二分なほどに働きを見せている。


 現代社会において、「働く」(「ロボット」はチェコ語で「強制労働」の意味を持つ「ロボタ」を語源にしているという説がある)ということについても、またマンガを読み進めるたびに深い考察が得れそうだ。


 マリーとアーサーのディスコミュニケーションもまた、読みどころのひとつ。


 マリーは「メイド・ロボット」として、またアーサーはマリーを溺愛する者として、さまざまな場面で、互いに優先順位が違う。少女マンガの始まりは少年と少女のディスコミュニケーションから始まる。そのディスコミュニケーションを、どうやってお互いの意思が通じあうコミュニケーションにしていくのかも、また作家・あきもと亜希氏の手腕の見せ所だろう。


 2021年7月現在で2巻まで出版されている。ふたりが少しずつ距離を詰めていく姿を――それは多くのひとが「甘酸っぱい」として、褒め称えるものだ――見守っていきたい。


 マリーは自分の気持ちを隠し、嘘をつき続けられるのか? アーサーはマリーの嘘を許せるのか? さまざまな問題がマリーとアーサーの前に課題として残っている。


 意地悪な読者としての私は、「簡単に、安易にカップルになられては困る」と思っている。どのように課題をドラマティックに解決していくか、今後の展開が楽しみなマンガであることは間違いない。


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