菅首相の素顔に迫る映画『パンケーキを毒見する』がゾッとしながら笑える理由

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2021年07月31日 10:02  日刊サイゾー

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写真©2021『パンケーキを毒見する』製作委員会
©2021『パンケーキを毒見する』製作委員会

 2021年7月30日より、菅首相の素顔に迫った政治ドキュメンタリー映画『パンケーキを毒見する』が劇場公開される。

 まず、本作は今の政治のさまざまな問題について、「何となく知っている」もしくは「あまり興味がない」くらいのスタンスの方にこそおすすめしたい。そうした層に向けた視点が多く、そられが非常に「フェア」であり、なおかつ小難しさがない、「ゾッとしながら笑える」ブラックコメディ風味のエンターテインメントだったのだから。

 もちろん、新型コロナウイルス対策の不備や矛盾に怒りを覚えている人、自民党の政策そのものに疑問を感じている人など、大小はあれどに政治に関心の強い人にも観てほしい理由がある。そして、開催中の東京五輪を取り巻く空気に違和感を覚えてしまいがちな今こそ、「現状」を再確認するきっかけになるだろう。以下より映画のさらなる特徴を解説していこう。

取材NGのオンパレード

 この映画は、とにかく取材NGのオンパレードだったことから始まる。菅首相を慕うガネーシャの会の若手議員たち、元秘書や県議会議員、菅首相を知るマスコミや評論家、ホテルからスイーツのお店まで、取材はNGだったのだ。

 なぜスイーツのお店にまで取材を?と思われるかもしれないが、実は菅首相の「気さくな人柄」を示すため、パンケーキがさんざん重用されていたことがあるのだ。そのことは、古舘寛治のナレーションで「時の首相がかわいさアピールに頬張ったパンケーキ。就任早々、新聞記者たちを懇談会に招き、パンケーキを振る舞った。さざ心地よい口当たりに、ふんわりともスカスカとも言える中身だったのでは」と、皮肉たっぷりに表現される。

 映画本編は、それらの取材NGの嵐はなんのその、パンケーキでのかわいさアピールなんぞには全くごまかされない、「政治家としての菅義偉がこれまでどのようなことを行い、何を考えているのか」ということを、少数精鋭の有識者のインタビューから紐解いていく。『パンケーキを毒見する』という奇妙にも思えるタイトルは、実際に知って(食べて)みないとわからない(毒が入っているかもしれない)菅首相の「中身」を風刺した、秀逸なものだ。

『こち亀』を思い出すわかりやすい風刺アニメ

 メインは有識者のインタビューで構成されているものの、要所要所でクオリティの高いアニメーションが挿入されるとことも本作の大きな特徴だ。見た目は社会風刺を過激なギャグを交えて描くアニメ『サウスパーク』っぽくはあるが、そちらと違って下ネタはいっさいなく、子どもに見せても問題ない、それどころか「子ども向け」と言ってしまえるほどにわかりやすい内容になっていた。

 例えて言うのであれば、マンガ『こちら葛飾区亀有公園前派出所』において、部長が両津に世の中の仕組みについて「紙芝居」で教えるというシーンがあるのだが、本作のアニメのわかりやすさはそれに近い。初めの菅首相のコロナ対策を皮肉たっぷりに描いたアニメはまだしも、中盤の「小学生がウソばかりを公言する政治家のマネをして言い訳をする様」や、「羊(国民)がバタバタと倒れても全く平気な顔で良さげなことを言う羊飼い(政治家)」は親しみやすい絵面も合間ってNHKの教育アニメのような様相にまでなっていた。

 その風刺アニメの「わかりやすさ」そのものにも笑ってしまうが、同時にゾッともさせてくれる。もちろん風刺としての誇張はあるとは言え、子どもにもわかるくらいの異常さが今の日本の政治にはあるじゃないか、と心から思わせてくれるのだから。

 学術会議の調整問題に対する菅首相の質疑応答が、もはや「コント」レベルになっていることも強烈だ。実際に観てほしいので詳細は書かないでおくが、その受け答えはもはや質疑応答どころか会話になっておらず、日本共産党の小池晃議員からの真っ当なツッコミ、「矢印」付きのテロップの演出も含めて、滑稽すぎて笑ってしまうのである。

 反面ゾッとさせられるのは、その映像を解説する法政大学教授である上西充子氏による、「うんざりすることがある種の手法になっちゃっている」という指摘だ。上西氏は「政府(自民党)にとっては、国民が政治への関心を失ってくれて、投票率が低い方が、自分たちは安泰じゃないですか」とも語っているのである。

 このコントのような会議は実際に観ても、「どうしようもない」ほどの呆れムードになってしまうが、それも計算づくというか「それはそれで自分たちにはプラス」のつもりでやっているとしたら……なんと恐ろしいことだろうか。

「二面性」と「バクチ打ち」の面も描く

 菅首相の「二面性」を描いていることも特筆すべきだろう。というのも劇中で民主党の江田憲司議員は、「都会派で国民の思いが分かる政治家」と「金集めのうまい利権政治家」という2つの顔を併せ持っていると語っているからだ。

 その上で、官僚の反対を押し切って実施したふるさと納税、2013年のアルジェリア人質事件での政府専用機派遣など、大胆な政策を実現してきた菅氏の政治家としての力も提示されている。対象となる人物の悪いところをだけをあげつらうのではなく、支持を得た活動を語っていることは、ドキュメンタリーとしてフェアな作りだ。

 そして、「バクチ打ち」としての菅首相の姿も、この映画では暴いていく。個人の政治家としての躍進のために大胆な行動に打って出るのは結構だが、コロナ対策や東京五輪といった国民の生活に直接影響を与える政策にまで、一か八かのギャンブルをされたらたまったものではない。そのバクチ打ちぶりを、丁半(サイコロを使った賭博)で表現した演出も面白く、やはりゾッとしながら笑ってしまう。

 劇中では、近現代史研究者の辻田真佐憲氏は戦時中の「大本営発表」のデタラメぶりや「竹槍事件」の言論弾圧が今でも通じる問題であり、「ジャーナリズムの批判機能が損なわれた結果、起きた出来事はこんなにもデタラメになる」こと、そして「批判というのは社会の機能の維持のため、市民社会を建設的な状態にするために必要なこと」という言説も述べている。

 さらに終盤では、若者の投票率向上を目指している学生団体「ivote」のメンバーが登場し、なぜ今の若者は政治に関心がないのか、投票率が上がらないのかと、議論し合うというシーンがある。それぞれの意見は率直であるがゆえに「本当に今の若者はそうなのかも……」と強く思えるものだった。

 そして、この映画『パンケーキを毒見する』が公開されている今、世論調査で国民の6割超が中止または再延期を求めていたはずの東京五輪は、結局は開催されている。血の滲むような努力をしてきた選手たちを応援するのはやぶさかではないが、デルタ株の感染者の急増、そして東京都の新規感染者数が過去最多を記録し、コロナと関係なく猛暑やトライアスロンの問題もあるし……などと、いろいろな要素がないまぜになっており、簡単に割り切って考えられない、という方はきっと多いだろう。

 そのように今は様々な情報が錯綜しているがゆえに、「正しい情報を得て」「正しく批判する」ことが難しく、「周りもそうだから」と流されてしまいがちな時代であると、筆者は思う。だからこそ、この映画『パンケーキを毒見する』を観てほしい。ゾッとしながら笑える作品としての特徴そのものが、この時代に必要な強い危機感を抱かせてくれるのだから。

『パンケーキを毒見する』
企画・製作・エグゼクティブプロデューサー:河村光庸 
監督:内山雄人 
音楽:三浦良明 大山純(ストレイテナー) 
アニメーション:べんぴねこ 
ナレーター:古 寛治
2021年/日本映画/104分/カラー/ビスタ/ステレオ ©2021『パンケーキを毒見する』製作委員会
制作:テレビマンユニオン 配給:スターサンズ 配給協力:KADOKAWA  pancake-movie.co
配給:スターサンズ
7/30(金)より新宿ピカデリーほか全国公開
©2021『パンケーキを毒見する』製作委員会

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  • ◆進富座最新ニュース◆【緊急特別上映】 ドキュメンタリー映画 『パンケーキを毒見する』 第99代内閣総理大臣・菅義偉の素顔に迫った政治ドキュメンタリーhttp://shintomiza.whitesnow.jp/jouei/index.htm#pancake
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  • 監督した内山氏、古賀氏、前川氏、望月氏がこの映画を基に、今の菅政権、官僚、マスコミを含めたことを大トークしている。 https://youtu.be/m6wW3klWn7c凝縮特別映像https://www.youtube.com/watch?v=frcYRdWtE3w
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